和紙作り体験が楽しめる”越前和紙の里”と 日本一複雑な屋根をもつ”紙の神様を祀る神社” 北陸のみどころをご紹介(福井県)
今回は、2024年春に新幹線開業で便利になった、北陸地方・福井県のみどころや・観光地などを紹介していきます。福井県には、今後もも守っていきたい日本の伝統工業の一つ「越前和紙」で有名な地域があります。
北陸新幹線「越前たけふ駅」の近くの、越前市にある今立・五箇地区(大滝町・岩本町・新在家町・不老町・定友町の5地区) がその地域です。近隣にある、JRのCMで吉永小百合さんが訪れた「紙の神様をまつる神社」も合わせてご紹介します。
和紙の歴史を感じ、紙すき体験を 福井県越前市「越前和紙の里」
和紙(わし)は、日本の伝統的な手漉きので作られた紙です。福井県越前市の東側にあたる今立・五箇地区は、全国に数ある和紙産地の中でも1500年という長い歴史と最高の品質と技術を誇る「越前和紙」の産地として昔から知られています。この場所にある「越前和紙の里」では、職人技を見学したり、紙漉きを実際に体験する施設など、全長230mの通りに越前和紙の関連施設が集中しており、伝統と自然が織り成す美しい街並みが並んでいます。ここでは、多くの観光客やファミリー層が、和紙についてを学び、紙すき体験などを楽しんでいます。
「越前和紙の里」の通り沿いには、伝統家屋や里山の自然に溢れた街路樹が立ち並び、特産品やお土産物屋などの店があります。
街の中にある「パピルス館」は、和紙づくりの行程のうちでも最も有名な”紙漉き(紙すき)”体験を、幼児から大人までが手軽に楽しむことができる施設です。
パピルス館では、スタッフがサポートをしながら紙漉きが体験でき、用意されている押し花や染料などを使用して自分だけのオリジナルの和紙を20分~40分ほどという、短時間で作ることができます。
パピルス館での紙すき体験では、桁という道具で紙の材料をすくい、その後に押し花や染料で自分オリジナルのデザインをしてから脱水・乾燥という工程を、600円から(作る紙の大きさ等で価格は変わります)という手軽な価格で体験することができます。
こちらの施設には、越前和紙でできたショップも併設されていますので、お土産を選ぶのにも良い場所だと思います。
越前和紙と「紙の文化博物館」
紙は4~5世紀に中国から日本に伝来し、その後の日本で独自の素材や製法を取り入れて和紙として発展してきました。福井県の「越前和紙」は、最も長い歴史を持つ和紙と言われており、岐阜県の「美濃和紙」と高知県の「土佐和紙」と共に三大和紙と呼ばれています。
室町時代から江戸時代にかけて、公家や幕府の公文書を作成するための紙(公用紙)として使われたことで全国に広まり、中でも越前和紙の「奉書紙(ほうしょがみ)」は最高級品とされました。
現在多く使わらている洋紙(西洋紙)は、1800年代後半・明治時代に日本に伝えられました。洋紙は針葉樹や広葉樹などの木材を細かく裁断したチップを、薬品を使用したり、機械で圧縮することにより繊維を取り出した「パルプ」を原料としており、機械で大量に、安価で生産することができます。
新聞や本などの印刷物が急増した明治~大正時代に、手すきで製造をする和紙では対応が出来ず、洋紙への移り変わりが進んだという事です。
越前和紙をはじめとした和紙は、原料としては、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)などの樹木の皮、靭皮(じんぴ・樹木の外皮の内側にある皮)繊維を使用して製造されます。長い繊維が絡むことで、強度が高く、吸湿性に富む紙が作られています。
目にする機会が減ってきた和紙ですが、紙すき職人の跡継ぎがいなくなってきたことや、良質の原料をつくる人が少なくなってきたことなども重なり、現在の日本国内の和紙生産量は紙全体の0.3%程度となっているといいます。日本独自の貴重な製造方法などを、何とか今後に伝えていくためにも、このような場所で「和紙」を知る機会を得られるのは貴重ですね。
