国産小麦に魅了され、その美味しさや使う意義を地元・松島から発信し続ける【ぱんやあいざわ】(宮城県・松島町)
「リジェネラティブ・ベーカリー」シリーズvol.16
『環境再生型農業』を応援するパン作りをしているベーカリーを紹介するシリーズ。
宮城県・松島町にある「ぱんやあいざわ」の相澤隆志シェフにお話を聞いてきました。
JR仙石線「松島海岸」駅からは松島海岸沿いの道を歩いたり、伊達政宗の菩提寺である「瑞巌寺」など風光明媚な景色を眺めながら徒歩10分ほどで到着。
仙台駅からは1時間かからずに着くので、さくっと気軽に往復してきました。
白壁に腰板の和風建築に、筆文字のようなひらがなの店名が目を惹きます。
8:30オープン。10:00頃に商品が揃うそうです。
全体的に茶色い色味ですよね。ハード系パンが3~4割くらいでしょうか。
私が「ぱんやあいざわ」さんを知ったのは『未来を変えるパン』というサイトがきっかけでした。
https://miraipan.jp/
・国産小麦、できるだけ近い産地の小麦(ご当地小麦)を使用
・なるべく農薬や化学肥料不使用栽培の小麦を使用
・合成添加物等不使用
・小麦以外の食材も地産地消、オーガニックなどを積極的に使用
など、口にするものの安全性にこだわった全国のパン屋さんをmapで表示していてわかりやすいのです。
さらに、6月に北海道・十勝の農家(とくら農場)さんを訪れた際に「以前からうちの小麦や小豆を使ってくれているんだよ」と話題に出たので「これは行くしかない!」とお話を聞きに行った次第です。
国産小麦にこだわられるのは?
パンの仕事に就いたのが23~24歳頃で、何かを作ることが好きだったこともあり、たまたま目についたのがパン屋の募集でした。
宮城県内のパン屋で働いていたとき、とある展示会にアグリシステム株式会社さんが来ていて話を聞き、サンプルをもらって使ってみたら「味も色も濃い!」と今までに感じたことのない衝撃があったのです。
灰分(外皮や胚芽部分に多く含まれるミネラル分)の含有量も多いですしね。
その出会い以来、アグリシステムさんの粉(北海道産契約栽培小麦&ライ麦)に惚れ込み、独立する前のお店でも仕入れてカンパーニュを作って店頭に出してみたり(ハード系のパンを出していないお店でした(笑))。
ありがたいことにそれを目当てに来てくれるお客様もいらっしゃいました。
独立してこのお店を始めた当初はすべての粉がアグリシステムさんのものでした。
現在は北海道・音更町の中川農場さんの3種類の粉や、地元東北地方の粉も使っています。
作り手(生産者)の人間力に惹かれる
とくら農場の土蔵さんは小麦も小豆も作っていて、現在うちのお店で使っている小麦はアグリシステムさんで扱っている「本別地粉」という本別町の生産者限定(とくら農場さん、小島農場さん、佐藤農場さん)の石臼挽き地粉を使っています。
3軒の農家さんたちは松島のうちのお店にも足を運んでくださるなど、積極的にパンを作っている人との交流を図ってくださるおかげで顔と顔が見える関係性を築けています。
アグリシステムさんは粉が美味しいというだけでなく、『未来のこどもたちのために、育てる人、作る人、食べる人が“One table”となる』など、食から考える安全の問題提起を粉袋にも記載するなど積極的にオーガニックの普及に尽力されています。
うちでサワードゥフォカッチャに使っている「トイピリカ」という転換期間中有機小麦は、有機栽培へ転換期間中の農家さんを応援するものです。
中川農場の中川泰一さんは化学肥料や農薬を使わない自然農法を確立された方で、麦の美味しさはもちろんなのですがすべてを超越したような人柄に惹かれ、使い続けたいと思うのです。
都内の有名ベーカリーのシェフ達がこぞって中川さんの粉を使うのも何か感じるものがあるからなのではないでしょうか。
山形県東根市にある株式会社小川製粉さんも、山形大学農学部さんが中心となって始まった“農と食の循環によって地域を豊かにしていこう”という取り組み「庄内スマート・テロワール」に参加し、庄内産小麦の地域内消費に尽力されています。
僕はこのような「人と人とのつながり」を感じられるものを使い続けようと思っています。
こだわりのパンを実食!
