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思わず声が出ると先生が予言するシーンとは? 本来の舞台でクイーンを好きなように動かした物語――劇場アニメ最新作『怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)』作者・はやみねかおる先生インタビュー

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

子どもから大人まで幅広い世代を虜にしている冒険小説「怪盗クイーン」シリーズ。その劇場アニメ最新作『怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)』が、2025年5月23日(金)に全国公開となります。

今回の舞台は、豪華客船ロイヤルサッチモ号。怪盗クイーンとパートナーのジョーカーは、宝石「インペリアル・サファイア」を手に入れるために乗り込みますが、他にも宝石を盗み出そうとする者が現れたり、刺客たちに狙われたりと前途多難なカリブ海クルーズが始まります。

このたび、劇場アニメ最新作の公開を記念して、「怪盗クイーン」シリーズの作者・はやみねかおる先生にインタビューを実施しました。

リモートで行われたインタビューでは、クイーンのぬいぐるみをはじめとした様々なグッズに囲まれながら、笑顔でお話ししてくださったはやみね先生。『怪盗クイーンの優雅な休暇』の見どころや執筆の裏話について、たっぷりとおうかがいしました。

 

 

【写真】『怪盗クイーンの優雅な休暇』原作者はやみねかおるが思わず声が出ると予言するシーンとは?/インタビュー

先生の想像力を超えるアニメならではの「怪盗クイーン」

──最初に、「怪盗クイーン」シリーズ2作目のアニメ化を聞いたときの率直な感想をお聞かせください。

はやみねかおる先生(以下、はやみね先生):自分はまったく知らないまま劇場に連れていかれて、そこで行われたイベント(※1)の発表で知りました。

秘密にされていたので、本当に皆さんと一緒にビックリして。最初は騙された!という怒りがありましたが、すごく嬉しい気持ちがこみ上げてきました。

※1:2023年3月12日に開催されたスペシャルイベント「怪盗クイーンはパーティがお好き」。

──先生にとってもサプライズ発表だったのですね。

はやみね先生:完全に騙されました、本当に! 思い出すとまた怒りが湧いてきます(笑)。

 

 

──シリーズ2作目がアニメ化される際、はやみね先生から製作陣へ、何か具体的なオーダーはされたのでしょうか?

はやみね先生:前作でアニメを作るのはものすごくすごいことだとわかりましたので、まずは、アニメ製作スタッフの皆さんに“楽しんで作ってください”とお伝えしました。

自分の希望としては、豪華客船というのがどういうものか見てみたい気持ちがありましたね。作者としては無責任な話になりますが、原稿で「豪華客船」と書けば、漢字四文字で豪華客船になるんです。その「豪華客船」が、アニメではどのように表現されるのかすごく楽しみでした。

でも、あとで、その自分の希望が製作スタッフの皆さんを悩ませてしまったという話を聞いて、申し訳なかったなと思いました。

──「はやみねかおる夏フェス2023」質問アンケートの一問一答では、アニメで見たいシーンは「クレイジーダンサーでの特訓シーン」と回答されていましたね。

はやみね先生:実際にその映像を見させていただきましたが、原稿を書いた当時はダンスダンスレボリューション(※2)にハマっていたことを思い出しました。当時の自分では想像力がおよばなかった、バーチャルの感じがアニメで表現されていてすごいですよね。

※2:1998年に登場した音楽ゲーム。音楽に合わせて足を動かして楽しむユニークなスタイルで一大ブームを巻き起こした。

──本当に、挿絵がそのまま飛び出してきたかのような美しさでした。

はやみね先生:やっぱり、自分のように文章しか浮かばない人間には無理な表現が、イラストやアニメの動きで見させていただけるのは本当に嬉しいですし、ありがたいことです。

 

 

── 一読者としても本当に嬉しいです。他に、映像をご覧になって印象に残ったシーンはありましたか?

はやみね先生:初楼のロシとロクのシーンや、イルマ姫をガードするときのアクションシーンが印象に残りました。あと、イルマ姫がクイーンと怪盗の特訓をするシーンもすごく面白かったです。

自分はどうしても(キャラクターの)動きを表現するのが苦手で、そのシーンの詳細を書いていないのに、アニメというものはああいう風に表現できるんだな、と。“あのシーンを文章で書いてみて”と言われたらできないと思うので、本当にアニメってすごいなと思いました。

──はやみね先生のイメージそのままでしたか?

