沖縄・北谷町の『ブックパーラー砂辺書架』。“好き”を乗せて、地域を結ぶ黄色い古本屋さんへ
潮風香る北谷町(ちゃたんちょう)砂辺の住宅街に佇む1989年式のアメリカンスクールバス。その正体は、古本屋。2022年に畠中沙幸(さゆき)さんが生まれ故郷で開店した。以来、町のみんなが集まる場所になっている。
子どもたちのためにできること、叶えたいこと
愛されてここまでやってきたんだな。そんな持ち主の愛情が伝わってくるほど表情豊かな本の数々、かわいらしい雑貨、窓に描かれた子どもの絵。黄色くまぶしいスクールバスには、とりどりの物語が詰め込まれている。この本屋の名前は『ブックパーラー砂辺(しなびぬ)書架』。
北谷で生まれ育った店主の畠中沙幸さんは、幼い頃から本が好き。しかし、周辺に本屋はなかった。高校卒業後はアメリカの大学に進学し、しばらく東京で教育や観光関係の仕事に就いていたという。
「外の世界を見ているうちに、北谷に子どもの足でも簡単にアクセスできる本屋ができたら、成長にもいい影響があるのではと思うようになったんです」と、畠中さん。
アメリカや東京などで見てきたものを地元の子どもに伝えたい。そんな思いもあり、北谷で本屋を営むことを考えるようになった。
構想を練っていたとき、たまたま神奈川の友人がアメリカから輸入したスクールバスの引き取り手を探していた。自分が想定していた店の規模の倍ほども大きかったが、“スクールバス”と“子ども”との親和性にビビッときて、引き取ることを決めた。運命だった。
初めは移動しながらの営業も考えていたが、地元の人や学校帰りの子も来てくれるかな、とずっとこの場で営業することに。畠中さんの母校である小学校から、20分も歩いて放課後に来てくれる子もいるそうだ。
地元のかつてといまをつなげ、これからを編む
絵本に新書、洋書、ZINEなど、多彩なタイトルが並ぶなかで、沖縄や北谷に関する本も多いことに気がつく。内容も歴史、料理、文化などさまざまだ。
「子どもの時は『何もなーい!』と北谷という土地に不満をもっていましたが、一度離れて戻ってみたら、広い海と空、ホッとできる空間、奥深い歴史や文化といった私が大切にしたいものすべてがここにあったことに気がつきました。地元が好きって、強いアイデンティティーになると思うんです。ここに住む人に、少しでもいい土地だよと伝えることができたらうれしいな」
ぺたんと座り込み真剣な顔で絵本を広げる女の子、そのお母さんは小説を手に取っている。夜営業では仕事帰りにゆっくりとコーヒーを飲みながら本の世界に浸る人も。畠中さんが想定していた子ども以外にも、老若男女問わず多層的なお客さんが店に来るそう。
納得だ。ここには誰に対してもそっと寄り添ってくれるような、やさしい空気が流れている。それをつくり出せるのは、ゆるがぬ思いをもちながらも、押しつけすぎない畠中さんの人柄ゆえだろう。
「一番うれしいのは、思い入れのある本を手に取ってもらえたなど“好き”を共有できたとき。地元のよさを伝えたいという気持ちも、そこからきているのかもしれません」
北谷に佇むスクールバスは、今日も地域と本とを結びつけ、訪れる人を新しい世界へと運んでゆく。
畠中さんのおすすめ!
『エイサーガーエー』 儀間比呂志 文・絵/ルック
沖縄県那覇市生まれの版画家・儀間(ぎま)比呂志さんによる絵本。沖縄と平和をテーマに創作を続けた儀間さんの視点で、エイサーガ―エーの躍動感、興奮が力強く描かれている。
『絵はがきにみる沖縄 明治・大正・昭和』 琉球新報社
むかしの絵はがきから、かつて沖縄にあった風景にふれることができる貴重な一冊。首里城付近や那覇市場をはじめとした町並みや、地域に伝わる踊り、祭り、服装、髪型に至るまでさまざまな文化が記録されている。
『ボクネン版画絵本 紅逢黒逢の刻〈第2話〉蜘蛛の精―ボクネン版画絵本』 名嘉睦稔 文・絵/マガジンハウス
蜘蛛の化身に恋をした島の女性の物語を描いた版画絵本。作者は沖縄県伊是名島(いぜなじま)生まれの版画家・名嘉睦稔(なかぼくねん)さん。「北谷町には以前、とっても素敵な睦稔さんの美術館があったんですよ」と、畠中さん。
ブックパーラー砂辺書架(ブックパーラーしなびぬしょか)
住所:沖縄県北谷町砂辺44/営業時間:12:00~16:00(夜営業など変動あり。Instagramを要確認)/定休日:不定休/アクセス:那覇空港から車35分
取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部
『旅の手帖』2025年6月号より