◆手ごねのサワードゥフォカッチャ(ハーフ)
アグリシステムの転換期間中有機小麦トイピリカ(ゆめちから、はるきらり、キタノカオリのブレンド)を100%使用。
自家培養発酵種でじっくりと発酵させたサワードゥブレッド。
水分を多く含んだ生地は少しずしっとして触れてもむちっ、食べてもむちっ!
気泡がツヤピカで手に吸い付くほど。
サワードゥ特有の酸味ある香りと味わい。北海道産の粉の旨みでしょうか、どっしりとした力強さを感じます。
リベイクすると外カリッ、中むっちむち。
オーガニックオリーブオイル、伊達の旨塩。ローズマリーで爽やかさをプラス。
塩の加減が小麦の甘さを引き立てていて、
イタリアンレストランで出てきたらこれだけをお代わりして満腹になりそうな美味しさです。◆クロワッサン
よつ葉発酵バターの旨みの濃い香りと北海道産小麦の香ばしい香りが重なり、食べずとも香りだけで一撃!
外層のカリカリとした軽やかさに内層の少し重なった部分のするりとした口どけが絶妙で、さらに一撃!
クロワッサン好きの私を十二分に満足させてくれました。
◆中川さんのミッシュ(混播小麦、ライ麦入り)※週末限定
中川農場さんの小麦「ブレドゥポピュラシオン」を相澤シェフが石臼で自家製粉し外皮までまるごと使った全粒粉を使用。
自然栽培の小麦は力強いという勝手なイメージがあったのですが、甘さと香ばしさとが混ざった優しく癒される香り。
その香りが口から鼻へ抜けていく心地よさを感じながら噛みしめるごとに甘みが広がります。
「なにこれ?今まで食べていたハード系なパンとは違う!」
外皮までも使うことでより麦の存在を感じられ、食べながら小麦畑の風景が頭の中に浮かんできます。
トーストすると香ばしさと爽やかな穀物感が増すように感じます。
冷凍して1カ月後にも食べてみたのですがその甘さと香ばしさは変わらず、とても美味しいので大きいサイズで購入しても食べきれちゃいますよ。
左からスペルト小麦、無印(小さい粒が現代小麦、長い粒がスペルト小麦)、ミッシュ
相澤シェフに中川農場さんの玄麦を見せてもらいました。
写真ではわかりにくいですが右がこのパンに使用しているミッシュ(緑色の粒がライ麦で、年ごとにライ麦の割合が違うそう)。
この石臼で挽いた粉を使ったパンにコアなファンがついているのも納得の美味しさです。
◆ホワイトチョコとナッツ
アグリシステムさんの「本別地粉」を5割程度使われているそう。
アグリさんでは2~3割程度を推奨していますが粉の味が濃いのでたくさん使いたくて、と相澤シェフ。
微かな酸味のあるカンパーニュ生地は外パリッ、中はむっちり。
ホワイトチョコのほのかな甘みと無添加のクルミとカシューナッツによるカリッとした食感が効果的で、そのままでもトーストしても美味しい。
◆3種オーガニックフルーツ
こちらもカンパーニュ生地。クラストは焙煎したような力強い香り。クラムはトーストするともちっと適度な弾力があり、噛むごとに鼻から生地の香りが抜けるほど濃い!
イチジク、クランベリー、レーズンの甘みと酸味がどこを食べても感じられて飽きない美味しさです。
◆小麦ぱん
中川さんのスペルト小麦、宮城県産夏黄金、山形県産ゆきちからをブレンドして使用。
少し気泡があってフォカッチャっぽい見た目だなあというのが第一印象。
艶のあるクラムは高加水でむちむちなのにまったくべたつきません。
甘みが広がりますが後味はすっきり爽やか!この甘みは夏黄金&ゆきちからの味なのかな。
初めて食べる小麦の種類ですが、単体でも味わってみたくなる味です。
トーストすると外皮の粒感がより感じられて香ばしさも増し、そこにバターがじゅんわりと染み入りものすごく相性がいい!!
あまりに美味しくてもう一枚バターを塗って食べてしまった。
◆あんこと発酵バター・柔
観光で松島に来た方々にも食べ歩きにぴったり、と人気。週末は100個くらい出るそうです。
ふんわりソフトな食パン生地は少し跳ね返る弾力もあり、
北海道・土蔵さんの小豆を使いしっとりめに優しい甘みに仕上げた粒あんは、一口目から芳醇な豆の香りが鼻腔を抜けていきます。
贅沢に挟んだミルキーなよつ葉バターと粒あんを小麦の味が美味しい生地がどっしりと受け止めてくれるので、人気があるのも納得です!
