幸せは見えるもの? 宮田裕章さんの大阪万博プレビュー
ファッションデザイナー:コシノジュンコが、それぞれのジャンルのトップランナーをゲストに迎え、人と人の繋がりや、出会いと共感を発見する番組。
宮田裕章さん
1978年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授のデータサイエンティスト。「データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行うこと」をテーマに、医学領域を超えて様々な実践・研究に取り組んでいます。著作に『共鳴する未来』(河出書房新社、2020年)。
出水:データサイエンスという言葉はここ数年いろんなところで耳にしますが、あらためてどんな研究をしているのか教えてください。
宮田:ひとことで言えば、データを使って世の中を良くすることです。今までは物事を決める時、声の大きい人に従って決める、あるいは権力がある人とかに従う。これも一理あったかもしれないんですが、ある問いを立てて、誰であったとしても同じ答えがでるだろう、という方法を取ると、もうすこしマシかもしれない。これが科学ですね。反証可能性、誰もが再現できる。象徴的なのはコロナですよね。
出水:そうですね。
宮田:あの時いろんな人がいろんなことを言ったり、声の大きい人が「こうしろ!」って言ったり。でも全部間違ってたことが分かるんですが、データに基づいて検証することで少しマシになる。あるいは真実すらも変わっていくんですね、コロナウイルス自体が変わっていくので。それを新しいデータに基づきながら予測する。つねにそれを信じるわけではなく、科学はあくまでも近似なので、マシなものを探すための1つの支えがデータサイエンスです。
JK:真実が変わる! すごい言葉ですね。
宮田:まぁ科学者の中でも「真実はひとつだ!」という人たちも多いんですけど、何を答えとするかによって、何がベターかも変わってくる。
JK:どんどん進歩するわけだから、どんどん変わっていくわけでしょ。研究すればするほど新しいアイデアとか発見があるわけだから、終わりはないですよね。
宮田:全くその通りです。人を幸せにするための問いを立てた場合、かつては天候の変化で飢え死なないこと。これが重要だった。産業革命以降は人生の選択肢を手に入れることができるお金。それがある程度行き渡った時の幸せって何なのか?といったところで、人類はまた答えを探しているわけです。
JK:幸せって見えるものですか? 見えないものですか?
宮田:そうですね、見えないものと見えるものが両方あるんじゃないかな。最近の科学の定義としては、もらうだけでなく、幸せであることには人との関係、あるいは社会との関係がそれぞれ良いことが重要。1人だけ良い状態は続かないですよ、と。
JK:1人だけのものじゃないわね。もっと社会的なものだし、環境的なものだし。1人で幸せって孤独かもしれない。幸せを分けるっていうか、みんなで体験するっていうか。たった1人で幸せってないと思うんだけど。
宮田:おっしゃる通りです。そこは成立しないと思いますね。どんどんいろんな知恵を人類が積み上げる中で、「自分自身」って脳が思っているけれど、結局それってつながりの中にあるわけですよ。腸内細菌ひとつとっても、いろいろなものとつながっている。自分の中に違う生態系があったりする。どこを快適と思うかというのも、人それぞれ生まれた環境によってちょっとずつ違ってくるんですよ。
JK:幸せの種類って何万個もあると思うんですよね。年齢とか状況が違うので。
宮田:多様性という言葉が最近重要になってきて、それを嫌う人たちもいるんですけど、幸せは多様であるというのは重要なポイントだと思います。コシノさんに会うたびに毎回感動するんですけど、会った人をすごく元気にしてくれるんですよね。
JK:宮田さんもそうですよ! みんないつの間にか引き寄せられる。
宮田:悪いことはできませんね(笑)
出水:お2人を引き寄せたのが大阪関西万博ですよね。4月13日より大阪夢洲を舞台に開催されます。宮田さんがプロデュースしたシグネチャーパヴィリオンについてお伺いしたいと思いますが、テーマが「Better Co-being」。
宮田:日本語でいうと「未来への共鳴」という言葉を充ててますが、ざっくり言うと「幸せや未来は1人では到達できない」「ともに生きる」。この言葉に当たる英語が実はないんですよね。Co-existenceとかConvivialとかあるんですけど、日本は「ともに生きる」という言葉が学校でもコミュニティでも使われているんですが、これと正確に当たる英語がないので、Co-being。足元だけを見ているとどうしても相いれない。格差で受け入れられないこと、許せないことはあったりするんですが、未来を見て、そこからどう歩いていくかを見てみよう。それがBetter Co-beingの考え方です。
