気がつけば標的。見えない悪意と隣り合わせの怖さ 「Cloud クラウド」試写会レビュー
『スパイの妻』で第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の、憎悪の連鎖から生まれた集団狂気に狙われる男の恐怖を描いたサスペンススリラー「Cloudクラウド」。9月27日の公開に先駆け試写会に参加したSASARU movie編集部が映画の見どころをレビューします。
主人公・吉井を務めるのは、菅田将暉。吉井の周囲に集う人物を古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝ら豪華俳優陣が演じています。会ったこともない人間が暴走し「匿名の狩りゲーム」が始まる恐怖の世界観をぜひチェックしてみてくださいね。
「Cloud クラウド」の気になるストーリー
町工場に勤めながら「ラーテル」というハンドルネームを使い転売で日銭を稼ぐ吉井良介(菅田将暉)。医療機器、バッグ、フィギュアなど売れるものなら、安く仕入れて高く売る、ただそれだけのこと。転売の仕事を教わった先輩・村岡(窪田正孝)からの儲け話にも耳を傾けず、真面目にコツコツと悪事を働いていきます。吉井にとって、増えていく預金残高だけが信じられる存在でした。そんな折、勤務先の社長・滝本(荒川良々)から管理職への昇進を打診された吉井は、「3年も働いたんだ。もう十分だろう」と固辞し、と、その足で辞職。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借り、恋人・秋子(古川琴音)との新しい生活をスタートさせます。地元の若者・佐野(奥平大兼)を雇い、転売業が軌道に乗ってきた矢先、吉井の周りで不審な出来事が重なり始め...。徘徊する怪しげな車、割られた窓ガラス、つきまとう影、インターネット上の悪意。負のスパイラルによって増長された憎悪はやがて実体を獲得し、狂気を宿した不特定多数の集団へと変貌していきます。標的となった「日常」は急速に破壊されていく…。
サスペンスなのか、ホラーなのか、それともアクション映画なのか
転売ヤー・吉井がネット上で恨みを買い、命を狙われるようになり、少しずつ登場する人間たちが狂っていく様がとにかく恐怖!ガラス越しの人影や急に窓ガラスが割られるシーンは、常に誰かが背後から出てきそうな雰囲気で心をえぐられるようなホラー感が漂います。そして、ぞくぞくする風の音や、不気味に揺らぐ照明、雰囲気のある廃工場のシーンは非情なサスペンスを感じ、最後は、誰が何をしてくるのか分からない激しいガンアクションが繰り広げられます。サスペンスなのかホラーなのかアクションなのか…映画の中でどんどんジャンルが変わっていく構成が見どころ。始終、アドレナリンが放出され、目を離せない流れにぜひ注目してみてください。
現代のネット社会の闇と、見えない悪意の世界観が衝撃的
現代社会に当たり前のように存在するインターネット。映画の中では暴力に縁がなさそうな人間たちが、まるで単純なゲームのように主人公を殺す計画を立てていく。知らない人間同士が集まり、ひとりのターゲットを標的にしていく狂気性と凶悪性に人間の醜い部分が垣間見えます。自分の顔も年齢も隠し、感情すら嘘をつくことができるネットの世界。「転売ヤー」と「人殺し」が同じ日常に存在するような世界観は、無意識に人を傷つける道具にもなるネットの闇を表しているように感じます。ホラー、サスペンスの中に、現代の社会問題すら描かれているような、色々と考えさせられる作品です。
実際には見えないクラウドに、狂気を宿した人間がまるで「雲」のように集まり、リアルな世界で「悪意」と隣り合わせになる。人間の怖さが溢れ出る世界観をぜひチェックしてみてくださいね。
Cloud クラウド 基本情報
・タイトル: 『Cloud クラウド』
・公開表記: 9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
・配給: 東京テアトル 日活
・出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝 ほか
・公式サイト:https://cloud-movie.com/