生成AIで生産性が向上したら、余った時間は何に使えばいいの?
生成AIの登場で、ホワイトカラーの職場は大きく影響を受けつつあります。
しかし、依然として多くの企業において「生成AI」は、思ったよりも導入が進んでいないのが現状です。事実、帝国データバンクの調査によれば、今年8月の時点で「活用」は17%。
従業員1000人以上、あるいは売上1000億以上の大企業であっても、活用企業は3割強にとどまります。
また、日本は世界に比べて、生成AIの利用率が低いという結果が出ています。
総務省は5日発表した2024年版情報通信白書で、生成AI(人工知能)を利用している個人が9.1%にとどまるとの調査結果をまとめた。比較対象とした中国(56.3%)、米国(46.3%)、英国(39.8%)、ドイツ(34.6%)とは大きな開きがあった。
(日本経済新聞)
いったいなぜ、このような状況になっているのでしょうか。
一つは、多くの人にとって「生成AIの具体的な活用方法が明確でない」こと。
要は「何に使ったらよいかよくわからない」です。
そしてもう一つは、「そもそも生産性の向上に対し、興味もメリットもない」ことです。
そしてこの2つ、あまり関連が無いように見えますが、実は表裏一体です。つまり「生産性向上に興味もメリットもない」からこそ、生成AIの具体的活用方法を掘り下げたり、模索したりもしない。
そういう状況が、現場で起きている。
実際、日本の「ホワイトカラー」(=オフィスワーカー)文化では、長時間労働が美徳とされる風潮が根強く、効率化や生産性向上に対する意識が低い(むしろ抵抗する)場合が多々あります。
これはトヨタをはじめとする日本の製造現場が、「機械化を進め、乾いたぞうきんを絞るようにコストカット・生産性向上に取り組んできた」のとは対照的です。
逆に、海外企業は、ホワイトカラーの生産性に対しても、非常に厳しい傾向にあります。
知人の一人が、外資系の大手コンサルティング会社に勤務していますが、
「事務のアウトソーシング先のオペレーションについて、「毎年人を減らせ。5年で半分以下にせよ」」という目標を与えられているそうです。
これは厳しい目標のようにも見えますが、見方を変えれば「5年も経て、同じ人数でしかオペレーションを回せない」という状態を、改善にとりくんでいないとみなされるのは、製造業を見れば、十分に理解できます。
では日本では、ホワイトカラーの生産性において、諸外国に後れを取ったままとなるのでしょうか?
私は、そうではならないと思います。
なぜならば、日本の人口減少が加速しているからです。
近い将来、「ホワイトカラーの生産性」にも本気で取り組まなければ、仕事が回らないのは目に見えています。
むしろホワイトカラーの数を削れるだけ削って、現場に人を充当しなければ、国土の保全すら危ういかもしれません。
したがって、工場が、機械化で生産性を大きく向上させたように、オフィスも生産性を大きく向上させなければならない時代が来た。
そもそも、ホワイトカラーは人が過剰だ。
工場が、オペレーションの人員を減らし続けてきたように、オフィスの人員も減らし続けなければ、つじつまがあわない。
私はそう考えています。
そこへ来て、ホワイトカラーの仕事を代替できる機械=生成AI がようやく生み出されたのです。
これは、工場におけるロボットや工作機械の発明と、似たようなものと私は見ています。
工場で人間がハンマーを振るわなくてよくなったように、人間がオフィスで資料作りや情報処理に時間を使わなくてよくなりつつあるのです。
そして、オフィスへの生成AI導入を、工場の機械導入になぞらえれば、これは日本人にとってむしろ得意な領域なのではないでしょうか。
なぜ「得意」と言えるのか。
日本人はトップダウンによる大きな変革を嫌いますが、日常の小さな改善はむしろ得意です。
これは、トヨタが小さな改善を積み重ねて、世界一になったことは、決して偶然ではありません。
日本人は、現場での漸進的な改善が得意な人々なのです。
そしてそれは、生成AIによるオフィスワークの改善と、とてもよく整合する。
だから手始めに、私は自分が使い、生産性を向上させるために、「文書生成」の生成AI「Automagic」を作りました。
実際に、私が文章を書くスピードは、従来の3倍から5倍になったと思います。
生産性を向上させたら余った時間はどうする?
