今の会社で、一生働ける? 転職が当たり前の時代に「長く働きたい職場」とは
「この会社でずっと働ける気がしないんです」。キャリア相談の現場でそんな声を耳にすることが増えている、と語ってくれたのは、キャリア・コンサルタントの林碧先生。特に今まさに働き盛りの20〜30代の方から、こうした相談が多く寄せられているそうです。
マイナビ転職の『新入社員の意識調査(2024)』では、新入社員の3人に1人が「今の職場で長く働きたくない理由」として、「ライフステージに合わせて働き方を変えたい」と感じていることを理由に挙げています。
この先、結婚、出産、育児、介護、自身の体調やメンタルの変化など、仕事と私生活の両立が難しくなる場面がきっとやってくるでしょう。そう思えば、今の働き方のままでいいのだろうか……と考えるのはごく自然なことです。
とはいえ、転職は簡単な決断ではありません。エネルギーも必要ですし、思った通りに進むとは限らないもの。だからこそ、「この環境なら、長く働きたい」と思える職場に出会いたいものですよね。
特に20〜30代は、仕事に慣れて責任も増え、同時にライフイベントが訪れる可能性も高まる時期。選択肢が多いからこそ、迷いも深くなります。そんな時期だからこそ、「長く働ける職場とは何か?」を考えることには大きな意味があるのです。
そこで今回は、「長く働き続けるための職場選び」に必要な観点を、キャリア・コンサルタントの林碧先生に解説いただきます。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。
•“納得感”が、仕事を続ける力になる
•人間関係と職場の雰囲気が、働きやすさを左右する
•制度は「あるか」より「使えるか」が重要
•転職=絶対的な正解ではない。社内で変えていけることもある
•「すべてが揃った職場」を探すより、「自分にとっての優先順位」を知る
•最後に:変化があっても、キャリアは続いていく
“納得感”が、仕事を続ける力になる
人は「自分が納得して選んだ」と思えるとき、踏ん張る力が湧いてくるものです。どれだけ待遇がよくても、どれだけ条件が整っていても、心のどこかに「やっぱり違ったかも」という迷いがあると、モチベーションは長続きしません。
「納得感」は、目の前の仕事だけでなく、自分の人生全体と仕事との“接点”にこそ生まれます。
例えば「社会とつながっていたい」「自分の成長を感じたい」「チームで成果を出すのが好き」など、働く意味や価値観は人それぞれです。そして、自分に合った仕事=“向いていること”に取り組めている実感があると、自然とモチベーションが高まります。
それには単なる「得意・不得意」ではなく、「自分らしさを活かせるか」という視点が重要です。どんな瞬間に「自分らしさを活かせている」「この選択でよかった」と思えるのか、過去の経験を振り返って今一度確認しておくと良いでしょう。
まずは自分にとっての「納得の軸」を知ること——それが、長く働ける環境と出会う第一歩になります。
人間関係と職場の雰囲気が、働きやすさを左右する
キャリア相談にいらっしゃった方に「何が一番つらかったですか?」と退職理由を聞くと、仕事内容ではなく「人間関係です」と答える方が本当に多いです。
仕事そのものが大変でも、上司や同僚が支えてくれると頑張れます。反対に、理不尽な扱いをされたり、孤立していたりすると、気力がどんどん削られてしまいますよね。つまり、長く働けるかどうかには、“誰と働くか”が大きく影響するのです。
例えば、上司に相談できるか、同僚との連携はスムーズか、意見が言いやすい雰囲気か——。人間関係が良好であれば、多少の業務の負荷は乗り越えられることがあります。
逆に、どれほど待遇がよくても、孤立感や不信感がある職場では、続けるのが難しくなってしまうのです。
人間関係は運の要素もありますが、企業文化や風土の影響を大きく受けるため、しっかり確認しておきたいところです。
例えば、年功序列なのか、成果主義なのか。チャレンジが歓迎される雰囲気か、それとも失敗しないことを第一に求められる空気なのか。そういった点は人間関係にも大きく関わってきます。
