アルムナイ採用とは?注目される背景やメリット、対処法を解説
労働人口の減少が社会問題となるなか、過去に自社で働いていた人物を再び雇用する「アルムナイ採用」への注目が高まりつつあります。業務内容や働く環境を既に把握している人材を獲得できるこの採用手法は、即戦力を現場に投入できる効果的なソリューションとして期待できます。
この記事では、アルムナイ採用のメリット・デメリット、カムバック採用との違いなどについて分かりやすく解説します。
アルムナイ採用とは
アルムナイ採用とは、 過去に自社で勤務していて退職した元従業員(=アルムナイ)を再度、雇用すること を指します。
一般的な中途採用は、ほかの企業での経験を持つ新たな人材を獲得する目的で行われます。初めて入社する人は、新しいノウハウや考えを自社にもたらしてくれる期待が持てる一方、会社や組織の現状やルールを把握したり、人間関係を築いたりするのに、少なからず一定の時間がかかります。
それに比べ、会社の業務や社内の環境に精通した人をターゲットとしたアルムナイ採用は、必要な教育や研修にかかる負担を軽減でき、効率的に戦力を確保できます。
カムバック制度とどう違う?
アルムナイ採用と似ている「カムバック採用」があります。カムバック採用は、 出産や育児、介護などの理由から一時休職していた人を対象に復職を促す制度 です。「ジョブターン制度」など、企業によって異なる通称が存在します。
カムバック採用は、あくまで 一時的に離れていた人の「復職」的なもの であるのに対し、アルムナイ採用は、転職や起業などで自発的に退職した人物も含めて、幅広く対象としている点で内容が異なります。
アルムナイ採用が注目される理由
なぜこうした採用手法が注目を集めているのでしょうか。3つの主な要因を探ってみましょう。
人材獲得競争の激化
少子高齢化に伴う労働力人口の減少により、優秀な人材の獲得競争が激化していることから、即戦力となるアルムナイ人材の価値は高まっています。アルムナイ採用は、人材獲得競争を勝ち抜くための有力な戦略のひとつといえ、実際にアルムナイ採用に積極的に取り組む企業も増えています。自社に精通したアルムナイ人材を確保することで、競合他社との差別化も図れるでしょう。
人材の流動化
転職が当たり前になった売り手市場の世の中で、企業に求められるのは柔軟な採用手法や働きやすい環境の提供です。そのひとつの取り組みとなるのが、一度退職した人を再度雇用するという柔軟的な思想にもとづくこの制度。
自社での勤務経験がある人材を対象とするため、文化適合性が高く、効果的に利用できれば定着率に寄与することも考えられます。
人的資本経営の重要性
近年、「人的資本経営」の重要性が認識されるようになっています。これは、社員のスキルや知識を重視しそれを有効活用することで、企業全体の成長を図る戦略です。
過去に一緒に働いた経験があるアルムナイ人材であれば、どんな能力や知識、強みを持っているのかが理解しやすいでしょう。そのため、退職歴にかかわらず、さまざまな経験を持つ人材に機会を提供することは、人的資本経営の観点からも注目されているのです。
アルムナイ採用のメリット
アルムナイ採用にはどのような利点があるのか、4つのポイントで紹介します。
即戦力人材の確保
アルムナイ採用の最大の魅力は、すぐに戦力となる人材を得られることです。まったく新しい社員を迎え入れた場合、業務に順応するまである程度の時間を要しますが、すでにベースとなる知識やスキルを持っていれば、その分迅速に仕事を進められます。
採用・教育コストの削減
勤務経験のある人を再雇用することで 採用プロセスが効率化され、コスト削減につながります 。また、教育にかかる労力が少なく済み、新規採用や他社からの中途採用と比べて時間と経済的負担を減少させられます。
組織の強化と活性化
以前に自社で培った経験と、離れていた期間に他社で経験したことをかけ合わせ、組織の課題解決や発展に貢献してくれる期待が持てるのもメリットのひとつです。社内外のネットワークを駆使して新しい視点や発想を組織にもたらし、イノベーションを促進する要因にもなりえます。
企業ブランディング効果
一度離れた人物が再び「この会社で働きたい」と強く望むのは、その企業の魅力を示す証拠でもあります。アルムナイ採用を通じて企業は「人が戻ってきたくなる職場」というイメージを構築でき、社内外からの評価の向上にもつながるでしょう。このようなブランディングは、社外の貴重な人材を獲得したり、社内の優秀な人材が流出するのを防いだりするためにも非常に重要な要素です。
アルムナイ採用のデメリット
アルムナイ採用にはデメリットも存在します。4つの主なリスク要素を押さえておきましょう。
企業文化の硬直化を招く恐れがある
