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寝ない 食べない 癇癪(かんしゃく)が多い… 「子どもが育てにくい」納得の理由とは? 専門家が「感受性」と「注意力」を使って分析

コクリコ

寝つきに時間がかかる、偏食など、子どもの困った行動を「感受性」と「注意力」から読み解きます。第1回は感受性に注目し、その特徴、子も親もラクになる対応方法、将来へのいかし方などを、保育現場で保護者・保育者を指導する野藤弘幸氏が解説します。

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子どもがなかなか寝つかない、自分で身支度をしない、かんしゃくを起こす……。子育ての悩みは尽きません。「なんでこんなに育てにくいの?」「このままで小学校は大丈夫?」など、不安を感じている保護者も多いことでしょう。

「大人から見た子どもの『困った』行動には必ず理由があり、それは生まれ持った“感受性”と“注意力”に関係します」と話すのは、作業療法学博士であり全国各地の保育園で保育者や保護者に向けて講演・研修を行う野藤弘幸氏。“感受性”と“注意力”に注目し、その子に合った対応方法を実践することで、子も親も日常生活の「困り感」を減らすことができます。

「感受性」「注意力」とはどのようなものなのか、保護者は具体的にどう接すればいいのか、保育現場でたくさんの子どもを見てきた野藤氏に教えていただきます。

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は大人から「育てにくい」と思われる乳幼児期~青年期の子ども・保護者に関わる保育者への研修などを行う。

「感受性」と「注意力」は生まれ持った力

全国の保育現場を飛び回る野藤氏のもとには、保育者や保護者からさまざまな悩みが寄せられます。それらにわかりやすく応えるために、野藤氏は子どもの行動を2つの視点で整理しています。それが、「感受性」「注意力」です。

たとえば、子どもが積み木で遊んでいるとします。その過程は、次のように分けることができます。

①積み木を見て「遊びたい」気持ちが起こる
②どんな形にしようか考えながら、手で積み木をつかんで組み立てる

積み木を見て、「あれは何だろう」「触ってみたい」「使ってみたい」と視覚でとらえて、そこから何らかの感情が湧き起こることを「感受性」ととらえます。そして、実際に遊ぶときには「注意力」(複数の事柄に気を配る力/詳細は第2回で解説)を働かせています。単に無邪気に遊んでいるように見えて、子どもは感受性と注意力を常に発揮しているのです。

そして、これらの力には、生まれながらに「個人差」があると野藤氏は指摘します。

「感受性が強く敏感な子もいれば、注意力の範囲が狭い子、反対に一度にいろいろなことに気を配れる子もいます。感受性も注意力も、一人ひとり生まれたときから『傾向』があるのです。それは良い悪いではなく、その子の生まれ持った特徴です。

生活の中のちょっとした困りごと、たとえば食事の好き嫌いが多い、かんしゃくが強いなども、この2つの力に関係していると考えられます。『自分の子はどんな感受性や注意力を持っているのだろう』とよく観察すると、子どもへの理解が進み、対応方法がわかるかもしれません」(野藤氏)

では、「感受性」や「注意力」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。まずは、感受性について詳しく解説していきます。

感受性には「外」と「内」がある

「感受性」の中身は、大きく2つに分類されます。一つは見る、聞く、触るなど身体の外の刺激を受け取るもの、もう一つは味覚や空腹感、排泄など身体の内側から起こる刺激を感じるものです。楽しい、好きなどの感覚も「内側」に含まれます。

身体の中に、感受性を受け取る「アンテナ」が10本あるとイメージしてみてください。このアンテナで身体の外と内、両方の感覚をキャッチすることができますが、何本のアンテナが外をとらえるか、内をとらえるかは人により異なります。

大切なのは、「外と内の感受性を受け取るバランス」だと野藤氏は話します。

「それぞれ同じ本数で感受していれば、人は穏やかな時間を過ごすことができます。ですが、光や音など外からの刺激ばかりを受け取ってしまう状態だと、その分、身体の内側の感覚は自覚しにくくなります。

極端な例ですが、外の感受性で8本を占めてしまうと、残りの2本でしか内を感じられません。つまり、自分の身体の中で起こっている信号をほとんど受け取れないのです。そうなると、眠い、お腹が空いたなどの生理的感覚が、十分に認識できない状態になってしまいます」(野藤氏)

外からどんな刺激を受け取りやすいのかは、その子によって異なります。外の刺激には、視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの種類があげられますが、どれかひとつの刺激への感受性が強いこともあれば、視覚と聴覚など複数が強いこともあります

