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「五感で味わえる、舞台ならではの作品」向井理&勝村政信がゴシック・ホラーに挑む 『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』が開幕

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(左から)アントニー・イーデン、向井理、勝村政信

女流作家スーザン・ヒルの同名小説をもとに、スティーブン・マラトレットの脚色、ロビン・ハーフォードの演出で舞台化された英国発ゴシック・ホラーの決定版、『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』。ホラー演劇の傑作として12の言語に翻訳され、世界40余国で上演され続けている。

観客のいない劇場で、中年の弁護士キップスと若い俳優が体験した世にも恐ろしい出来事を劇中劇の形を借りて再現していく本作は、PARCO劇場でも繰り返し上演されてきた。

8度目となるパルコ・プロデュース2024『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』は、向井理勝村政信が舞台で初めて顔を合わせ、オリジナル上演版の演出を手掛けたロビン・ハーフォードと、アントニー・イーデンが共同演出を務めている。

初日を前に、向井理勝村政信、演出のアントニー・イーデンによる会見とゲネプロが行われた。

ーー初日に向けて、意気込みを教えてください。

向井:二人しか出演しない作品だからこそ、コミュニケーションをちゃんと取ってここまで来ることができたと思います。どの舞台もそうですが、どう見てもらえるかもそうですし、最後まで世界観を作り上げてゴールするまで気が抜けない。その緊張感はいつも同じですし、人が少ない分責任も重くなっています。ただ、劇中劇という形をとっているので、楽しんでやれたらいいなと思っています。

勝村:芝居を初めて40年近くなりますが、ゲネプロの日は毎回「あと1週間あったら良かった」と思います。どれだけ準備しても満ち足りることはなく、毎回何か足りないと思ってしまう。しかし、今回は非常に力強い仲間が揃い、新たなカンパニーで本当にいい時間を過ごすことができました。

アントニー:とてもエキサイティングな気持ちです。実は以前、アメリカとオーストラリアでも本作の演出をしました。今回パルコさんが集めてくださった日本公演スタッフは、照明や音響、装置、俳優に至るまで全員が作品に情熱を注いでくれました。このカンパニーで作り上げたものを見ていただき、日本のお客様にどう感じていただけるのかすごく楽しみにしています。

ーー出演する皆さんについて教えてください。

アントニー:とても素敵な人たちです。お二人もスタッフの皆さんも外国人演出家をとても優しく迎えてくれ、みんなで朗らかに和気あいあいと作業できました。

勝村さんはとても技巧に優れた俳優さん。作中でいろいろな役を演じますが、上手く演じ分けるだけでなく、一つの文章の中で人を悲しい気持ちにさせたり嬉しい気持ちにさせたり、自由自在にできる方だと感じます。 向井さんが演じるのは、魅力的な人でないと務まらない役。彼はとても魅力的ですから、皆さんを魅了するに違いありません。

私は長年このお芝居に関わり、作品について熟知していると思っていました。しかし、お二人とお仕事をする中で全く新たな発見が多々あったのが嬉しいです。お二人ともドラマや映画でも活躍なさっていると聞いていますが、今後もぜひ、たくさんの演劇をやっていただけると嬉しいですね。

ーー二人芝居ですが、お互いの印象はいかがですか?

向井:初めてお会いしてからかなり経ちます。先輩ですが兄のような存在。遊び心と余裕を持ってお芝居をしてらっしゃるのを見ると僕もリラックスできます。学ぶものがすごくたくさんありますね。

勝村:映像作品でもそうですが、理ちゃんはとても頼りになる。僕は9年前にもこの舞台をやったので引っ張って行こうと思っていましたが、セリフなどを忘れてしまっていて、逆に引っ張ってもらいました。こんなに一緒にいて安心できる人もあまりいないです。この作品に挑むのが初めてとは思えないくらい素晴らしい演技を見せてくれています。

ーー皆さんがこれまでに体験した最もホラーな出来事はなんでしょう。

アントニー:私がかつてこの作品に出演した時の話です。墓場のシーンのリハーサルで雨が降ってきて、稲光りも見えました。「なんで?」と思ったら劇場の天井に穴が空いて雨漏りしていた。本物の雷ではなく、雨で照明がスパークしていたんです。「これは劇場の幽霊の仕業じゃないか」と怖がった記憶があります。

