【静岡市美術館の「北欧の神秘」展】 ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。空気が透き通っているかのような風景画
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市美術館で開かれている企画展「北欧の神秘ーノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」を題材に。
静岡市美術館で西欧の風景画を扱う展覧会といえば、2011年の「アルプスの画家 セガンティーニ」展、2017年の「ターナーからモネへ」展、2018年の「ヴラマンク展」、2023年の「ブルターニュの光と風」展などが心に残るが、今回の展覧会も長く記憶される気がする。
率直に言って、名前を存じ上げない画家ばかりだ。エドヴァルド・ムンク以外は、日本での知名度はそう高くないと思う。だが、心に残る作品がとても多い。
まず、序章「神秘の源泉-北欧美術の形成」の壁1枚に並べられた8作品に目を見張る。ファンニュ・クールベリ(フィンランド)、ヴァルネル・ホルムベリ(同)らによる19世紀半ばの風景画はどれも遠くまで見晴らしが良く、全体的にパッキリしている。空気が透き通っているかのようだ。はるか遠くまでくっきりと明るく描いている。曖昧さがない。
特にヨーハン・フレドリク・エッケシュバルグ(ノルウェー)の「雪原」に引かれた。真ん中に小川を描き左右から山並みの稜線が降りてくる。奥にも壁のような雪山がそびえる。全ての線が1点に集約されるような構図。一番奥の雪の山肌に光が当たっている。この作品の前で5分ほど足を止めた観覧者がいた。気持ちがよく分かる。なんとも不思議な作品だ。
水をモチーフに取り込んだ作品が多いのも特徴だろう。湖沼や海の水面の描き方の違いが興味深い。個人的にはアウグスト・ストリンドバリ(スウェーデン)の「街」が白眉だと感じた。縦位置の画面の3分の2ほどはどす黒い空で、海面もほぼ黒色。わずかながらの街の明かりが空と海の境界線の役割を果たしている。西洋絵画の展覧会でこんなに黒い海は見たことがない。
民話を基にした児童向け書籍の挿絵で知られる画家テオドール・キッテルセン(ノルウェー)のコーナーもユニークだった。ドローイングをベースにした映像作品は、アンビエント音楽に乗せて水の精や悪魔的な表情のトロルが「ぬっ」と顔を出す構成。水面や空気の揺らぎが感じられた。
(は)
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■静岡市美術館「北欧の神秘ーノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
開館:午前10時~午後7時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館、3月24日(月)は開館)
観覧料(当日):一般1400円、大学生・高校生・70歳以上1000円、中学生以下無料
会期:3月26日(水)まで