しかし今もなお、日本のオフィスで生成AIの導入が遅い理由は、前述したように。短期的には「一般社員」の目線からすれば、生産性の向上は自分たちの首を絞めるからです。
自分の立場を危うくする(ように見える)生産性の向上に、積極的に取り組む理由がない。
生成AIを使ってまで、本当に生産性の向上なんてやる必要あるの?という話になります。
仰る通りです。
私は、目的を「人員削減」においた生成AI導入は、労使の揉め事を増やすだけだ、と思っています。
今後10年、20年と経るうち、少ない人数でオフィスワークを回さねばならなくなるのはわかる、でも今はその時ではない。
みんな、そう思ってますよね。
でも、今のように「議事録を作るのに何時間もかかる」「提案書を書くのに1日かかる」といった、生産性の低い状態も良くないのではないでしょうか。
要するに、生産性を向上させたら、余った時間は何に使うのか、というところが明確になっていないとダメなのだ、と思います。
そこで私が申しあげたいのが
「余った時間は子育てに使う」
「余った時間は家族に使う」
です。
雇用を守りながら、時間を有効に使うには、生産性を向上させて余った時間を、皆で家族を強くするために使えばいいのです。
実際、2年ほど前、伊藤忠商事の女性社員の出生率が急上昇したというニュースが流れました。
朝型勤務は男性社員や子どもを持たない女性社員にも評判がいい。なぜなら労働時間が短くなるからだ。朝型勤務の終了時刻に合わせて仕事を終わらせようと、自然と効率を重視した働き方になる。だらだら働くことが少なくなり、生産性の高い働き方が実現できるようになる。
そして、この裏には「生産性の向上」があったという分析があるのです。
会社が儲かる、すなわち生産性が向上すると、出生率が向上する。
これは、絶対ではないにしろ、一つの側面であると思います。
企業はどのように生成AIを活用していけばよい?
では、企業は「ホワイトカラーのオフィスワークの改善」のために、どのように生成AIを導入していけばよいのでしょうか。
生成AIの原理は、過去のデータを基に、パターンを学習し、アウトプットを生成する技術です。
したがって今のところ、生成AIは既存情報の加工や改善に優れており、特定のルールや制約のもとでの作業において強みを発揮します。逆に、新しいアイデアやコンセプトをゼロから生み出す「0→1」のプロセスには不向きです。
これは生成AIの制約条件です。
それを理解したうえで、我々はまずこんな作業を、生成AIにやらせています。
1.タスク設定で、仕事の立ち上がりを加速
どこから手を付けたらよいかわからない仕事は、時間を浪費しがちです。しかし、生成AIのアシストがあれば、生成AIに「タスクの進め方を提案してください」と依頼することもできます。
例えば、調査業務であれば、調査の目的を明確にし、範囲と対象を設定し、方法を決定するなど、詳細なステップを提示してくれます。
2.反復作業の自動化
生成AIは、反復作業を自動化することで、作業効率を大幅に向上させることができます。
例えば、毎月のレポート作成や議事録の作成など、定期的に行われる単純作業はAIに任せることで効率化が図れます。
AIはまた、過去のメールデータをもとにしたメールの作成や返信、煩わしい転記作業、Excelのマクロを使わなければできなかったような作業なども、自然言語で依頼することができます。
3.検証・修正作業
例えば、生成AIで作成した議事録を、上司やクライアントの指摘を学習させたAIにレビューさせることで、事前に多くの指摘を先読みし、上司やクライアントの時間を節約することができます。
また、報告書や提案書、セミナー資料などのレビューも、生成AIを活用することで精度を高めることができます。生成AIは、誤字脱字の修正も得意ですよ。
4.資料作成
AIは「たたき台」を作るのが非常に得意です。
提案書の作成や、規定の作成なども、まずは「形を作ってくれる生成AI」に依頼をすることで、大まかな骨子を持った状態で、仕事に取り掛かることができます。
また、過去の資料を生成AIに参照させることで、よりカスタマイズされた資料を作らせることができます。
これはまだ一例にすぎず、やりようはいくらでもありますが、「生成AI」はオフィスの雑務をやらせるにふさわしい、まさに「工場の機械化」に似ているものです。
なお、この話に興味を持っていただいたら。
元電通コピーライターの梅田さん、生成AI普及協会理事の元田さんと一緒に、いろいろとウェビナーで配信しますので、来年の1月21日、ぜひ聞きに来てください。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」65万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)
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