獲物の鱗を狙って捕食!アフリカの湖に生息する魚・シクリッドに<利き眼>があることが示される
ヒトに右利き、左利きのように利き手があるように、他の動物においても感覚および運動における左右性があるのを知っていますか。
中でも、アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性のシクリッド科 Perissodus microlepis は利き動物モデルとしてよく知られる魚です。本種は個体ごとに口が右か左に開く左右差が存在し、それぞれ左体側と右体側のウロコを狙って摂食します。
この時、本種は獲物の側方に回り込んで狙いを定めるため、片目で獲物を位置や動きを把握しなければいけません。そこで、北海道大学大学院理研究院の竹内勇一准教授らの研究グループは、右利き・左利きに対応した視覚系の左右差があると考え検証を実施。Perissodus microlepis に効き眼があることを明らかにしました。
この研究成果は『Scientific Reports』に掲載されています(論文タイトル:Dominant eye-dependent lateralized behavior in the scale-eating cichlid fish, Perissodus microlepis)。
動物の右利き左利き
我々、ヒトは手を使用する上で右利き、左利きがあるほか、目の使い方にも左右差があり望遠鏡や鍵穴を覗く際、どっちの目を使用するのか好みが分かれます。
これらと同様に様々な動物群の視覚や嗅覚、運動で左右性(側方化)が報告されており、利きの神経機構は脳科学分野における大きなテーマの1つです。
一方、様々な利きには脳を介したつながりがあると推察されつつも、個別の観察による報告が多いことに加え、これらの因果関係については詳しくわかっていません。
特に昼行性の動物では、視覚系の側方化が行動や運動の側方化に影響を及ぼすと考えられているようです。
鱗を食べるタンガニイカ湖の魚
左右差を示す動物は脊椎動物、無脊椎動物の様々なグループで知られていますが、中でもアフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性のシクリッド魚類 Perissodus microlepis は利き動物のモデルとして有名です。
本種は個体ごとに口部形態に左右差があることが知られており、顎の左側が発達し、口が右に開く「左利き個体」と、顎の右側が発達し口が左に開く「右利き個体」が存在。左利き個体と右利き個体はそれぞれ、左体側と右体側のウロコを狙って摂食しています。
本種はウロコを摂食する際、獲物の側方へ回り込み狙いを定めるため、口の開く側の眼でしか獲物の動きや位置を把握することができません。
こうしたことから、北海道大学大学院理研究院の竹内勇一准教授らの研究グループは Perissodus microlepis の視覚系には右利き、左利きに対応した左右差があると考え検証を行いました。
開口側の眼が利き眼?
まず、検証では視覚刺激を与えたときの反応性の左右さを比較するために Perissodus microlepis を1匹入れた細長い水槽の両側にモニターを2台設置。片目ごとにルーミング刺激(ディスプレイにおける白い背景から黒丸が急速に拡大する視覚刺激)を与え、本種の逃避反応がビデオにより記録されました。
その結果、左利き個体では右眼からの刺激に敏感に反応し、右利き個体では左眼からの刺激に敏感に反応していることがわかり、本種の開口側の眼が「効き眼」である可能性が示されたのです。
視覚を阻害した実験
次にこの「効き眼」が捕食において重要な役割を持っているか確かめるべく、人為的に白内障を生じさせる視覚阻害処理が採用されています。片眼にこの処理を施したPerissodus microlepis を獲物となるキンギョと一緒の水槽に入れて、捕食実験が行われました。
実験の結果、利き眼である開口側の眼を視覚阻害処理した場合では、処理前で9割以上だった開口側からの襲撃率が5割まで下がり、捕食成功率も有意に低下することが判明。このことから、開口側から襲撃する選好性が利き眼に依存しているとされました。
一方、開口側と反対の眼に視覚阻害処理した場合では、処理後も開口側からの襲撃率が9割以上のままであり、捕食率も高い水準で維持されています。この結果から、開口側の眼が捕食において成功率を上げる重要な利き眼として機能していることが実証されたのです。
利きのメカニズム解明へ期待
今回の研究により、鱗食魚として知られる Perissodus microlepis に利き眼があること、この利き眼が捕食や逃避に有利に働くことが明らかになりました。また、視覚阻害処理を用いた実験は本来の利きを「逆利き」に操作できる可能性を示しているとしています。
今回の成果は利きのメカニズムの全容解明の一歩とされるほか、「利きの矯正」研究などへの応用が期待されています。
(サカナト編集部)