そして、外への感受性が強い子は、自分の周りが気になって落ち着かず、なかなか寝ない、食べるのが遅い(食事中に席を立つ)、トイレトレーニングが進みにくいといった、保護者から見た「困りごと」が起こりやすくなります。外部からの刺激に左右されてしまうあまり、楽しいや悲しいなどの感情面が認識しにくい場合もあります。

「こうした子どもは、大人から見ると『言うとおりにしない』ので、育てにくいように映ります。しかし、冒頭で説明したように、感受性は生まれ持ったものなので、子どもが自分の意思でコントロールすることはできません。子ども自身が、自分の感受性にとまどっているのだと考えてください」と野藤氏は補足します。

子ども自身、理由がわからず困っている状態だということを、保護者はよく理解しましょう。

感受性「外向き」タイプのよくある困りごとと対応策

アンテナの受信の状態を変えることはできませんが、周囲の大人や保護者がその子の特徴に気づき、対応策を講じてあげることで、スムーズに生活できるようになります。

ここでは、外側の感受性が強いタイプの子に見られる行動で、野藤氏がよく相談を受けるものを取り上げ、その対応について解説していきます。

【ケース1】寝かしつけに時間がかかる
光や音が気になってなかなか眠れない状態です。眠りにつくとき、身体の働きとしては、体温や血圧が高まることなく穏やかにはたらきます。しかし、外から入ってくる物音や声、ちょっとした光を受け取っていると、緊張が高まることで身体が活発になり、結果としてなかなか寝つけません。

《対応方法》
「その子が視覚情報に敏感なら、部屋に光が入らないように工夫し、真っ暗にしてから寝かしつけましょう。寝る部屋だけでなく、周辺の部屋の電気も消すと効果的です。

音に敏感なタイプの子は、大人が『こんなに小さな音に気づくの?』というレベルも聞き取ります。玄関近くの部屋で寝ている場合は、家族が出入りする音に反応することもあります。そのため、寝かしつけている時間に帰宅する家族は、ドアの開け閉めの音や足音に気をつけたいものです。

就寝の前に夕食をとり、その後に入浴するなど、生活の流れを一定にすることも大切です。そのほうが保護者も見通しをもって家事を行うことができます。そしてこれは、互いに刺激し合うことを防ぎます」(野藤氏)

【ケース2】食べず嫌い、好き嫌いをする
子どもの好き嫌いの原因は、味(味覚)とは限りません。見た目(形)がどうしても受け入れられず食べられないという子もいます。また、特定の色の食べ物は受けつけない子もいます。

《対応方法》
「形や色が受け入れられない(食べられない)ことに、理由はありません。生まれ持った感覚なので、説明は不可能です。それを『わがまま』ととらえてしまうと、親も子もつらくなってしまいます。

食べないものが出てきたら、形が嫌なのか、色なのか、匂いなのか、はたまた味なのか、傾向を観察しつつ、その子の『受け入れられる範囲』を見つけていくとよいでしょう。成長とともにその範囲は広がることもありますが、まずは『食べることが楽しい』と思わないと、さまざまな食べ物にチャレンジしたいとは思いませんので、無理強いはしたくないですね。

また、残すときのマナーを教えてあげることも大切です。『まずい』『こんなの食べたくない!』などと言われると親も感情的になってしまいますから、『これは残したい』と子どもが親に尋ねることができて、親が『手をつけないでおこうね』など、話し合う手立てを教えてあげるとよいですね。

無理に食べさせる/食べさせられると、お互いイライラが募ります。親も子も納得できる方法を探っていきましょう」(野藤氏)

【ケース3】(保育園など集団行動で)突然、大きな声を出して部屋を出ていく
音に敏感な感受性を持っていると、他の子がにぎやかに遊んでいる声や音が刺激になることがあります。そうした子は、「うるさい」などと言ってその場を離れます。

《対応方法》
「本人にしてみたら、聞きたくない音が耳に入ってしまい、いたたまれずに部屋を出ています。自分でも大きな声を出していることに矛盾を感じるかもしれませんが、自ら声を発していると他の音を聞かなくてすむので、意識せずにしている行為なのです。

『勝手に出ていっちゃダメだよ』と注意しても大人の思いは伝わりません。こうしたことが続くようなら、園に聴覚が敏感であることを伝えて、それを踏まえた対策を考えるとよいでしょう。

