福原みほ スペシャルゲストとしてKが出演、ビルボードライブ東京公演をレポート
MIHO FUKUHARA Soul Funk Session
2024.11.18 ビルボードライブ東京
“大船に乗ったような”という表現がしっくりくる。開演前から場内には、この日のライブが素晴らしい内容になることを信じて疑わない空気が充満していた。なにしろタイトルから『Soul Funk Session』である。福原みほのレパートリーの中からソウルやファンクのテイストの強い曲が披露されること、彼女のファンならお馴染みの演奏陣が脇を固めていること、会場がビルボードライブであること──。これだけの材料が揃えば、期待というよりもはや確信。そして案の定、実際のライブは素晴らしいものだった。
1stステージの開演時刻17時半を迎え、バンマスを務めるオオニシユウスケ(Gt)のほか、大神田智彦(Ba)、みどりん(Dr)、森俊之(Key)、MARU(Cho)からなるバンド陣がステージに上がり、続いて福原が登場すると熱のこもった拍手が出迎える。「イエーイ、すごい!!」と笑顔で喜んでみせたのも束の間、演奏が始まれば瞬く間に上質で大人なグルーヴが会場を満たし、ナチュラルでありながらパワフルな歌声が胸に飛び込んでくる。曲は1stアルバム収録の「Everybody Needs Someone」。あの時代からこれだけ本格的なソウル/ファンクのエッセンスを内包した楽曲を世に出していたという事実に驚かされる。場内からのクラップに乗せ、陽光が降り注ぐような晴れやかでおおらかなファンクネスで魅せたのは「WASABI GREEN」。シンプルなビートに絶妙なニュアンスを付けていくドラム、跳ね感の肝を担うギターと鍵盤。曲調的にも一際目立つ、歌うようなプレイを見せるベースがひたすら快楽成分を放ちまくる。
爪弾くギターのみを伴奏にした冒頭部分から、豊かな中低音から高音域のフェイクまでスムースな歌唱で圧倒した「I Say a Little Player」は60'sのカバー。この日は他にもいくつか洋楽のカバー曲が披露されたのだが、オリジナル曲と比べて、聴いた感触にも客席からのリアクションにも差異がまったくなかった。もちろん、観客の中には個々に「あの曲が聴きたい」という要望はあったはずだが、それ以上に“福原みほが歌うソウルやファンク”という世界そのものに思いっきりヤラれてしまった印象である。続いてはデビュー前から存在する「絶え間なく」を、ゆったりチルなアレンジとMARUとともに響かせるメロウなハーモニーで届けていく。
「ここからは『Soul Funk Session』に入りたいと思います……もう始まってるんですけどね(笑)」
そんな宣言通り、ライブはより一層コシの強い時間に突入していく。まずはビル・ウィザースのカバー「Use Me」から。ご機嫌なベースのフレーズから始まり、福原が力強くファンキーなスタイルで歌い上げると、間奏では2階席からブルースハープを吹きながらKが登場! 少々ラフに着崩したジャケットスタイルの彼は演奏を続けながら階段を降り、ステージで福原と合流。ちょっと格好良すぎるくらいの登場シーンである。福原曰く、メロウなイメージのあるKがこの歌を歌ったらどうなるんだろう?というアイディアから選曲したという、Earth, Wind & Fireの「Can't Hide Love」も格別で、デュエットスタイルでの二人の歌唱からはそれぞれのルーツや、キャリアを重ねて得た円熟みを存分に感じることができた。
デビューのタイミングが近く、共通の友達も多い割にはあまり共演経験は多くないという福原とKだが、まるで気心知れた間柄かのように歌以外でのトークの間やテンポ感も絶妙。さらに二人で新曲まで作ったことを明かすと、まだレコーディングすらしていないというその曲、「Rocafellas」を初披露した。ディスコ調のダンサブルな骨格に、Kがトークボックスでエレクトロ調のエッセンスを加えていくサウンドは斬新で、そこに乗るツインボーカルの素晴らしさはもはや説明不要。ノリノリかつロマンティックなこの曲は年明けにリリースを予定しているそうなので、チェック必須である。
Kを送り出したらもうライブは後半だ。アーシーな雰囲気で届けた「Sun On My Wings」では森による長尺のピアノソロでも大いに沸き、「Bad Thing」ではこの日一番アタックの強い演奏と迫力のボーカルで攻める。客席へマイクを向けたりとリアクションも楽しみながら歌う福原は、満面の笑顔を見せている。「今日はいっぱい愛をいただいて。続けてきてよかったなと思いました」──。そう噛み締めながら本編のラストに披露した「ライジングハート」では客席の至る所から歌声が上がり、会場が一つとなってのフィニッシュとなった。
2月に教会でのライブを予定していることも明かされたアンコールの「Grace」では、背後で開かれた幕の向こうに高層ビルの夜景とクリスマスイルミネーションが輝くというおまけ付き。とことん豊潤で魂を直接振るわせる、文字通りソウルミュージックを体現するような福原の歌。その類稀な魅力と得難さを、限りなく直感的に味わうことのできる、至福のライブ体験であった。
文=風間大洋