北陸のまちなかで感じる、工芸の現在地 ― 「GO FOR KOGEI 2024」(レポート)
北陸を舞台に工芸の現在地を提示する広域型の展覧会「GO FOR KOGEI」。2020年から開催され(展示は2021年から)今年で5回目となります。
今年は昨年からの継続となる富山市の岩瀬エリアに、新たに金沢市の東山エリアを加えた2カ所で開催。15名+4組(総勢37名)による多彩な作品が並びます。
まずは、富山駅から車で約15分ほどの岩瀬エリア、ここでは10カ所で作品鑑賞を楽しめます。それぞれの場所は、徒歩で移動できる距離です。
イタリア料理店「ピアット スズキ チンクエ」には、屋内外に岩村遠の作品を展示。アメリカなどで活躍している岩村は、縄文や埴輪など日本的な素地をふまえつつ、鮮やかな色彩でデフォルメされた人物像をつくっています。
岩村遠《Neo Jomon: Yellow Mask》2024年
五月女晴佳は「Aka Bar」「Ao Bar」の二カ所に作品を展示。化粧が大好きという彼女は「層を重ねる」「磨きをかける」など、化粧と漆に共通項を見出し、唇をモチーフにした作品を漆で制作しています。
赤い唇を、人の欲望の根底にある生の象徴として捉えている五月女。薄暗い空間に、エネルギッシュな「生」があふれます。
五⽉⼥晴佳《蠱(まじ)》2023年
同じ漆を用いながら、全くイメージが異なるのが伊能一三の《へいわののりもの》シリーズ。仏像をつくる手法でもある漆の乾漆技法で制作した、子鹿や子ども、犬や猫などの身近なモチーフを題材にした立体作品です。
タイトルにもあるように、その作風はとても穏やか。人体の表現は西洋の人体彫刻とは異なり、どこか日本的な情緒も感じさせます。
伊能⼀三 展⽰⾵景
岩崎努は仏教寺院や建築の装飾で知られる富山伝統の井波彫刻師を父に持ち、父の下で修行を積んだ後に独立。富山市東岩瀬の工房「木彫岩崎」で、伝統の彫刻技法を守りながら、写実的な木彫作品をつくっています。
展示されているのは、本物と見紛うばかりの柿。山の近くで生まれ育った自身の原風景から、自らが思う柿らしさを追求し、一つの木材から彫り出す「一木造り」で制作しています。
岩崎努《嘉来》2020-2024年
石渡結は若干24才という若いアーティスト。展示されている作品のひとつは、金沢美術工芸大学美術工芸学部工芸科の卒業制作でつくられた作品です。
織物の構造に着目した石渡の立体作品は、糸を撚り合わせ、土で糸を染めるところからはじめたもの。太さや質感の異なる糸で、布の構造が現れるように織りながら、巨大な織物の塊をつくりあげていきます。
⽯渡結 ⼿前から《Tabula Rasa》、《Vita》2024年
続いて、金沢を代表する観光地「ひがし茶屋街」を擁する東山エリア。5カ所で展開され、ここも徒歩で移動可能ですが、道がわかりにくい場所もあるのでご注意ください。
塚本美樹が運営する台湾料理のレストラン「四知堂 kanazawa」に併設するギャラリー「SKLo」では、木工作家の川合優による使い捨ての皿を展示。
かつて大量に植えられた針葉樹を薄く切った経木でつくった皿を、四知堂でのランチや喫茶で、お皿として実際に使用。紙皿に比べて製造にかかるエネルギーが少なく、有害な廃棄物も出ません。
川合優×塚本美樹 川合優《経⽊の蓮弁⽫》2024年
輪島で器をつくっている赤木明登と、信楽焼の新たな表現を探求している大谷桃子は、東山の景観に寄せたスペース「KAI」で、漆器や絵画による巨大な作品を展示。
テーマは「今は亡き数多の工人と共に」。2024年の能登半島地震で大きな被害を受けた産地に思いを寄せ、分業制の輪島塗の歴史や軌跡を辿りながら、再生への期待を表現しています。
赤木明登×大谷桃子
その「KAI」を舞台に、建築家の三浦史朗と大工や木工、紙、竹、アルミなど各素材の職人が実験や実践によって手がけてきた作品を収めているのが「KAI 離」。通常は非公開ですが、本展ではじめて広く公開されます。
会期中に「KAI 離」では、室町時代中期に流行した「淋汗茶湯」から着想した宴席「淋汗草事」が開催。松・竹・草の3段階で来場者をもてなすもので、非日常的な空間での宴席により、自らと向き合ってもらう試み。「草」は予約不用で、無料です(松・竹は有料、要予約)。
三浦史朗+宴KAIプロジェクト
美術館のようなニュートラルな場所ではなく、伝統的な町並みが残り、昔ながらの暮らしが営まれている場所で工芸やアートを楽しむこころみ。美術鑑賞だけでなく、まち歩きも楽しみです。開催期間中にはさまざまなイベントも開催されます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年9月13日 ]