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これまでと戦い方を変えた井上尚弥の高いボクシングIQ、データで判明した「作業」の正体

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キム・イェジュンに右ストレートをヒットする井上尚弥,ⒸLemino/SECOND CAREER

キム・イェジュンに4回KO勝ちで防衛成功

突然の試合延期や対戦相手変更など度重なるトラブルに振り回された井上尚弥(31=大橋)だが、終わってみれば実力差を見せつける4回KO勝ちだった。

24日に東京・有明アリーナで行われたプロボクシングの4団体統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチ。サム・グッドマン(オーストラリア)の代役を務めたWBO11位キム・イェジュン(32=韓国)の左目を腫れ上がらせ、モンスターがWBCとWBOは4度目、WBAとIBFは3度目の防衛を果たした。

これで29戦全勝(26KO)。世界戦24連勝となり、次はアメリカ・ラスベガスでWBC1位アラン・ピカソ(メキシコ)、続いてサウジアラビアでWBA暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、さらにスーパーバンタム級王座を保持したまま年内にもWBAフェザー級王者ニック・ボール(イギリス)に挑戦する計画が報じられている。

その後、スーパーバンタム級に戻してWBCバンタム級王者・中谷潤人(M.T)と戦うという夢プラン。どこかでIBF・WBO1位グッドマンの挑戦を受けなければベルトを剥奪される懸念があるため、筋書き通りに進むか分からないが、いずれにしてもビッグマッチが続くことになるだろう。

さて、話を今回のキム戦に戻す。結果だけを見ればイージーな防衛戦だったようにも映るが、データを集計すると、井上はこれまでと戦い方を変えていたことが分かった。ラウンドごとの両者のパンチ数、有効打数などは下の通りとなっている。

有効打が少なかった井上尚弥

まず目につくのが有効打の少なさだ。有効打は見極めが難しいため、力を入れてナックルパートを的確にヒットしたパンチのみをカウントしているが、それでもパンチ総数202発のうち35発にすぎない。有効打率は17.3%だった。

昨年9月のテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)戦は30.4%、5月のルイス・ネリ(メキシコ)戦は29.5%、2023年12月のマーロン・タパレス(フィリピン)戦は24.1%だったから、直近3試合と比較しても、今回はクリーンヒットが少なかったことが分かる。

WBO11位、他3団体ではノーランクと世界的には無名に近いキムが、グッドマンのドタキャンによって代役挑戦者として千載一遇のチャンスをつかんだ。実力差はいかんともしがたく、戦前の予想は圧倒的不利。大番狂わせを演じるためには、一か八かの前半勝負を仕掛けてくることも十分に考えられた。

しかし、キムは出てこなかった。1回はわずか7発しかパンチを放っていない。元々アグレッシブなタイプではなく、本来のスタイルを貫いただけかもしれないが、井上に勝つための戦略としては積極性に乏しかったと言わざるを得ない。

井上としても急遽、対戦が決まり、情報の少ない相手を十分に警戒。ネリ戦で初回にダウンを喫した経験も頭にあっただろう。前に出てくればカウンターも合わせられるが、ディフェンシブに戦う相手に序盤からクリーンヒットするのは簡単ではなかった。

最近はモンスターを恐れるあまり、防御に徹する相手が少なくない。前戦のドヘニーもガードを固めるディフェンス重視の戦い方で、結局ダウンシーンのないまま7回に突然のギブアップで試合が終了した。

対策不十分の相手を丸裸にした左ジャブ

それでも今回は井上が4回で倒せたのはなぜか。「実力差」という単純なワードで片付けるべきではない。そこには井上なりの戦術があった。

キム戦で井上が放ったパンチのうち、ジャブの割合は57.4%に上る。ドヘニー戦は37.4%、ネリ戦は42.4%、タパレス戦は37.7%と直近3試合と比較しても、かなり多い。

割合ではなく、4回までの左ジャブ数を比較しても、ドヘニー戦は54発、ネリ戦は79発、タパレス戦は48発だったのに対し、今回は4回途中までで116発と飛び抜けている。


試合後のインタビューで井上自身が認めていたが、今回は突然の相手変更で対策が不十分。井上はいつになく慎重に戦いながら、相手の力量や戦い方、癖などリング上で「情報収集」するため左ジャブを多用したのだ。

最後までサウスポースタイルで戦ったキムが前に出ず距離を取っていたこともあるとはいえ、元々は右構えでも戦うスイッチヒッターのため、迂闊に攻め込みにくい不気味さもあっただろう。

振り返れば、試合前の記者会見で井上に対して「1ラウンドからベストを見せてほしい」と話したキムに対し、「1ラウンドから全力でというのは考えている。ただ、攻撃全面でいくのか、ボクシングIQを立てて全力でいくのか変わってくる。そこはじっくりと作業をしていきたい」と冷静に返答していた。

まさに今回は井上の「ボクシングIQ」の高さが証明された試合。左ジャブという「作業」を積み重ねた末のノックアウトだった。

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記事:SPAIA編集部

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