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沖縄尚学のピッチャー「新垣有絃」とは何者?春とは別人…“シャイな男”が見せる快投乱麻!夏の甲子園で初の決勝進出に貢献

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練習でノックする沖縄尚学の比嘉公也監督(長嶺真輝撮影)
沖縄尚学の勝ち上がりのキーマンとなっている右腕・新垣有絃

快挙が近い。 第107回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)は8月21日、兵庫県の阪神甲子園球場で準決勝2試合を行い、沖縄県代表の沖縄尚学が強打の山梨学院を接戦の末に5-4で下した。 選抜高校野球大会(春のセンバツ)で2度の優勝を誇る沖縄尚学にとって、夏の甲子園での決勝進出は初めて。県勢としては2010年に春夏連覇を達成した興南以来、15年ぶり。学校単位では、1990年から2年連続で準優勝を果たした沖縄水産を含め、史上3校目となる。 興南が日本一に輝いて以来、センバツを含めてベスト8の壁に跳ね返され続け、低迷期に入っていた沖縄勢。1回戦や2回戦で早々と姿を消すことも多く、甲子園に“南国の風”を吹かせるのは久しい。 快進撃のキーマンとなっているのが、右投手の背番号10、新垣有絃(あらかき ゆいと)だ。 左腕エース・末吉良丞と同じ2年生。今大会では全国の強打者を相手に、これまで3試合で14回1/3を投げ、わずか1失点。奪三振は計20個と、正に快“投”乱麻のピッチングだ。身長175cm、体重65kgという細身ながら、右のオーバースローで投げ込むボールは力強く、マウンド上での存在感が際立つ。 1回のみの登板で3失点を喫した春のセンバツの時とは、まるで別人のようだ。

「無四死球・5奪三振」の好リリーフ、悪い流れ断つ

準決勝の山梨学院戦。1-4と引き離され、なお2死二、三塁のピンチが続く六回表。エラー絡みで失点し、悪い流れが止まらない。 この場面で、新垣が一塁側ベンチからダイヤモンド中央へ駆けて行った。少し笑みを浮かべた末吉からボールとマウンドを託される。すれ違いざまに、背中をぽんっと叩かれた。覚悟を帯びた鋭い眼差しで、宜野座恵夢の構えるキャッチャーミットを見据えた。 初球、クリーンナップの一角を張る3番打者に対し、最大の武器である切れ味抜群のスライダーを外角に決める。続いて143㌔の直球を外角低めに放り、セカンドゴロに打ち取って難なく劣勢ムードを断ち切った。

ノック練習に汗を流す沖縄尚学の選手たち 八重瀬町の尚学ボールパーク(長嶺真輝撮影)

頼もしい2年生投手の好リリーフに応え、直後の六回裏、いずれも3年生の4番・宜野座から比嘉大登、安谷屋春空の3連打で1点差に迫る。さらに相手のエラーで追い付き、七回裏に再び宜野座と比嘉の連打で勝ち越しに成功した。 新垣は隙を与えない。七回から2回続けて相手打線を三者凡退に切って取る。最終回こそ2死一、二塁のピンチを招いたが、最後は5番打者をキャッチャーフライに仕留めて勝利投手となった。 3回1/3を投げて四死球無しの5奪三振。準々決勝までの3試合で31得点を挙げていた山梨学院の圧力、約36,000人の大観衆による熱視線もどこ吹く風。完璧な救援で流れを変え、決勝進出への道を切り開いた。

1回で降板した春の悔しさ糧に成長…「二枚看板」の一角に

「春の悔しい経験があるので、その借りをしっかり夏に返せるようにしたいです」 7月13日にあった沖縄大会の決勝後、新垣はそう決意を語っていた。センバツでは横浜と当たった2回戦で先発を務め、初めて甲子園のマウンドに上がったが、一人目にいきなり死球。単打を挟み、3ランホームランを浴びて1回で降板した。 性格は、一言で言えばシャイ。取材に応じる時も口数は少なく、いつも緊張気味だ。これまではマウンドでもその印象が拭えず、弱気な心が見え隠れして制球の不安定さを生んでいるように見えていた。

しかし、この夏は違う。その片鱗をのぞかせたのが、沖縄大会準決勝の興南戦だった。 甲子園行きの切符を勝ち取るための大きな山場で先発マウンドを任され、5回を被安打2の無四死球、1失点で抑えて安定した投球を披露。翌日の決勝後、「自分の長所はゲームを作れるところ。特にスライダーはスピードや曲がり幅が良くなりました。チームにいい流れを持ってきて、勝利につなげていきたいです」と語り、話すリズムは以前と変わらずとも、言葉の内容の力強さは明らかに増した。 スライダーは右打者が腰を仰け反るほど大きく曲がるようになり、春頃は最速140㌔だった直球は山梨学院戦で最速146㌔を計測した。それらが、外角、内角の絶妙なコースにズバズバと決まる。春に味わった無念さを糧に成長したメンタルの強さが、そのままボールに乗り移っているようだ。

練習でノックする沖縄尚学の比嘉公也監督(長嶺真輝撮影)

夏の甲子園に乗り込む前、比嘉公也監督は投手陣の継投について以下のように展望していた。 「夏は投手一枚だと厳しいです。新垣を引っ張って、残りのイニングを末吉が締めるのが理想です。その逆もできるようにしていきたいと思います」 この言葉通り、準決勝までの5試合では末吉が2試合を完投したが、2回戦の鳴門戦と準々決勝の東洋大姫路戦は新垣→末吉、準決勝の山梨学院戦は末吉→新垣という2パターンの継投でつないだ。新垣については、もはや「2番手投手」というよりも、末吉との「二枚看板」という表現がしっくり来る。

3年生に刺激、比嘉大登「二人に助けられるだけでなく」

出身は八重瀬町。世名城ジャイアンツに所属していた小学生時代は内野手だったが、東風平中学で投手に転向した。沖縄尚学の一塁を守る兄の新垣瑞稀と切磋琢磨し、中学時代にも九州大会や全国大会を経験している。 好きなプロ野球選手には、同じ右腕でキレのある直球やスライダーを武器とする奥川恭伸(東京ヤクルトスワローズ)を挙げる。今の新垣の姿を見ると納得だ。趣味は格闘技観戦と言うから、内には燃える闘志を秘めているのだろう。

練習に汗を流す沖縄尚学のメンバー(長嶺真輝撮影)

末吉と新垣という左と右の2年生コンビは、野手陣の3年生にも強烈な刺激を与えている。山梨学院戦で勝ち越しとなる5点目の適時打を放った比嘉は、上級生としての意地を口にした。 「2年生投手に助けられてばかりだったので、3年生を中心に野手陣がやっていこうという話をしていました。決勝戦でも二人(末吉と新垣)に助けられるだけでなく、チーム全体で初優勝を勝ち取り、沖縄に帰りたいと思います」 沖縄尚学の野球部にとって、そして、沖縄球界全体にとっての快挙がかかる決勝は23日午前10時にプレイボール。頂上決戦で激突する日大三は、これまでの4試合でチーム打率が3割1分7厘(沖縄尚学は2割3分1厘)に上り、長打も多い。エースの末吉が先発を務める可能性は高いが、強力打線に対抗するため、新垣の力が必要になる場面はいつ来てもおかしくはない。

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