店名の由来
すべて平仮名で「ぱんや あいざわ」というわかりやすく読みやすい店名はどうやって決まったのかお聞きすると、当初はフランス語などでも考えてみたけれど国産小麦を使っているし年配の方にも一目でわかりやすいように、誰もが間違えようのない「ぱんや」と自分の苗字を併せたそうです。
この文字は、開店当初小学2年生だったお嬢さんが書いたものをデータ加工してもらい看板に使用されたのだそう。
手書きならではの温かさと、誠実さを感じられる丁寧な字体がお店のイメージにぴったりなだと感じました。
レジ前にあるこちらのマスコットは常連のお客様が作ってくださったもので、小麦の粉袋を思わせる素材感やパンが可愛くて目を惹いたのでご紹介♪
「松島」でパン屋を続ける意味、これからの目指すところは?
2016年4月にオープンして今年で9年目に入りました。
初めは仙台市内も考えたけれど地元・松島の良さを多くの人に知ってほしいと現在の場所に決めました。
多店舗展開など店を大きくすることは考えておらず、とにかく松島に来てもらいたいんです。
だから卸もしませんし、イベント出店も基本はやりません。
パン好きの方々がうちに来てくれたら、道すがらの風景で松島を観光したくなると思うんです。
また、観光に来た方々が途中でパン屋をみつけて立ち寄ってくれることもあります。
来てくれる人が増えれば街も活性化して、人口減少にも少しずつ歯止めがかけられるのでは?
うちのパンが気に入って「いつでも食べたい!松島に住みたい!」と移住する人が現れたら嬉しいですね(笑)
自分の育った松島を盛り上げたい!だから地域密着でこれからもここでパン屋を続けていくつもりです。
あとは、もっと国産小麦の美味しさを知ってもらいたいです。
全国にいる国産小麦を使ってパンを焼くシェフ達と電話や実際に会って意見交換をさせてもらっているのですが、皆さん本当に熱心で学ぶことが多く刺激を受けまくっています。
また、これからは地元小麦の存在も前面に出し、小麦そのものの美味しさがダイレクトにわかるようなカンパーニュなどハード系のパンの良さを伝えていきたいです。
僕の店ではカンパーニュ生地のパンが人気がありますが数年かかってやっと地元の人たちに浸透してゆきました。
理想は東京都八王子市にある「チクテベーカリー」さんのように棚がハード系のパンで埋め尽くされる光景にしたいです。
冒頭に触れたアグリシステムさんのトイピリカという粉は、慣行農業から新たに有機農業に転換中の農家さんが作ったものです。
農薬や化学肥料を3年以上原則使用せずに育てた農産物は有機JAS認証の格付けを受けられます。その移行期間である1年目2年目の農産物は有機JAS認証を受けていますが「転換期間中」という表示が義務付けられるため、新たにパッケージを作るなど負担が大きいそうです。
転換中の粉であったりオーガニックの粉は手間がかかる分価格も高くなるけれど、お客様には価格差ほど味の違いを感じていただけていないように思います。
だからもっと美味しいパンを作って「これだけ違うんですよ」とその差を縮めていきたいです。
オーガニックの粉を使いたいけれどやはり価格的に無理で使えないという話も聞きますが、無理してでも使っているベーカリーの皆さんは農家さんを応援し、これからの日本の農業を考えている方だと思います。
僕もその一端を担えるようこれからも、ここ松島からパンを皆さんに届けたいと思っています。
相澤さんに直接お話を聞けて、改めて味だけではない国産小麦の良さを感じることができました。
幼少時に訪れて以来数十年ぶりの松島訪問でしたが、相澤さんから見どころをお聞きして次回はゆっくり訪れよう、と駅近くの食堂から漂う美味しそうな浜焼きの香りに後ろ髪を惹かれながら松島をあとにしました。
※リジェネラティブ・ベーカリーについては以下をご参照ください。
https://www.agrisystem.co.jp/regenerativerye2023.html
SHOP INFORMATION
【店名】ぱんやあいざわ
【住所】宮城県宮城郡松島町松島字町内157-2
【電話番号】022-354-0233
【営業時間】8:30~パンが売り切れ次第閉店
【定休日】月・火(祝日の場合営業)、他不定休あり