本格的な和紙製造の工程が見られる貴重な施設「卯立の工芸館」
和紙の里エの街の中心部にある「卯立(うだつ)の工芸館」は、江戸時代中期に越前市で紙漉きをしていた家屋を移築復元した建物です。
この館の中には、古式の越前和紙の紙漉き道具を復元し、工程にしたがって配置してるといそうです。伝統工芸士をはじめとする紙匠たちが行う、原料作り、昔ながらの道具を使って和紙を漉く様子、屋外での和紙天日干しなど、一連の工程を見ることができる、全国でも唯一の場所となっています。
和紙の材料の一つ、三椏(みつまた)はお札の材料としても使われており、楮(こうぞ)は繊維が長いので丈夫な紙ができるそうです。木を蒸して、熱いうちに気の皮をはがしてしまい、その皮を和紙の原料として使用するそうです。
一番外側の黒皮という部分のままで作った和紙は樹皮の繊維が残り、模様が入った和紙になるそうです。模様のない紙を作る場合には、黒皮から4割ほど外側を削り”甘皮”という内皮の状態にすると”生成り色”の和紙が出来、そこから更に削り6割程度まで削った”白皮”という状態まですると更に白い和紙が漉けるようになるそうです。
その後、その皮を窯の中で2~3時間煮て柔らかくして、それを次の工程で使用します。
次に行われるのが、塵より(ちりより)といい、甘皮に残ってしまった皮や節の黒い部分や煮沸で溶けた不純物、原料に混じっていたゴミなどを洗い流す工程になります。完成した和紙に不純物で模様が入らないように、1本1本確認をしながら、水の中で手で行う作業になりますが、昔は川で行われていたそうです。
1人で行うとバケツ1杯分の量で3日間かかるような時間のかかる作業だそうです。
次は、塵よりが終わった繊維を、木の棒で叩いて緩めてほぐしていく、叩解(こうかい)という作業を行います。
現在ここでは、この木の棒で叩くこの叩解の作業を40分くらい行い、その後に機械に入れて水流の中でさらにバラバラに攪拌をしているそうです。
繊維がうまく解きほぐされたものを水に入れて、いよいよ紙漉きの行程になります。
その水の中には、「ねり」という”とろみ”がある液が加えられ、それにより水中にある繊維が丁度よく水中に浮遊するようになるそうです。このねりには、オクラの仲間のトロロアオイという植物の根っこを叩いて水につけて干したものが使用されています。
紙すきをする際には、0.5mmの竹ひごを絹糸で編んだ「漉きす(すきす)」というという道具を「漉き桁(すきけた)」という枠に敷いた、「簀桁(すけた)」という道具が用いられます。今では、竹ひごを作ることができる職人が全国でも3名程度、漉きすを編むことができる職人さんも越前には1名しか居ないなど、現在は職人さんが減ってきているということです。
ねりを使用することで、漉きすの間を水が落ちる速度がゆっくりとなるため、長い時間道具を動かすことができ、良質の紙を作る事が出来るそうです。0.1mmに均等に紙漉きをするのは非常に難しく、厚さを見た目で判断をするなど、職人の技が必要な作業となります。
漉いた紙は、後ではがしやすいように、紙と紙の間に麻のの繊維を入れて、重ねていきます。それを1晩程度おいて、このまま少し硬くなる程度まで乾燥をさせていきます。
1晩ほど置居た後、翌朝に圧搾を行い少し絞ります。その後、35~40度の室(むろ)もしくは天日などで乾燥をして和紙になります。
越前のこの地区は、ブナ林があったことからきれいな水が豊富で、そのため紙を漉くことに優れていた地域だったと考えられるそうです。また、楮は4度が一番良い温度で、紙すきに使用するねりも暑さには弱いため、冬の時期の方が紙を漉くのには適しているそうです。
この「卯立の工芸館」では、より本格的な紙漉き体験ができる「本格体験講座」は用意されています。こちらは、昔ながらの道具・原料を用い、スタッフの指導のもとでチャレンジする本格的な講座で、要予約のものとなっております。(お問い合わせは、卯立の工芸館(0778-43-7800)まで)