勝村:つい先日、母親が誕生日を迎えました。みんなで集まって祝ったんですが、母親が「私、今92歳か93歳かわからないわ」と言って一息でロウソクを吹き消し、ケーキを半分近く食べた。それが怖かったかなと(笑)。

向井:学生時代、一人暮らしの部屋で夜に音がして。なんだろうと思って電気をつけたらGが飛び立っている音でした。一回夢だと思って電気を消しましたね。結局退治したのですが、2匹いて今でもその恐怖を覚えています(笑)。

ーー楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。

向井:ホラーという言葉が最初に来ると思いますが、それだけではありません。笑える部分も悲しい部分もあり、いろいろな感情が飛び交う忙しい舞台。いろいろな人の気持ちを惹きつける、最後まで気を抜けない作品です。30年以上たくさんの国で上演されてきた非常に魅力的な作品をどう調理するかが私たちの仕事。マイクはつけていますが、できるだけ生の声で、五感で楽しめる作品をお届けしようと思います。劇場でしか味わえないエキサイティングな舞台を体感してもらいたいです。

勝村:めちゃくちゃ怖くて、めちゃくちゃ楽しい作品です。初演から30年以上経ちますが、俳優たちもスタッフの皆さんもこの作品をずっと愛していて、今回のカンパニーに携わっていない方も手伝いに来てくださいました。お客様も劇場でこの作品を楽しみ、怖がって、最後には愛していただけたらとても嬉しいです。

アントニー:皆さんの言葉に一つ付け加えると、このお芝居は演劇や劇場に対するラブレターと言えます。これを楽しんで、いい一晩を楽しんでいただけたら。初めてお芝居を見に来るかたも、たくさん見ている方も、この経験をできて良かったと思いながらお帰りいただけたら嬉しいです。

ゲネプロレポート

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

公開稽古では一幕前半が披露された。本作の登場人物は、若い俳優と、青年時代の呪われた体験による呪縛から逃れるために彼を雇ったアーサー・キップスの二人。

向井は若い俳優として過去のアーサー・キップスを演じ、勝村はキップス自身が出会った様々な人々を演じわけていく。淡々とした自叙伝を芝居へと変えていく俳優を快活でチャーミングに演じる向井と、俳優の言葉に怯みながらも目標を達成するため奮闘するキップスを愛嬌とユーモアをもって演じる勝村の掛け合いが楽しい。

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

劇中劇においては、現在の姿からは想像もつかないキップスと個性豊かな人々、「恐怖」の予感によって、見るものをどんどん物語に引き込んでいく。向井は若い頃のキップスを演じる俳優を芝居に対する情熱と才能ある魅力的な人物として描き出しており、すんなりと物語に没入させてくれた。勝村はキップスが働く事務所の職員や所長、若かりしキップスが恐ろしい体験をするクリシン・ギフォードに向かう列車の中で出会う地主やホテルの亭主などを個性豊かに演じ分け、笑えるシーンも作ってくれている。

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

『ウーマン・イン・ブラック~黒い服の女~』舞台写真

シーンの合間には俳優とキップスに戻って会話する場面もあり、劇中劇とのギャップも見どころ。俳優が言う「観客のことを考えた芝居」と、キップスが目指す「浄化するための語り」の目的が一致し、分厚い台本が見応えのある作品に仕上がっていく様子が魅力だ。劇中劇がスムーズに進み始め、若い俳優とキップスの息があってくるにつれ、これから何が起きるのか、どんな恐ろしい体験が待っているのか、ドキドキも高まっていく。

キップスを長年にわたって縛り付ける「呪縛」の正体とはなんなのか。そして二人が作り上げた物語の行く末は。劇場だからこそ味わえる恐怖と面白さを、ぜひ体感してほしい。

本作は2024年6月9日(日)~6月30日(日)まで、PARCO劇場にて上演。7月には大阪、北九州、愛知でも公演が行われる。

取材・文・撮影=吉田沙奈

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