はやみね先生:それが、自分はイメージできていなかったんです。イメージができていたら文章が浮かんでいたと思います。

怪盗の特訓シーンや怪盗の美学といった、文章でちょこっと書いて終わらせているところを大きく膨らませてくださっていてありがたかったですね。

──私たち読者は文章を読んでいるとイメージがすぐに浮かび上がってきますが、作者のはやみね先生はまったくイメージせずに書かれているという事実に驚きです。

はやみね先生:自分の場合、全部文章に出てくるので、本当に絵(イメージ)が浮かばないんです。実際にアニメで動く姿を見させていただくと、「あ!こんな感じなんだ!」と逆にハッとさせられますし、アニメをノベライズしたら当時よりも文章がうまくなっていると思います(笑)。

 

アフレコ現場で感じた声優さんたちのお芝居

──今作では新キャラクターとして、Cocomiさん演じるイルマ姫や初楼メンバーなどがたくさん登場します。

はやみね先生:ロシとロクのバトル漫才が舞台で繰り広げられるシーンも見られますし、ズキアのポーカーのシーンのあの緊迫感……文章で書いてみてと言われたら困りますね(笑)。

実はアフレコを見学させていただいたんですけど、「この声聞いたことある!」「これ◯◯じゃない!?」と慣れ親しんだ声の方々が、自分が書いたキャラクターに声をあててくださることが夢のようでした。

 

 

──前回はリモートでアフレコに参加されたとおうかがいしましたが、今回は現場に行かれたのですね。

はやみね先生:はい。スタジオで監督さんの横で聞かせていただきましたが、本当に贅沢な時間でした。

──声優さんたちのお芝居をご覧になって、感じたことはありましたか?

はやみね先生:スタジオに声優さんが入られたとき、すでに声優さんの演技が完成していると感じました。自分のイメージでは、ブースに入って声をあてて「こういう感じでどうですか?」「もっとこうしてほしい」といったやり取りがあると思っていたんです。

それが実際はまったく違いました。声の感じからすべて自分が演じるキャラクターをきちんと作って、それを持っていって披露する場所なんだな、と。

(インタビューに同席していた講談社・原作担当編集の山室さんへ)私たちの打ち合わせとは全然違いますよね?(笑)

山室さん:(笑)。

はやみね先生:自分たちの打ち合わせは、2人で会って「どうしようね〜」とゆるく話をするだけなので、緊迫感が全然違いましたね。ねっ! 山室さん?

山室さん:はい。アニメは本当にすごいですね。

はやみね先生:もう初めての体験でしたから、すごく新鮮でした。

──声優さんやスタッフさんと何かお話はされましたか?

はやみね先生:すごく緊張していたので、まともに喋ることができませんでした。ただただ、「ありがとうございます!」と頭を下げて回っていたのを覚えています(笑)。

 

 

今作のアニメ化で1番不安だったキャラクターとは?

──今作に登場する新しいキャラクターの中で、先生イチオシのキャラクターをぜひ教えてください。

はやみね先生:やっぱりイルマ姫ですね。イルマ姫がメインとなっているお話ですし、あとは……初楼の茶魔です。

一同:(笑)

はやみね先生:まず、このアニメ化を聞いたときに1番不安だったのが、茶魔がコンプラ的にどうなんだろう、と(笑)。不適切にもほどがありすぎると思っていた茶魔も、非常にうまく処理していただいてありがたかったです。

──茶魔は……すごく面白かったです(笑)。

はやみね先生:本当にうまいなぁ、と思いました(笑)。

 

 

──個人的に気になっていることをおうかがいしたいのですが、「はやみねかおる夏フェス2023」質問アンケートで、“特別「イケメン」もしくは「かわいい」を意識して書かれているキャラクターはいますか?”という質問に、先生は“茶魔とMIC”と回答されていました。茶魔は、「イケメン」と「かわいい」どちらなのでしょうか?

はやみね先生:うぅ、思い出したくない……!

一同:(笑)

はやみね先生:茶魔は「かわいい」ですね。あれだけ自分の“美”というものを、美の探求者として堂々としているのはとてもかわいいですし、尊敬できます。でも、精神的にやられます(笑)。

──茶魔をはじめとした初楼メンバーはもちろんのこと、初楼のリーダーである緋仔とクイーンの回想シーンもファンにとっては心に刺さるシーンではないでしょうか。

はやみね先生:そうですね。上映中にきっと声が出るだろうと予言します。クイーンも見た目が若くなっているので、細かいところにも表現に気をつかってくださっているんだなと思いました。

あと、シスターとの戦闘で、緋仔の写真をクイーンが破るシーンにもぜひご注目ください。なぜクイーンが自分を恨むように仕向けたのか、最後の表情で表現してくださったのはありがたかったですし、原作でもしっかりと読んでほしいシーンです。

原作はくどく書いてしまいましたが、アニメのクイーンの表情から読み取ってほしいなと思いました。

──先ほど、今作のイチオシだとおっしゃっていたイルマ姫ですが、ジョーカーとのコンビも見どころの1つだと思います。はやみね先生にとってこの2人はどのような関係性だと感じていますか?