では、越前和紙について色々な体験ができるこのエリアを、少しだけ離れてみます。
日本一複雑な屋根を持ち、紙の神様を祀る「岡太神社・大瀧神社」
越前和紙の里通りから歩いて10分ほどの位置に、日本国内で唯一、紙の神様を祀っている神社「岡太(おかもと)神社・大瀧(おおたき)神社」があります。
この神社は、山の上にある上宮(奥の院)と下宮(里宮)の2つからなっています。
上宮には大瀧神社と岡太両神社の本殿が並んで建っていますが、今回の取材を行っているこの下宮の本殿・拝殿は、2つの神社の共有のものとなっているそうです。
岡太神社の神紋である「三葉葵」の付いた馬が見えます。
この2つの神社ですが、歴史的には岡本神社が古く、約1500年前に村人に紙漉きの業を伝えたとされる女神「川上御前」を紙祖の神として祀っています。
大正12年(1923)には、日本の全ての紙幣を作っている大蔵省印刷局抄紙部に、「川上御前」の御分霊が奉祀されたそうで、越前和紙と紙幣は深いつながりを持っていることになります。
こうして、岡太神社は名実共に「全国紙業界の総鎮守」となり、現在でも紙に関係する業種の人たちには良く知られています。
一方、大瀧神社の創建は推古天皇の御代(592~638)と伝えられています。大瀧児権現と称して白山信仰の霊場として栄えましたが、明治時代初頭の神仏分離令により仏式が廃され、大瀧児権現は現在の社号である大瀧神社に改称したそうです。
階段を上ると、拝殿が見えてきます。
この下宮にある本殿と拝殿は、別々ではなく一体として作られた珍しいものとなっており、そのため「日本一複雑な屋根を持つ神社」としても知られています。
この建物は国の重要文化財にも指定されている、歴史的価値がある有名な建物です(重要文化財指定は大滝神社として)。下の写真と同じ場所で、JR東日本のCM撮影が行われたため、この景色に見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
この建物は約180年前に建てられましたが、当時の設計図などが残っているそうで、元々2つにだった屋根が4つにして作った事がわかっているそうです。後ろにあるのが神様を祀る本殿で、手前が拝むための拝殿です。後ろ側にある本殿の高さを高くするために、2種類の石を用いたり、本来は神社仏閣の屋根を支える枓栱(ときょう)という木組みを建物の下部分に用いているそうです。
本殿の壁にある数々の美しい彫刻は、ほぼ建立当時のままの形できれいに残っています。複雑な屋根と合わせて、是非近くで色々とご覧ください。
この建物は、既に180年以上経過していますが、1か所以外は大きく傷んでいないそうです。唯一大きく欠損したのが、拝殿の屋根の角の下部分に彫ってある龍の彫刻で、右側のように龍が手にを持っていたのが元々の彫刻の姿ですが、左の龍ではその球が欠損してしまっている状態になっているそうです。とはいえ、180年以上経過しても、ほぼ建てられた当時の姿を維持しているとは驚きです。
また、拝殿の上部、屋根の下部分には様々な彫刻が掘られています。通常は羽が生えずに描かれることが多い龍ですが、羽が生えている翼竜の形で彫られているものも、ここでは見られるそうです。
ファミリーで和紙作り体験ができる 越前和紙の里 へのアクセス
今回は、北陸新幹線の「越前たけふ駅」からほど近い、福井県近くにある、「越前和紙の里」へのアクセスですが、自動車の場合には北陸自動車道の武生I.Cをご利用ください。
新幹線のJR「越前たけふ駅」からは、タクシーまたはレンタカーで約10分、レンタサイクルで約20分の距離となります。ハピラインふくい「武生駅」からは、福鉄バスで約30分の「和紙の里」下車になります。
「岡太神社・大瀧神社」へは、更に歩いて10分ほど、車なら5分ほどの場所にまります。
北陸新幹線の開業で便利になった北陸地方、福井県へお出かけの際には、是非この場所もご検討ください。
(鉄道チャンネル)