最近では、『イヤーマフ』のように、ヘッドホンのような形状で防音するものもありますから、そうした機器を導入するのも一つの方法です」(野藤氏)

感情的なすれ違いを防ぐために

その他にも、感受性が影響している子どもの生活態度はたくさんあるといいます。

たとえば、遊んでいる子どもに「トイレにいったほうがいいんじゃない」と声をかけ、大丈夫と答えたにもかかわらず、その直後にもらしてしまうことがあります。

こうした行動について野藤氏は、「感受性が外側に向いている子は、『目に見えないこと』は認識しにくいのです。膀胱の状態は見えませんよね。だから、『行きたくない』『大丈夫』と答えますし、自分でもそう思っています。噓をついているわけではないのです」と説明します。

誕生日プレゼントにほしいと言ったおもちゃを買っても全然遊ばない……、というケースはどうでしょうか。

「『欲しいものを買ってあげる』と言われたけれど、どれにしていいかわからない。自分の中の『好き』や『楽しい』という目に見えない気持ちには、気づきにくいからです。

なかなか決められないと、保護者はよかれと思って『ブロック? それともこっちのパズル?』と選択肢を出します。早く決めないと……と焦って何となくパズルを選んだけれど、本当にパズルが好きなわけではないから買っても遊ばない。そんな状況です」(野藤氏)

一方的な決めつけは、親子関係に悪影響を及ぼします。 写真:yamasan/イメージマート

感受性が与える影響に親が気づかないままだと子どもへの不信感が募り、一方、子どもは親に不満を溜めていきます。

「理由がわからなければ、保護者は『うちの子はわがままばかりで我慢できない、もっと厳しくしつけなければ』と考え、子どもを𠮟ってしまいます。

ですが、感受性の影響で本人の意志とは関係ないと理解できれば、子どもを責めずにすみます。そして、対応策を講じることで、お互いの感情的なすれ違いを防ぐことができるのです」(野藤氏)

子どもに不可解な行動が出てきたら、その内側でどんなことが起こっているのかをよく観察し、対策につなげていくことを意識しましょう。

その上で、睡眠のリズムがとれない、食事量や内容に偏りが強くて心配、集団生活に慣れず指示された行動がとれない、そこへの参加をしぶる、といったことが続くようなら、子どもの発達を専門とする医師への相談も必要です。

「これらの行動は、子どもの心も身体もおびやかされて、保護者も対応に疲弊します。感受性は脳の働きの表れですから、医師を訪ねることも視野に入れてもいいでしょう」と野藤氏はつけ加えます。
※医師の受診時の注意点については第4回で解説。

「感受性が敏感」は強みにもなる!

ここまで、生活する上で注意したい感受性の一面を説明してきましたが、実は、感受性が強みになることもたくさんあるといいます。

視覚の感受性が強い場合は、細かく見る、観察することができるため、記憶力が優れている子もいます。それが他の得意と結びつくと、手先の器用な子はブロックや工作などの芸術系、運動神経の良い子は体操や空手など、複雑な身体の動きを覚えて再現する競技で力を発揮することがあります。

聴覚の感受性が強いケースだと、音楽や楽器で才能を発揮する子、言語習得に向く子もいます。

大切なのは、持って生まれた感受性をどういかしていくかです。

前述したように、生活の中で困った方向に感受性の偏りが出てしまうこともありますが、きちんと対応できれば問題は解決します。必ず良い面がありますから、保護者の方にはどうしたらその子の感受性を伸ばしてあげられるのかを考えてほしいですね。

幼児期は得意な遊びを思う存分楽しむ、感受性をいかす習い事をする、などをするととてもよいと思います。

その子の持った特性を否定するのではなく、上手なつき合い方やいかし方、伸ばし方を探していくことが、親も子も幸せに生きていくことにつながります」(野藤氏)

第2回は、子どもの困った行動を読み解く上で大切となるもう一つの特性、「注意力」について解説していただきます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

Photo by 川端アリ

【野藤弘幸 プロフィール】
作業療法学博士。発達障害領域の作業療法の臨床、大学教授を経て、現在は、「育てにくい」「言うことを聞かない」「自分でしようとしない」など、大人がそう思う乳児期から青年期の子どもたちと、その子どもたちの養育者に携わる保育者への研修、講演活動を行う。著書に『発達障害のこどもを行き詰まらせない保育実践~すべてのこどもに通じる理解と対応』(郁洋舎)、その他保育雑誌への連載などを担当。

取材・文 川崎ちづる

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