春にも「紅葉」がある 淡いグラデーションを作る、知られざる“木の花”の世界と、隠された戦略【森に行こう#2】
突然ですが「木の花」と聞いて何を思い浮かべますか?
おそらくすぐに浮かぶのはこれですよね?
春の訪れを教えてくれるサクラ。
札幌の滝野すずらん丘陵公園では、毎年GW後半くらいにエゾヤマザクラが見ごろになります。
じゃあ他には?
・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・、なんだっけ??
「花」とだけ聞かれたらチューリップやタンポポ、スズラン、カーネーション、コスモスなどたくさん出てくると思いますが、「木の花」に絞られると意外に出てこない人が多いのではないでしょうか?
自分も滝野の森で働く前は、街でお仕事をしていたので、サクラくらいしか思いつきませんでした。でも、森の中にはたくさんの木があり、それぞれに個性的な花を咲かせています。
今回はそんな”知られざる”「木の花」5選のお話です。
連載「森に行こう! ~身近な自然におもしろさが詰まっている~」
「滝野すずらん丘陵公園」の「滝野の森ゾーン」から、森の住人KENTAが、自然の魅力や楽しみ方を伝える連載です。
知られざる木の花①認知度は高いのに、派手さとは無縁
最初に紹介するのはハルニレ。
名前くらいは聞いたことがあるかも知れませんが、森の中にはたくさんある木で、夏には樹液を求めてクワガタやカブトムシが来ることがあります。お店などの名前に使われていることもありますね。
そんな意外に認知度は高いハルニレの花がこちら。
地味!(笑)
まだ葉っぱも出る前に1センチほどの花が咲きます。知らずに見てるとコブみたいです。遠目に見るとこんな感じになります。
「花」と言えば鮮やかで目立つもの、というイメージがありますが、ハルニレは派手さとは無縁の花。初めて見た時はかなり衝撃を受けましたが、これが森の花の世界です。ハルニレの花は気づかないうちに散ってしまうことも多いので見られたらラッキーです!
知られざる木の花②カップケーキみたい!
続いて紹介するのはカラマツ。
「マツって花咲くの?」と思う方がいるかも知れませんが、カラマツの花は先っぽがピンク色になっていて”カップケーキ”みたいでとってもかわいいんです!
植物の中には花や木そのものが雄と雌に分かれてるものがあり、カラマツも雄花と雌花が別に咲きます。かわいいカップケーキを作るのは雌花の方で、雌花は受粉が終わると秋には茶色くて見慣れたマツボックリになります。
ちなみにカラマツの雄花は小さくてとても地味です。
雄花は花粉を飛ばすのが目的なので、花粉を飛ばしやすいように下向きに咲きます。
カラマツはもともと北海道にはなかった木で、成長が早く真っすぐ伸びるので、本州から持ってきて植林されました。
「カラマツ」は漢字で書くと「落葉松」。マツの仲間は常緑のものが多いんですが、カラマツは10月後半から11月の上旬にかけて真っ黄色に「黄葉」したあと、葉っぱを落とします。
滝野の森では秋になると様々な木が紅葉しますが、カラマツは紅葉シーズンのラストを飾り、他の木がほとんど葉っぱを落とした後、空も地面も真っ黄色に染める様子は圧巻です!
知られざる木の花③有名なのに、花だけは知る人ぞ知る
3つ目に紹介するのはミズナラ。
ミズナラといえば動物たちが大好きなドングリのなる木です。
(このあと虫の写真が出ます!苦手な方は心の準備を…)
子どものころ、公園で拾ってきた人も多いのではないでしょうか?ドングリは森に生きる動物たちにも大人気で、リスやタヌキ、シカやクマなどの貴重な食料にもなります。
ただ、ドングリって毎年同じ量ができるわけではなく「豊凶」があります。実際、毎年森にいると足の踏み場もないほど多い年とまったく無い年があります。
どんぐりは森の生きものたちに大人気なので、毎年たくさん作ると実を食べる動物たちが増えすぎて食べ尽くされてしまいます。そこで豊凶を作ることで動物たちが増えすぎて全部食べられないようにしている、と言われています。木の戦略もすごいですね!
ちなみに、どんぐりを拾ってくると結構な確率で白いイモムシが出てくることがあります。
どんぐりを拾ったことがある人の中でこの虫を見たことがある確率は100%らしいという噂もあったりなかったりしますが、あれはゾウムシの幼虫です。そうです、鼻の長いあれです。
コナラシギゾウムシ。
大人になると意外にかわいい。
そんな動物や昆虫たちに大人気なミズナラの花がこちら。
これも地味!(笑)
森に来る前はドングリの花がどんなものかを想像したことすらありませんでしたが、ちゃんと花が咲きます。ちなみにこれは雄花。葉っぱと同じような色をしているので遠目に見てもわかりません。
木の名前も木の実も有名なのに、花だけは知る人ぞ知るものになっています。
知られざる木の花④あま〜〜〜いメイプルシロップも
最後に紹介するのがカエデの仲間。
カエデといえば「紅葉」ですよね。
でも花は春の早い時期に咲くんです。
滝野の森で見られるカエデの仲間は大きく2種類。
1つ目がイタヤカエデ。
鮮やかな黄色い花が特徴です。春先は葉っぱも少ないので、森の中で黄色いものが見えたらおそらくイタヤカエデです。
青空をバックにサクラと並ぶと鮮やかさが増します。
最近話題になることが増えていますが、イタヤカエデは雪解けが始まる3月頃に樹液を採取して煮詰めるとあま〜〜〜いメイプルシロップを作ることもできます。
ちなみにあま~~~~~くするには40分の1まで煮詰める必要があるので、400ccくらいあってもこのくらいしか作れません。
知られざる木の花⑤カエデと言っても花の色が違う
もう一つのカエデがハウチワカエデ。
こちらは赤い花が咲きます。
一言でカエデと言っても花の色が全然違うんです。
このように春の森ではサクラだけではなく、さまざまな「木の花」を楽しむことができます。
そしてこれらの花が見頃になった時に、高い場所から森を見渡すと、花や葉っぱが淡いグラデーションとなってとてもきれいです。これを「春紅葉」と呼んでいます。
今回紹介した花の多くは4月下旬〜5月中旬までの、まだいろんな花が咲き始める前に咲きます。新緑の季節もいいですが、今年は早春の森を歩いて、個性的な木の花たちも楽しんでみてはいかがですか?
連載「森に行こう! ~身近な自然におもしろさが詰まっている~」
文:森の住人 KENTA
国営滝野すずらん丘陵公園 自然環境マネージャー。1978年札幌生まれ京都育ち。約6年間のサラリーマン生活を経て、森についての知識・経験ゼロの状態で滝野の森ゾーンの担当になり、様々なイベントの企画や広報、森づくりなどを担当。公園内にヒグマが侵入した際は専門家と一緒に現場の最前線で調査を担当。滝野の森staffXにて監視カメラを使った野生動物たちのリアルな様子などを発信中。
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は記事執筆時(2025年4月)の情報に基づきます。