抜群の歌唱力と表現力【柏原芳恵デビュー45周年】自ら選曲した40曲のオールタイムベスト
7枚目のシングル「ハロー・グッバイ」でついにブレイク
1980年6月1日にシングル「No.1」でデビューした柏原芳恵(デビュー当時は柏原よしえ)。通常アイドルのデビューは3月から4月が平均的で、6月デビューという若干遅めの登場であった。年齢は若干14歳で、18歳でデビューした同期の松田聖子に比べると子供に思える年齢だが、柏原芳恵はすでにどこか大人びていた。しかもその瞳の奥には陰のようなものを秘めており、そんな部分も彼女の大きな魅力であった。
デビュー曲「No.1」はオリコン最高76位で、他の同期に比べると出遅れた感は否めなかったが、筆者が柏原芳恵の存在をはっきり認識したのは、本人出演の『コルゲンコーワトローチ』のCMソングにもなったサードシングル「第二章・くちづけ」だった。ルックスだけでなく、確かな歌唱力に魅かれていったのを今でも記憶している。
そこから徐々にセールスを伸ばしていき、1981年10月に発売された7枚目のシングル「ハロー・グッバイ」でついにブレイク。その後1986年に発売された24枚目のシングル「春ごころ」までオリコン連続TOP10入りを果たすという快挙を成し遂げている。その歌唱力にはまったくムラがなく、テレビの歌番組を見ていても安心して歌を聴くことができる数少ないアイドルであった。
柏原芳恵のこだわりを垣間見ることのできるベストアルバム
現在も精力的に歌手活動を行っている柏原芳恵だが、今年(2025年)のデビュー45周年を記念して発売されるのが『〜45th Anniversary〜 YOSHIE SELECTION ALL TIME BEST』である。これまでにシングル38枚、オリジナルアルバム19枚をリリースしてきた柏原芳恵だが、このベスト盤は全レーベルの楽曲の中から、本人自らが選曲した “オール・タイム・ベスト” というこだわりを垣間見ることのできるアルバムだ。
DISC1に20曲、DISC2に20曲の計40曲をセレクト。ここまで多くのヒット曲を持つ彼女が選んだシングル曲は全部で15曲。つまり25曲はシングル曲以外からセレクトされている。タイトル通り “YOSHIE SELECTION” なので、彼女の思い入れたっぷりの選曲というところがファン心をくすぐるし、シングル曲だけでなく、アルバム曲をいかに大切にしてきたかが伺える。
1983年の名盤「夢模様」から5曲選出
曲順は発売順になっているのだが、彼女がどのシングル曲をセレクトしたのかがとても興味深い。デビュー曲「No.1」は当然のことだが、ブレイク直前の名曲「ガラスの夏」、谷村新司による「花梨」、松山千春による「タイニー・メモリー」、紅白で歌唱された「春なのに」「し・の・び・愛」など、代表曲はしっかり抑えている部分もニクイ。もちろん、中島みゆきによる「カム・フラージュ」「最愛」も選ばれている。
DISC1に収録されている「夏模様」が筆者の好きな曲だが、同時期の1983年にリリースされたアルバム『夢模様』から5曲も選ばれていることは、特筆すべき点かもしれない。『夢模様』は南こうせつ、伊勢正三、西島三重子、そして「夏模様」を作曲した松尾一彦らが楽曲を書き下ろした名盤だ。
他にもオリジナルアルバムからバランスよくセレクトされており、まさにそのタイトルの名にふさわしい究極のベストと呼べるだろう。1984年のベストアルバム『モニュメント』に新曲として収録された「木旺日の秋」(作曲:筒美京平)や彼女自身が作詞を手がけた2020年のシングル「KU・ZU 〜ワタシの彼〜」が収録されているあたりにもこだわりを感じる。
現在でも卒業シーズンには欠かせない「春なのに」
そして、初回限定盤に収録されているBlu-rayには、45周年を目前に控えた2024年11月に行われた “A・RU・KU” シリーズ第4弾『柏原芳恵コンサート2024 A・RU・KU 第四章』(日本橋三井ホール)を収録している。こちらには惜しくも選曲から漏れてしまった「第二章・くちづけ」「あの場所から」「ちょっとなら媚薬」などが収録されているので、ぜひ初回盤で直近の彼女の歌声を堪能していただきたい。
代表曲「春なのに」を書き下ろした中島みゆきは、柏原芳恵のLPを自身ですべて購入し、全曲聴いた後に「春なのに」を書いたそうだが、研ナオコや桜田淳子同様、彼女の心の陰の部分をきちんと見抜きこの曲に投影している。そして、現在でも卒業シーズンに欠かせない1曲として愛されていることは、ファンとしてはとても誇らしい。
デビューから45周年を迎えた柏原芳恵だが、彼女の場合、ルックスだけでなく歌唱力、表現力ともに1980年代アイドルの中でも群を抜いていた。そして今後もますます大人のシンガーとして、我々を感動させてくれることだろう。最後に、柏原芳恵さん、改めてデビュー45周年おめでとうございます。