小2のコロナ休校明けに始まった登校しぶり。「前のように学校に行けない」息子の葛藤と母の対応、そして中学生の今
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
きっかけはコロナ禍の長期休校。小2で経験した登校しぶり
トールが小学2年生の頃、新型コロナウイルスの影響で学校がしばらく休みになりました。妹のリンは幼稚園に通っていて、クラスごとに順番で登園することになっていたので、トールはわたしと二人で家にいる日が多くなっていました。
学校が休みとはいえ生活リズムを崩してはいけないと思い、登校するのと同じ時間に起きてごはんを食べ、午前中はドリルなどで勉強をし、お昼ごはんを食べたら少し外に出てお散歩をするという生活をしていました。
学校が再開すると、最初は行き渋る様子もなく登校していたトールでしたが、数日経った頃、急に朝起きられなくなりました。久しぶりの登校で疲れているのかなと思っていましたが、朝になると体がだるいと言って起きられない日が続きました。
その時に思ったのは、「休ませることはできるけど、このままずっと行けなくなったらどうしよう」ということでした。
わたしは外で働いていないので、家でトールと一緒に過ごすことは可能です。でも今休ませたら、ずっと休みたくなってしまうのではないか。余計に学校に行きたくなくなってしまうのではないかと考えました。
トールははっきりと「休みたい」とは言っていませんでした。トール本人の中でも迷いがあるのかな?とその時のわたしは思いました。
学校に行くのがつらい……本人の葛藤が伝わって
そこで最初の頃は、少し遅れて登校するようにしていました。まずは短時間から学校で過ごせるようにと考えてのことでした。
だいたい3時間目に間に合うように、学校まで連れて行っていました。下を向きながら明らかに猫背で歩くトールを見て、もう連れて帰りたいという気持ちが湧いてきました。「ママ、門まででいい?それとも下駄箱?教室まで行こうか?」と聞くと、「ずっとがいい」と言われたのを覚えています。
聴覚過敏やこだわりといったトール自身の特性もあり、その頃の学校はトールにとってとても疲れる場所だったと思います。少しでもホッとできるように、筆箱に好きなキャラクターのシールを貼ったり、疲れたら読んでねと小さなメモを渡したりしていました。
それまでのトールは楽しく学校に通っていましたので、本当は前のように楽しく通いたいという気持ちがあったと思います。また、学校には行かなきゃいけないという思いもあったのではないでしょうか。つらい気持ちとの葛藤をわたしも感じていました。
「学校を休みたかったら休んでもいい」母の思い
そのため、わたしはずっと「休みたかったら休んでもいい」という姿勢でいるようにしていました。トールがはっきりと休みたいと言った日だけではなく、見ていてどうにもつらそうだという時は休んでいいと伝えるようにしていました。学校を休んだ日は少しだけ勉強をして、あとは好きなように過ごしました。近所のお店にランチを食べに行ったりもしていました。
あまり楽しく過ごしてしまうとずっと家にいたいと思ってしまうのではないか、家のほうが良いと思わせてしまうのではないかと考えた時もありました。
でも、トールは疲れて学校を休んでいるのだと考えると、今日という一日を楽しくリフレッシュして過ごせるようにすることが、わたしにできることではないかと考え、そのように過ごしました。
トールの場合は、一日休めば次の日にはまた学校に行っていて、何日も続けて休むことはありませんでした。
小3で特別支援学級に転籍。中学生になった今は
小学2年生の前半はそのような調子で過ごしていましたが、後半になって、通常学級に在籍しながらも特別支援学級で一時的に過ごすことができるようになってから、トールは再び安定して学校に通えるようになりました。少人数で、自分のペースで学ぶことができる特別支援学級の環境が合っていたようです。3年生になり、正式に通常学級から特別支援学級に転籍することになりました。
この春、トールは中学1年生になりました。学校から早く家に帰りたいという気持ちは今も変わっていないようです。ただ、ずっと部活には入らないと言っていたトールですが、活動日数の少ない部活を選んで入部することにしたようです。
トールのペースで学校を楽しんでいるのだと思うと、とてもうれしく感じています。
執筆/メイ
(監修:初川先生より)
トールくんの小学校2年生時の行き渋りについてのエピソードをありがとうございます。コロナ禍、一斉休校。今となっては懐かしい感じすらしますが、なんとも言い難い緊張感や大人も子どもも目に見えぬウイルスや対人距離の取り方、コミュニケーション方法などでさまざまに心がすり減っていた面もあっただろうと改めて思います。それまで日常として連綿と続いていた学校生活が一度途絶えたこと、そしてトールくん自身も成長し、環境(学校、学校生活)に合わせるのみならず、本来の自分の過ごしやすさにも(成長ゆえに)気づけるようになり、うまく言葉にはできずとも疲れや「合わなさ」として感じられた時期とが重なったこともあるのかなと感じました。
学校のすべてが嫌いなわけではなく、学校に行ったほうがよいことも頭では十分に分かっていて、しかしながら、苦しい・つらい。そんなトールくんの葛藤に気づき、かといって、完全に学校から離れるのではなく、メイさんは程よいバランスを図ろうとされたようにも見えました。トールくんはその後、特別支援学級へと転籍し、環境がより一層トールくんにとって合うものに変化したことも奏功し、その後も登校が続いているとのこと、何よりです。おそらくは学校で何かしら得ているもの(楽しさ、学習に関することなど)もあるのだろうと感じます。トールくんなりの学校との付き合い方、自分が疲れすぎない距離感について中学生になってもうまく模索しながら、楽しい中学生の時期を過ごせるといいですね。部活動にも参加してみることにしたとは、何よりです。やってみたいと思ったことをやってみて、自身に合うかどうか・楽しめるかどうかをぜひ検討してもらえればと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。