はやみね先生:運命的に結ばれないような2人が出会って、どういう感じになるのか。当初は、映画『ローマの休日』をモチーフに2人の関係を書いていました。

でも、ジョーカーを演じてくださった加藤さんの、イルマ姫を見守っていくような視点を感じ取って気づいたんです。

イルマ姫の境遇を知ったジョーカーにとっては、恋愛関係というよりも見守っていかなければならない相手だと。そのことを加藤さんに教えていただいて、すごく勉強になりました。

 

 

──先生が以前感じていた2人の関係性が、加藤さんのお芝居を聞いて変わったということですね。

はやみね先生:そうですね。去年に、ニューヨーク編(怪盗クイーン NYでお仕事を バトルロイヤル 前編/後編)でイルマ姫を再登場させましたが、次にイルマ姫を出すときには、ちょっと書き方が変わるかもしれません。出てくる文章が今までとは違う感じになるんじゃないかな、と今は思っています。

──おぉ〜! 次回のイルマ姫の登場がさらに楽しみになりますね!

はやみね先生:これは本当に加藤さんのおかげです。本来こうだったであろう関係性を書けるのが、自分もすごく嬉しいですね。その機会が来るかどうかはわかりませんが(笑)。

──いやいや! ぜひ何卒よろしくお願いいたします……!

 

クイーンたちの手綱を引き締めるほうが難しい

──はやみね先生にとって『怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)』は、シリーズを通してどのような位置付けにあるお話だと捉えていますか?

はやみね先生:シリーズの1本目を書いたときは、このクイーンというキャラクターが子どもたちに受け入れてもらえるかという不安がすごくありました。

まずは「夢水清志郎」シリーズの上越警部や岩清水刑事といった子どもたちが知っているキャラクターを出して、クイーンを紹介するというのが最初の1作目です。

そして、2作目からはクイーン本来の舞台で好きなように動かそう!と思って書きました。なので、舞台も日本ではなく、世界を相手にしています。

また、とにかく長い話を書きたいという気持ちもありました。当時の“青い鳥文庫の1番分厚い作品を超える”という目標を立てて書いたのが『優雅な休暇』です。

 

 

──「はやみねかおる夏フェス2023」質問アンケートの一問一答では、「1番時間がかかった作品」という話もされていましたね。

はやみね先生:当時はプライベートな事情もあって、半年ほど無理やりに締め切りを延ばしていただいたのを覚えています。

──長いお話を書くという面では苦労した点もあるのではないでしょうか。

はやみね先生:長いお話でも、放っておいたら勝手に動いてくれるキャラクターたちなので楽なんです。逆に、暴走し始めるといつ終わるのかまったくわからなくなって、いろいろなところに迷惑をかけてしまうことになりますから、手綱を引き締めるほうが難しいですね。

──まるで、クイーンの手綱を必死につかもうとするジョーカーのようですね。

はやみね先生:そうですね。本当はクイーンのように自分もゴロゴロしたい気持ちがありますが、彼らが動き始めてしまうので困ります(笑)。

──ちなみに、1番手綱を引き締めるのが難しいキャラクターは誰でしょう?

はやみね先生:やっぱり、クイーンは難しいですね。割とコントロールしやすそうに見えて難しいのが、人工知能のRDです。

今後のシリーズの展開としては、RDがクイーン以上に主役っぽく動きそうな予感がしています。

今まさに書き進めている「もう一つの0」というお話では、(6月発売の最新刊で)インドからフランスへと舞台が変わりますが、そこで終わりというわけではありません。

舞台はまたさらに変わり、このあと“人工知能が何をするか”という話になるので、RDが暴走してしまわないか自分でも少し怖いところがあります。

 

最低でも5回は劇場で観てください

──私自身、子どもの頃は戦闘シーンにワクワクしましたが、大人になってからはイルマ姫の葛藤をはじめとした人間ドラマに胸を打たれました。今作の『優雅な休暇』もそうですが、「怪盗クイーン」シリーズは子どもの頃に読む印象と、大人になってから読む印象がガラリと変わる魅力的な作品だと感じます。

はやみね先生:“本”ってすごく高いものだと自分は思うんです。子どもたちがお小遣いで買って「面白かった」と言えるだけの値打ちがあるかどうか、そういう不安はあります。

大人になってもう一度読んだときにわかるシーンが出てきたり、自分が親になって子どもに「こういうところが面白かったよ」と紹介できたりするぐらいのものを詰め込んで、やっとその本の定価のものを書けたのではないかと思うんです。

子どもの頃とはまた違ういろんな感想を持っていただけることは、作者冥利に尽きます。

──映画をきっかけに、大人になってから「怪盗クイーン」シリーズを再び手に取る方もきっと多いと思います。

はやみね先生:絶対に読まなくちゃ!というプレッシャーを感じず、気楽に楽しんでほしいです。映画で初めて「怪盗クイーン」に触れる方は、何も考えずにエンタメをお楽しみください。

これこそアニメ映画!と言えるほど、すごく面白く仕上がっているので、最低でも5回は劇場で観ていただけたら幸いです。

そして、「怪盗クイーン」シリーズもまだまだ続きます。頑張って書いておりますので、そちらのほうもどうぞよろしくお願いいたします。

──ありがとうございました。

 
劇場アニメ最新作『怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)』は5月23日(金)より公開、そして原作の最新刊『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』は6月11日(水)に発売となります。アニメも原作もぜひチェックしてくださいね!

 

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