JK:今回の万博の大きなテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」。3年ぐらい前に聴いた時、これ何?とさっぱりわかんなかった(^^)
宮田:(笑)岡本太郎さんが1970年に太陽の塔で表現されて、当時はそれほど受け入れられなかった。一部の感度の高い変わった人たちは面白いって言ってたんですけど、9割ぐらいの人は「何だ?」で終わってたんですが・・・
JK:いまだに「何だ?」ですよ。大きくて、ユニークで、圧迫感があって。
宮田:(笑)当時はとにかく経済成長だった。彼が言ってたことは、人類の進歩、何かに向かってとにかく進んでいくっていうことへのある種の冷や水でもあった。「いのちの輝きこそ尊い、芸術は爆発なんだ」っていうのが彼のメッセージだった。経済は手段としては重要なんですけど、いつのまにかそれが目的化して人々の暮らしも、文化も、国さえも飲み込んでいって、でも実際それは目的ではなかった。それが何なのかと言うのが「いのちの輝き」という曖昧な言葉で、今も世界中で答えはないんですね。もちろんサステナビリティも1つの問いだし、平和も重要だし、Well-being=心の幸せも大事だし、コミュニティの価値とかライフスタイルも重要。それぞれの未来へのビジョンを持ち寄って、それを改めて問い直すっていうのが今回の万博のテーマです。
JK:宮田さんのパヴィリオンには、みんなが行きたくなるようなメッセージはありますか?
宮田:かなり小難しい理屈を並べている部分もあるんですけど(^^;)一番のメインは虹を作ります。光で、集まった人がともに集って作る。それが消えていくときも、はかなくて美しい。
JK:夜はどうなるの??
宮田:夜はまた違うものになります。虹の場所に、多様性をモチーフにした光のアートがあるんですが、何ひとつ同じパーツがないもので作ることで、ある種の多様性が見えてくるものです。もちろん来ていただければ見えますが、遠くからでも見えます!
JK:会場に壁はないんですね?
宮田:ないです。もちろん入場の制限はつけるんですけど、遠目でもなんだかよく分からないものが光っているのは見える(^^)圧倒的な光が。
JK:楽しみねぇ!
出水:しかも一期一会で、その時にいる人たちが作っていく。
宮田:そうです、まったく同じ景色はないので。その時の風の加減によって雨の状況も変わって来るし、光の差し込み方によってもどこにできるか違うんですよね。
出水:アプリも作ったりといろいろ仕掛けがあるようですね。
宮田:「ふしぎな石ころ~echorb」・・・発音はいろいろ議論してたんですけど(笑)見るだけだったらインターネットで十分じゃないですか。全部見た気になれる。でも1970年万博に行った人に話を聞くと「あの時の感覚が身体に残っている」と。やっぱり五感体験をともなってあの祝祭の場に行くと、忘れがたいものになってくる。人と人の共鳴もそうだし、世界との共鳴もそうですね。それをechorbに灯す。自分自身の鼓動を灯して、それが他者と共鳴していく。手から伝わってくる感覚だけで、けっこう感動できるんです。
出水:石ですけど、ドクドクって反応が来たりするんですか?
宮田:はい、それがハプティックスっていう最新技術。
JK:誰でもそこに行くと持てるんですか?
宮田:体験できます。最初に入る時に、自分自身の鼓動を灯すんです。それをセンサーでかぎ取る。実はけっこう心地いいんですね。自分自身の心臓って聞き取れないにせよ、体感してるんです。つねに感じているはずのものをechorbによって大きくして、それを他者の鼓動と共鳴させながら未来を感じる。僕たちはインターネットでかなり視覚に依存して、時にプラスアルファ聴覚ぐらいですけど、触覚も含めた五感、その場にいかなければ分からないもの。私たちのパヴィリオンだけではないですが、来て感じるっていうものはまだまだ可能性がある。
JK:子どもも喜びそうね。万博って子どもの頃に見た人と、見ないで大きくなった人では違うんですよ。未来ってイメージして作るわけでしょ。70年に体験した人が今本当に活躍してるし。未来は見えないものだけど、見えるものになったんです!
出水:お話を聞いて、ますます行ってみたくなりました!
(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)