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魚養殖のためのAI監視カメラ、成育度合いや寄生虫の有無をデータで表示

TECHBLITZ

Aquabyte(本社:米国カリフォルニア州)は、養殖効率向上を目的とした養殖モニタリングシステムを開発している。カメラと画像処理技術を利用した機械学習ベースのプラットフォームを活用し、寄生虫の調査、バイオマスの推定、食欲の検出、飼料の最適化を支援する。このシステムにより、養殖産業は養魚場の運営コストを削減し、周囲の生態系への環境影響を最小限に抑えながら収益を拡大できる。創業者でCEOのBryton Shang氏に、業況や将来展望を聞いた。

<font size=5>目次
自宅の浴槽で水中AIカメラの試作品作成
Aquabyteの水中AIカメラでできること
養殖コストを削減しながら魚の品質を高める
日本市場への参入も視野、現地の紹介者に期待

自宅の浴槽で水中AIカメラの試作品作成

―これまでの経歴と創業の経緯を教えてください。

 大学を卒業してから、いくつかの企業を立ち上げてきました。プリンストン大学ではオペレーションズリサーチと金融工学を学び、卒業後はニューヨーク市の高頻度取引会社でアルゴリズム取引に従事しました。その後、パートナーとともに自動的に株式を売買するアルゴリズム取引の会社Nikao Investmentsを設立しました。一般的な技術開発にも興味を持ち、ブランドライセンシングの分野で、ブランドとライセンス商品製造業者をつなぐオンラインプラットフォームを提供する企業iQ Licenseを共同創業し、CTOを務めました。

 さらに、コンピュータビジョン(画像やビデオから情報を理解・処理する技術)を用いてがん検出のための技術を開発するHistoWizのCTOも経験しました。医師が顕微鏡で組織を観察する代わりに、アルゴリズムが組織画像を分析し、病気の判断を支援します。

 これらの企業すべてで機械学習とデータサイエンスを活用しています。そして私は世界有数のVCであるNew Enterprise Associates(NEA)から招待を受け、応用機械学習に関連する新しい企業のインキュベーションに携わりました。

Bryton ShangAquabyteFounder & CEO2012年にPrinceton Universityを卒業後、Nikao InvestmentsとiQ Licenseを共同創設し、いずれもCTOを務めた。2015年から病理組織学のためのディープラーニングを行うHistoWizに2年間在籍し、Y Combinator W16に参加。2017年にAquabyteを創業し、CEOに就任。2018年にはForbes 30 Under 30に選出された。

 友人が漁業、特に養殖業に投資をしていたことから自分も興味を持つようになり、漁業の規模や世界の食料源としての重要性について学びました。実際に、私たちが食べる魚の半分以上が養殖であり、これは非常に持続可能な方法です。しかし、魚は水中にいるため、状況を観察するのが難しいです。そこで、魚の健康状態や成長をコンピュータビジョンで判断できる水中カメラを作ろうと思いました。カメラからの情報で適切な餌やりや治療、収穫の判断をするのです。

 私は自宅の浴槽でこのカメラのプロトタイプを作成しました。その後、ノルウェーで開催されるサーモン会議の情報を聞き、ノルウェーへ渡り、現地のサーモン養殖場と協力してAquabyteを立ち上げました。ノルウェーではサーモン養殖場の健康状態や成長を監視する水中カメラシステムを開発し、その後事業を他国にも拡大し、現在では5カ国で事業を展開し、サーモンだけでなくマスなど他の魚種にも対応しています。

image: Aquabyte

Aquabyteの水中AIカメラでできること

―機械学習で養殖を支援するというプロダクトですね。詳しくお聞かせください。

 私たちのシステムでは、水中カメラで魚の写真を撮影し、そのデータを提供しています。このデータには魚の成長に関する情報が含まれており、例えば平均体重や体重分布、魚の健康状態(傷があるか、寄生虫が付いているか、ストレスを感じているかなど)が記録されます。養殖事業者はオンラインダッシュボードを通じてこれらの情報を確認できます。これらのデータは月額サブスクリプションとして養殖事業者に提供されます。このサービスにはカメラや関連機器の提供も含みます。

