冨岡 愛 「音楽を通して誰かの人生の一部になるって、こういう瞬間のことなのかな」、ライブ表現の手応えを全編で感じたツアーファイナル東京公演を振り返る
Let's meet on the Dance Floor
2025.4.23 LIQUIDROOM
今年の1月から4ヵ月連続リリースを展開。アジア圏のSpotifyバイラルチャートで熱い注目を集め、SNSでの再生回数も伸ばし続けているシンガーソングライター・冨岡 愛。先日行われた初の東名阪ツアー『Let's meet on the Dance Floor』は、大切に歌い続けてきた曲から最新曲までをバンド編成で届けるライブだった。ツアーファイナルとなった4月23日(水)・東京・恵比寿LIQUIDROOM公演の模様をレポートする。
SEが鳴り響き、ステージ上でカラフルに点滅した「TOMIOKA AI」というアルファベットのネオンサイン。バンドメンバーに続いて登場した冨岡 愛を拍手と歓声が出迎えた。オープニングを飾ったのは「ジェラシー」。エレキギターの弦を刻みながら響かせる歌声が力強い。バンドサウンドに包まれながら輝く姿を目の当たりにした観客は、ときめく胸の内を手拍子で表現していた。続いて「愛 need your love」と「あなたは懐メロ」も披露された時点で、爽やかな熱気で満たされていた恵比寿リキッドルーム。「会いに来てくれてありがとうございます!」と挨拶をした彼女は、笑顔を輝かせた。
「私のライブ、初めての人はいますか?」と問いかけたところ、たくさんの手が挙がったので大喜び。「知ってる曲があれば、たくさん歌ってほしいです。最後までダンスフロアを楽しんでいってくれたら嬉しい。よろしくお願いします!」という彼女の言葉に100%応える空間が、その後も生まれ続けた。歌いながらステージ上を自由に動き、観客の手拍子の熱量を上昇させていた「かろやかに」「劣り」。瑞々しいメロディをじっくりと高鳴らせた「ぷれぜんと。」「ラプンツェル」……次々と曲が披露される度に彼女と観客の間で明るいエネルギーが交わされていた。
初日の名古屋で「どこから来たの?」と観客に問いかけた際、「ニューヨーク」という声に気づかなかったのを反省した彼女は、片側のイヤモニを外して質問。すると「沖縄」「岩手」「島根」といった声がフロア内で上がった。「インドネシア」「ソウル」「ドイツ」「ハワイ」「ポーランド」など、海外から来た人もいる。Spotifyのバイラルチャートでも示されていることだが、やはりファンの輪は国境を越えて広がりつつあるのだろう。そんなことを再確認できたMCタイムを経て披露された「強く儚い者たち」は、ドラマ『HEART ATTACK』主題歌。Coccoが1997年にリリースした曲のカバーだ。 雄大なメロディに身を任せながら彼女が一心に響かせた歌声は、観客をうっとりとさせていた。
作詞作曲を始めて間もない17歳の時に作った「Star 空」。4歳から中学3年生までの11年間を過ごしたオーストラリアの親友のことを想い、誕生日に贈りたくてメロディと言葉を紡いだのだという。アコースティックギターの弾き語りで届けたこの曲を彩っていたのは素朴なサウンドだが、同じ空の下にいる友に対する強い想いが溢れ返っていた。作った当時と変わらない気持ちが、曲を躍動させていたのだと思う。彼女のシンガーソングライターとしての原点に触れた気がした。
バンドメンバー各々のソロプレイも繰り広げられたインスト曲を経て突入したライブ後半。「アイワナ」「PSYCHO」「missing you」を披露した後、彼女は祖父母について語った。高校時代からの交際期間を経て結婚した彼らは、70年間にわたって連れ添ってきた。仲睦まじい2人が登場する「MAYBE」のTikTok動画は、200万再生となったのだという。「一番多かったコメントは“こうなりたい”“元カレとこうなりたかった”。みんな愛することを諦めてないんだなと感じて、自分も誰かを愛することをもう少し素直に受け入れてもいいのかなと思いました。メイビーが繰り返されていく毎日だけど、あなたとだったらマストビーにしたいなと思えるような、そういう相手を想いながら聴いていただけると嬉しいです」という言葉を添えた「MAYBE」は、耳を傾けた観客の間に温かな感動が広がっていくのを感じた。続いて披露された「恋する惑星「アナタ」」は、人々の手拍子も伴奏の一部と化していたのが思い出される。手作りの応援ウチワを観客から借りて振ったりもした彼女は、とても幸せそうな表情を浮かべていた。
「みんなが同じ空間で同じ音を聴いて、いろんな感情になって、少しの間だけどお互いの人生というダンスフロアを共有し合っている。それってすごいことだと感じます。音楽を通して誰かの人生の一部になるって、こういう瞬間のことなのかなと思います。今日という時間を私にくれて本当にありがとうございました」――抱いている想いを語ってから披露した「New Style」は、この日にリリースされた新曲。「初のオールイングリッシュ。新たなスタイルを見せたくて、私のルーツでもあるオーストラリア出身のプロデューサーTaka Perryさんと一緒に作りました。4月から新しいチャレンジをしようか悩んでいる人が聴いてモチベにしてくれたら嬉しいです」という言葉が歌う前に添えられた。撮影OKである旨が告げられると、観客が一斉に掲げたスマートフォン。フロア全体で液晶画面が輝くのが幻想的だった。
そしてライブのラストを飾ったのは「グッバイバイ」。サビに差し掛かると、掲げた腕を左右に揺り動かした観客。届けられた穏やかなエネルギーを感じながら声を響かせ、渾身のロングトーンで歌を締めくくった彼女は、支えてくれたバンドメンバーを紹介。晴れやかな笑顔を浮かべてステージを後にした。こうしてエンディングを迎えた『Let's meet on the Dance Floor』のファイナル公演。ライブでの表現に対しても彼女が手応えを得ているのを全編で感じた。今後、ステージ上で輝く機会も増やしていくのだと思う。
取材・文=田中大 撮影=umihayato