【『捨てない』から『出さない』へ】大阪・関西万博で注目される、燕三条の技術力を結集した「奇跡の椅子」
大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」に出展された「チタン製椅子」
株式会社ドッツアンドラインズ(三条市)は、2025年、新潟県燕三条広域で連携し製作した「椅子」を大阪・関西万博へ提供する。
ドッツアンドラインズは、2020年に設立され、代表取締役の齋藤和也が燕三条で金属加工業を営みながら、製造業の職人やデザイナー、プランナーなど多様な人材が集まり、ノウハウや技術をあわせることで、個社では実現できないものづくりへの貢献を目指す会社である。
株式会社ドッツアンドラインズの齋藤和也社長
JR燕三条駅構内にある「JRE Local Hub燕三条」
金属加工業に携わる中で齋藤社長は、大きなジレンマを感じていた。脱炭素社会を目指す動きが進む中、鉄は溶かして固めるため、熱源がCO2排出につながることは避けられない。自身のものづくりにおいてカーボンニュートラルを考える際に「出たもの、つまりは廃棄物を再利用して別の商品にするだけではなく、究極は再利用するきっかけすら作らないことが一番。〝捨てない 〟から、〝出さない 〟という発想の転換ができないか」というものだった。
折り紙から着想を得た「ブランク材を出さない椅子」
ものづくりの生産過程では、どうしても廃棄物が出る。廃棄物の再利用は多くの企業が取り組むが、ドッツアンドラインズが挑んだのは、「一枚板からつくる歩留まり99%の椅子」。優れた技術を持つ企業が結集し、次の世代に引き継いでいくことを目指して、難題に取り組んだ。
加工過程で廃棄物、金属プレス加工で言うブランク材を出さないためには、どうすればいいのか。
着想は、日本古来の文化折り紙から得ることができた。「捨てないためには、折り紙のように一枚の板をそのまま使えばいい。一枚板を折りたたむことで、椅子をつくることができる」というもの。
硬質なチタンに折り目をつけるために穴を穿つ
椅子の素材には、酸化発色の技術で色をつけやすいチタンが選ばれた。一方、チタンは硬質で、折り曲げ加工は難しい。チタン板の折り曲げには、協力企業の熊倉シャーリングの技術を活用し、折り曲げる部分にレーザー加工で小さな穴が並んだ折れ線をつけることにした。折れ線通りに折っていくことで、椅子の形に仕上がる。折り目部分は、強度を高めるために金属溶接を行う。
また、カラーリングの最終段階で、目視ではほとんど分からないようなへこみや溶接部分に、わずかだが色ムラが生じるという問題に対しては、燕三条の「鏡面磨き」の技術を駆使して限りなく均一に、平らに磨き上げられた。
このように一脚の椅子の制作には、材料仕入れ、材料研究、デザイン、板金加工、溶接、塗装、発色、表面処理などの工程を経るのだが、ドッツアンドラインズが起点となり、燕三条の8社が連携して知恵と技術を尽くしたのだった。
「歩留まり99%」としたのは、現在の技術では、折り目をつくる際にほんのわずかにブランク材が出てしまうため。齋藤社長らは、残り1%を解消し、100%を目指す考えだ。