 このシステムを使って魚の状態を確認することで、高品質の魚であれば寿司ネタとして高値で販売でき、低品質の魚はペットフードとして使用するなど、魚の扱いや販売に関するより良い判断が可能になります。

 従来の養殖では、魚の状態をモニタリングするのが非常に難しかったです。養殖場は非常に広大で、例えばノルウェーの一つの魚槽には20万匹の魚が入っており、その周囲は160メートルもあります。これはボーイング737航空機が丸ごと入るほどの大きさです。そのため、水面下で何が起きているかを知るのは非常に困難で、人の勘や経験で判断していました。

 私たちのシステムではデータに基づいた判断ができます。これにより、農家は食の安全規制に適合できます。私たちはノルウェーの食品安全規制において魚の寄生虫をカウントするために承認を受けた最初の企業です。これは養殖事業者にとっても有益であり、認証や規制面でも支援しています。

image: Aquabyte

養殖コストを削減しながら魚の品質を高める

―御社のシステムはどの程度効率的なのでしょうか。効果について教えていただけますか。

 ノルウェーでは規制の一環として、魚の寄生虫を毎週調査する必要があります。そのために魚を網で捕え、一匹ずつ数えていますが、この作業は魚にとって非常にストレスがかかり、取り扱い中に魚が死んでしまうこともあります。私たちのシステムを使うことで、魚の死亡率を低く抑え、生存率を向上させ、現場での作業コストも削減することができます。

 寄生虫が発生した場合、治療には1回当たり10万ドルもの費用がかかります。この治療回数を減らすことでも大きなコスト削減になります。

 魚の品質や重量のモニタリングも重要です。例えば、ある顧客は魚の平均重量が6kgだと思っていましたが、実際には4~5kgであり、平均で30%の誤差が生じていました。魚はサイズごとに価格が異なるため、このような誤差は生産者にとって非常に大きな損失につながります。私たちのシステムを使えば、養殖業者は魚の重量を実際の重量の2〜3%以内の誤差で評価することができ、大きなメリットとなります。

 そしてなにより、消費者はより高品質で栄養価の高い魚を手に入れることができます。効率よく健康な魚を提供することは消費者にとっても良いことです。

―同じようなアプローチをしている競合はいますか。

 競合はいくつか存在しますが、そうした企業は主にハードウェアの開発に注力しています。一方で、私たちはデータやAI、ソフトウェアの側面に重点を置いています。これにより、より迅速にイノベーションを進めることができ、多額の資金を調達して開発を進めてきました。そのため、競合他社は存在するものの、その数はそれほど多くありません。

 私たちの差別化要素として、技術がより高度に発展している点が挙げられます。さらに、チームの半数は魚の養殖業者や業界出身者で構成されているため、業界に適応する方法もよく理解しています。

―複数の国で事業を展開されているとのことですが、ビジネスの成長性はいかがですか。

 私たちは、設立当初から国際的な視点を持った企業です。私は通常米国カリフォルニアのシリコンバレーにいますが、チームの半数以上はノルウェーの第二の都市・ベルゲンに拠点を置いています。ベルゲンはノルウェーの「魚の首都」とされており、私たちはアメリカの技術とイノベーション、ノルウェーの水産養殖の経験を融合させています。