面接時の雰囲気や、社員インタビュー、口コミなどを通して“空気感”を掴むことも有効です。
最近よく聞かれる「心理的安全性のある職場」とは、本当に働きやすい職場、つまり「失敗や弱音を言える安心感がある職場」とも言えるかもしれません。
制度は「あるか」より「使えるか」が重要
ライフステージが変わったとき、例えば出産・育児、介護、パートナーの転勤などで「今まで通りには働けない」と感じたとき、助けてくれるのが制度です。
今いる会社、あるいは関心がある会社に、どんな制度があるのかしっかり確認しておきましょう。
また、「制度はあるけれど使いにくい」というケースも多くあります。
•利用実績が少ない(性別や階層に偏りがあるケースもあります)
•使うと評価に響くという空気
•制度を使うには“特別な事情”が必要
そういった「見えないハードル」があると、本当の意味で制度は機能しません。
理想的なのは、「何かあってもこの会社なら柔軟に対応してくれる」と思える環境です。
最近は、リモートワークや時短勤務、副業やキャリアチェンジ制度など、選択肢を広げている企業も増えています。これから仕事を探すという方は、求人情報の文面だけではなく、実際に使われているかどうかをチェックしてみてください。
今後は制度や働き方の柔軟性が「企業の魅力」として重視される傾向がより強まっていくでしょう。
少子高齢化・人手不足という社会背景の中で、企業も「長く働き続けてもらう」ことに真剣に向き合い始めています。
私たち一人ひとりが、“使える制度がある職場を選ぶ”という意識を持つことも、より良い職場環境を作っていく後押しになるかもしれません。
転職=絶対的な正解ではない。社内で変えていけることもある
よくある相談に、「結婚・出産を機に転職を考えています」というものがあります。たしかに、生活や価値観が大きく変わるタイミングは、働き方を見直すいい機会です。
ただ、転職だけが選択肢ではありません。企業によっては、ライフステージの変化に応じて働き方を調整できる仕組みや、社内異動、キャリア面談制度を整えているところもあります。
辞める前に、「今の職場でできる工夫」があるかどうか、一度立ち止まって考えてみることも大切です。これまでの頑張りが評価される今の環境の方が、場合によっては働きやすいということもあるからです。
そして、そもそもその“柔軟さ”があるのか、ライフステージの変化をどう捉えている組織なのかは、職場選びの段階で見極めておくべきポイントになります。
「すべてが揃った職場」を探すより、「自分にとっての優先順位」を知る
あれもこれも欲しい——やりがいがあって、給与も高くて、柔軟な働き方ができて、上司も優しくて……。つい欲張りになってしまう気持ちは、よくわかります。
でも現実には、すべてにおいて100点満点の職場はなかなかありません。だからこそ、「自分にとって何が一番大事か」を知っておくことが重要です。
例えば、「どんな状況でも家庭を優先したい」「成長実感がないとつらい」「職場の雰囲気が一番大切」など、優先順位は人それぞれ。
“すべてを満たす”職場ではなく、“自分にとって大切なことを守れる”職場を選ぶことで、長く働くことが現実的になります。
最後に:変化があっても、キャリアは続いていく
ライフステージが変わるたびに、「この働き方でいいのかな」「この会社でやっていけるかな」と不安になるのは、当然のことです。
しかし、変化があってもキャリアは続きます。変わるからこそ、自分を見つめ直すタイミングが訪れるのです。
だからこそ、今のうちから「自分にとって大切なものは何か」「どんな働き方が心地よいか」を少しずつ言語化しておくと、自信を持って選択しやすくなるでしょう。
あなたのキャリアは、あなた自身のもの。自分が選んだ道のりを「これでよかった」と思えるように、丁寧に人生を歩んでいきたいものですね。
文・マイナビ転職編集部
【出典】
マイナビ転職「新入社員の意識調査(2024)」( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/19/ )