多くの元従業員を再び組織に入れることは、企業の文化が変化しなくなるリスクにつながる場合があります。再雇用された人材は、過去の成功体験に囚われ、変化を好まない傾向があるからです。組織として変化に適応する能力が削がれてしまわないか、注意する必要があるでしょう。
退職へのハードルが低下する
アルムナイ採用は通常の中途採用と同じく選考を行ったうえで合否が決まるため、希望すれば必ずしも再入社できるわけではありません。しかし、この点について現職のメンバーが理解できていなければ「辞めても戻れる」という勘違いが生まれ、気軽に退職を選択する人が増えるかもしれません。その結果、組織全体の安定性や生産性に悪影響を及ぼすことも考えられます。
既存従業員の反発リスクが高まる
一度辞めた人が再入社することで、現職社員のなかで「不公平感」や「嫉妬心」が生じるリスクがあります。特に待遇や評価で優遇される場合、摩擦が生じやすくチーム内に不協和音が生じ、職場環境を悪化させる一因となるかもしれません。こうしたセンシティブな項目は慎重に検討し、調整することが重要です。
人事制度の整備やネットワーク構築が負担に
アルムナイ採用を進めるためには、綿密な人事・賃金制度の整備が必要です。再入社する人物に特別な待遇を与えず、既存メンバーとの公平さを担保するためには、しっかりとした評価基準を設けることが求められます。
また、アルムナイの採用活動を進めるにあたっては、ネットワークを築いておくために専用サイトを運用したり、個人情報を適切に管理したりするなど、システム設計を構築する必要があり、労力やコストもかかります。
アルムナイ採用を成功させるコツ
上記で紹介したメリットやデメリットを踏まえ、効果的に採用を進めるコツを紹介します。
公平な評価・処遇制度の導入
アルムナイ人材と現職を並べて公正な待遇を保証するためには、 職務成果に基づく明確な評価制度を設ける 必要があります。公平性を重視し、入社方法にかかわらず同じ評価基準を適用することが重要になります。
また、評価制度の設計に際しては、アルムナイ人材と既存従業員の両方の意見を取り入れることが重要です。双方の納得感を高めることで、制度の運用がスムーズに進みます。社内の理解を得ながら、丁寧に進めていくことが肝要といえます。
アルムナイとの積極的な交流
過去に在籍していた経験があるとはいえ、一度辞めた場所に戻るのは、「会社の状況や働く環境が変わっているのではないか?」「出戻りを受け入れてくれるだろうか?」「退職理由となった要因が改善されているか?」という不安や懸念があるものです。こうしたネガティブな感情に寄り添うには、交流の機会を設けたり、こまめな連絡でフォローしたりすることが大切です。定期的なコミュニケーションをとることで、帰属意識が芽生え、不安や懸念の解消につながるでしょう。
多様な雇用形態、柔軟な働き方を提供
入社方法や雇用の形にかかわらず、一人ひとりのバックグラウンドを考慮し、柔軟な雇用形態や働き方の選択肢を提供することで、活躍できる道が開かれます。正社員のほか、業務委託・業務提携・契約社員・パートタイムなどの幅広い雇用形態や、リモートワーク・フレックスタイムなど柔軟な働き方を整備しておくとよいでしょう。
アルムナイ向けオンボーディングの実施
アルムナイ人材の組織適応を支援するためには、組織の定着や戦力化を促進するアルムナイ向けのオンボーディングプログラムが有効です。新しい制度や変化についての情報を的確に提供し、早期に戦力化を促すことができます。
また、先輩アルムナイ人材が、後輩アルムナイ人材のサポートを行うメンター制度の活用も効果的です。
組織とアルムナイの相互理解の促進
再入社のアルムナイと現職メンバーの相互理解を深めるためには、社内イベントやプロジェクトを通じて積極的な交流を促すことが必須です。
信頼関係を構築するのは、日々のコミュニケーションの積み重ねにほかなりません。せっかくの貴重な人材が持てる力を存分に発揮できるよう、人事やマネジメント職の人たちが適切にフォローし、人間関係の摩擦で台無しにしないために見守っていくことも大切です。
また、アルムナイ人材の知見を社内で共有する機会を設けることも効果的でしょう。アルムナイ人材が社外で得た経験や知見を、社内で発信することで、組織の学習につなげられます。
まとめ
今回は、一度退職した従業員を再び雇用する「アルムナイ採用」について、注目されている背景からメリット・デメリット、採用を成功させるためのポイントなどについて解説しました。制度の特徴を踏まえて適切に取り組むことで、採用や育成にかかるコストを抑えつつ、優秀な人材を確保できます。この記事を参考に、ぜひアルムナイ採用への理解を深め、日々の採用活動で実践してみてください。
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