 今年度の収益は1000万ドルを超え、前年度と比較してほぼ倍増しました。会社は非常に急速に成長しています。私たちのシステムは、初めは試験的に導入され、養殖業者がその効果を確認する段階から始まりました。現在では、すべての魚槽にこの技術が導入されています。養殖業者がこの技術の実効性と価値を理解したことが、市場での技術定着と成長の一因となっています。また、魚の健康に対する関心が高まり、規制もあることから私たちのシステムの導入が進んでいます。

image: Aquabyte

日本市場への参入も視野、現地の紹介者に期待

―今後1〜2年に関して、どのような目標を掲げていますか。また日本市場参入の意思についてもお聞かせください。

 現在は主にアトランティックサーモンに注力していますが、今後はマスやコホサーモン(銀鮭)、その他の種類のサーモン、さらにスズキやタイなどの異なる種類にも拡大することが可能です。

 他の国にも展開していきたいと考えています。私たちはノルウェーに加え、チリ、スコットランド、アイスランド、デンマークの自治領フェロー諸島の5カ国・地域で事業を展開しています。今後はカナダやオーストラリアをはじめ、他の多くの国々でも事業展開を検討しています。2022年のシリーズBラウンドの資金調達はSoftBank Ventures Asiaにリード投資家を務めていただきました。これは、将来的に東アジアや日本、他の地域への進出も目指しているためです。世界中で多くの国で魚の養殖が行われているため、さらなる拡大の余地があると考えています。

 この成長において大きな焦点となるのは、新しいプロダクトの開発です。最近、養殖槽内のすべてを監視できる新しいカメラを発表しました。このカメラは魚や給餌、環境などを単一のカメラで監視することができます。また、データを活用したプロダクトの開発にも力を入れています。例えば、収穫計画や治療計画をより効率化するものです。

 日本は魚消費に関して大きな市場であり、さまざまな種類の魚が養殖されています。私たちのシステムは、カメラで撮影できる魚であれば、そのデータを分析することが可能です。日本ではブリやタイ、さらにはマグロも生産されており、これらの魚にも対応できると考えています。

 日本市場に参入するためには、魚の養殖事業者やそれを支援する企業、魚を加工する食品会社などとの連携が重要です。ソフトバンクのような投資家が現地の事業者を紹介してくれることで、導入の促進や基盤の確立に役立つと考えています。

 私たちが提供するデータは魚の養殖場だけでなく、小売業者にとっても魚の品質や育成状況を知る上で価値があります。食品業界に加え、飼料や遺伝子、治療法を供給する企業にとっても役立つでしょう。TECHBLITZの読者の中に水産養殖に関連する方がいらっしゃいましたら、ぜひお話しさせていただきたいです。魚の買取業者、養殖場、供給会社、スーパーマーケットの方々とお話しすることに大変興味があります。日本にはすでにいくつかのコネクションがありますので、さらなる連携を期待しています。

―世界的なタンパク質供給不足が問題となっています。御社のシステムが世界中に普及すれば、この課題解消に貢献できるのではないでしょうか。

 食料問題は重要です。地球の70%が海で覆われているにもかかわらず、海から得られるタンパク質は55%に過ぎません。海から生産される食料の量を増やす余地があると考えています。水産養殖は食料生産の中で最も急成長している分野であり、非常に持続可能です。たとえば、飼料の効率性では、1kgの魚に必要な飼料は1kgですが、牛肉の場合は7kg必要です。エネルギー効率が低く、温室効果ガスの排出も多くなります。水産養殖は温室効果ガスの観点からも非常に持続可能です。

 漁業においては過剰漁獲の問題もあります。そのため、水産養殖を利用して持続可能な方法で食料供給を増やすことが重要です。多くの人々がシーフードを食べることを考えると、水産養殖は非常に重要な食料源となります。

 私たちのビジョンの多くは、異なる国々のさまざまな種類の魚を監視し、ほぼ自動化された養殖場を実現することにあります。この自動化された養殖場では、海だけでなく陸上でも魚を生産することができます。現在の課題は、養殖場を運営するために多くの人々が現地に行く必要があることです。しかし、海上の過酷な環境では人を派遣することが難しいです。そこで、ロボットが養殖場を運営することで、食料供給を大幅に増やすことができるでしょう。

従業員数なし

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