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江戸時代、遊郭に売り飛ばされた”お小夜”の悲劇 〜その不運すぎる末路とは

草の実堂

お小夜の少女時代(イメージ)

富山県南砺市小原の地に、ひっそりとたたずむ「お小夜塚(おさよづか)」。

ここはかつて、お小夜という女性が悲劇的な最期を遂げた場所で、彼女を悼む人々によってこの塚が建立されました。

果たしてお小夜とはどのような女性で、どのような生涯をたどったのでしょうか。

今回はお小夜の生涯をたどり、彼女の悲劇に思いを馳せたいと思います。

※お小夜の生没年や設定については諸説あり、年号は仮に当てはめているものです。

金沢の遊郭へ売り飛ばされる

画像 : お小夜の少女時代(イメージ)

お小夜は寛文10年(1670年)、現代の石川県輪島市にあたる能登国鳳至郡(ふげしぐん)門前町暮坂村で、貧しい百姓娘として生まれました。

お小夜が13歳となった天和2年(1682年)に、輪島の麦屋へ奉公に出されます。

麦屋とはご当地の名産である素麺づくりを営む店で、お小夜は懸命に働きました。

かくして無事に年季が明けたお小夜は、故郷の暮坂村へ帰ってきます。元禄元年(1688年)ごろでしょうか。

しかし家族との再会を喜んだのも束の間、お小夜は程なくして金沢の遊郭へ売られてしまったのです。

素麺づくりならともかく、そろそろ結婚も考えたい年頃の娘を遊郭に出すなんて……そうさざるを得ない事情(経済的困窮など)があったのかも知れませんね。

あるいは悪い女衒(ぜげん。遊女の調達ブローカー、人買い)に騙された可能性も考えられます。

例えば「よい奉公先がある。お小夜ちゃんは器量よしだから、しっかり励めばお武家様との縁談だって夢じゃないかも……」とか何とか。

あくまで仮説ながら、時代が時代ですから、女衒だってこのくらいの嘘は平気でついたことでしょう。

かくしてお小夜は、金沢の遊郭へ売り飛ばされてしまったのです。

遊女として活躍するが……。

画像 : 遊女として活躍したお小夜(イメージ)

現代でも三茶屋街(ひがし茶屋街・にし茶屋街・主計町茶屋街)が残るほど茶屋文化の栄えた金沢ですから、当時はさぞかし遊郭が多く営業していたことでしょう。

遊女となってしまったお小夜は、我が身の不運を嘆く間もなく、生命を削るように働きました。

元から器用だったお小夜は唄に三味線、踊りに太鼓などを手広くこなし、器量よしも相まって遊郭でも人気者となったようです。

しかし元禄3年(1690年)、又しても彼女を不運が襲いました。

お小夜が働いていた遊郭は非合法営業をしており、風紀を乱すとして経営者もろとも流刑に処されてしまうのです。

好きで遊女をしていたでもなかろうに、お小夜としてみればとばっちりもいいところでした。

もちろん連帯責任ですから他の遊女たちも一緒に流罪となるのですが、ここでもダメ押しとばかりお小夜に不運が襲います。

何と流刑先が能登ということで、お上より「能登はお小夜の故郷に近いではないか。それでは反省にならないだろうから、お小夜は別の地へ流すように」とのお達しが下りました。

ちなみに能登出身の遊女はお小夜一人。
流刑に処されるだけでも心細いのに、みんなと引き離されてしまう辛さは、想像を絶するものです。

かくしてお小夜は遊女仲間と引き離され、一人で越中国五箇山(富山県南砺市)へ流されてしまうのでした。

愛する男に裏切られ、非業の最期

画像 : 遊女時代の芸技を披露するお小夜(イメージ)

21歳という若さで罪人の烙印を押され、五箇山へ流されたお小夜は、山奥で苦しい生活を強いられます。

在地の村人たちはお小夜に同情し、できる限り親切に扱いました。

またお小夜もささやかな礼として、遊女として培った唄や踊りなどの芸を披露するなど、心温まる交流があったと言います。

そんな暮らしを続ける中で、お小夜は隣村の吉間(きちま)という青年と恋仲になりました。

罪人の烙印を押されていようと、それはお小夜が悪事を働いたからではありません。

愛さえあれば、濡れ衣なんて……と盛り上がったかどうかはともかく、やがてお小夜は吉間の子供を身ごもりました。

しかしここで夢から醒めてしまったのか、あるいは親族から反対されたのか、吉間はガラッと手のひらを返したのです。

「ごめん。どんなに美人で性格や相性がよくても、やっぱり罪人を嫁にとることはできない」

吉間はいわゆる「いいとこの坊ちゃん」だったのでしょう。前科者を娶って家名を損ねることが出来ませんでした。

ロクに覚悟もなくお小夜を抱いて、子供が出来たら現実に醒めて、家名大事でハイさようなら。

お小夜とすれば、まったくもってやり切れません。愛の力をもってしても、自分の罪業は拭い去れなかったことを痛感させられたことでしょう。

自分だけならいざ知らず、これから生まれてくる我が子に「罪人の子」なんて苦しみは味わってほしくありません。

ならば残された選択肢は一つ。

お小夜は庄川の流れに身を投じ、生命を落としてしまったのです。享年28。時に元禄10年(1697年)でした。

お小夜の略年表

・寛文10年(1670年) 誕生(1歳)

・天和2年(1682年) 麦屋へ奉公に出る(13歳)

・時期不詳 年季が明けて故郷へ帰る

・時期不詳 金沢の遊郭へ売り飛ばされる

・元禄3年(1690年) 越中国五箇山へ流される(21歳)

・時期不詳 吉間と恋仲になる

・時期不詳 吉間の子を身篭るが、拒絶される

・元禄10年(1697年) 入水自殺を遂げる(28歳)

終わりに

今回は悲劇の遊女・お小夜についてその生涯をたどってきました。

いくつもの不運が重なったことで、このような結末を迎えてしまったことが、今も人々の胸を打ちます。

ところでお小夜について調べてみると、生没年や出身などが様々に伝わっていました(今回と全然異なる物語も少なくありません)。

まさに彼女が伝説となり、人々によって様々な尾鰭がつけられた結果と言えるでしょう。

いずれにしても、悲しい最期を遂げたお小夜が、極楽浄土で幸せに暮らしていることを願ってやみません。

※参考:
・お小夜塚 - いこまいけ南砺
・お小夜塚 「とやま観光ナビ」
・お小夜塚-日本伝承大鑑
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

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