『追放者食堂へようこそ!』連載インタビュー第1回:原作・君川優樹先生×原作コミック・つむみ先生|丁寧に描かれるキャラクターの心情と美味しそうな料理に「アフレコ現場でお腹が空いてしまいました(笑)」
2025年7月3日より放送開始となった、TVアニメ『追放者食堂へようこそ!』。超一流の冒険者パーティーを追放された料理人デニス(CV:武内駿輔)が、憧れだった食堂を開店し、看板娘のアトリエ(CV:橘茉莉花)とともに、お客さんに至高の料理を提供するという“新異世界グルメ人情ファンタジー”です。
重厚なストーリー展開に加え、作中に登場する美味しそうな料理も本作の魅力のひとつ。アニメーション制作を、食欲そそる料理作画にも定評があるOLM Team Yoshiokaが担当するなど、深夜の飯テロアニメになること間違いなしです!
アニメイトタイムズでは、毎話放送後に掲載されるインタビュー連載を実施。第1回は、原作の君川優樹先生と、原作コミックのつむみ先生による対談が実現。作品の成り立ちや、第1話を観た率直な感想などを語っていただきました。
【写真】『追放者食堂へようこそ!』原作・君川優樹×コミック・つむみ インタビュー【連載第1回】
『追放者食堂』誕生のきっかけは超名作映画!?
──「追放者」そして「食堂」というキャッチーな要素が詰まった『追放者食堂へようこそ!』ですが、どのようなところから着想を得て執筆・制作をされたのでしょうか。
原作・君川優樹さん(以下、君川):小説を書き始める直前に『ロッキー・ザ・ファイナル』という映画(シルベスター・スタローンが主演を務めるボクシング映画)を観たのがきっかけになります。映画では、ロッキーの晩年が描かれているのですが、現役を引退して、地元でレストランを営んでいるんです。そこでお客さんにせがまれて、過去の栄光を語ったりしている。ある意味穏やかな生活ではあるものの、それでも息子とうまくいっていなかったり……英雄・ロッキーの晩年にしては、寂しさのあるものだったんです。
この映画でも、ロッキーは最終的にリングに戻るんです。『ロッキー』という映画には、社会から疎外感や敗北感を感じている人や上手くいかなかった人たちが共に立ち上がって、主人公の背中を押し、強敵に立ち向かっていくというテーマがあると思っています。それを観たときに、僕もこういう小説が書きたいと思ったんです。
レストランが「食堂」になり、ロッキーの普遍的なテーマが「追放者」に結びつきました。だから食堂で追放者たちが立ち上がって戦いに行く、みたいな話になったのかなと思っています(笑)。
──いわゆる“追放モノ”の作品は、現在も流行しているテーマでもありますよね。
君川:アニメ化のタイミングとはタイムラグがあるかもしれませんが、執筆し始めた当時は本当に流行っていましたので、「これ(追放モノ)でやってみよう」という気持ちは確かにありました。食堂に様々なお客さん(追放者)が来るという構造も、連作短編のような感じになりますし、発表ペースや読者との距離感にも合っているのかなと思いました。
──作品に登場する美味しそうな料理を言葉で表現するのも、簡単ではないのかなと思っていました。
君川:作品の出発点が”食堂モノ”ではなく、「食堂に集まった人を描く」というコンセプトだったので、実は当初、食事にはあまりフォーカスしていなかったんです。当時、自分もあまり良いものを食べていなかったこともあり、その描写自体が貧困だったなぁと思います。
でも食事の描写に関しては、コミックのつむみ先生が美味しく描いてくださったので、本当にありがたかったです。
原作コミック・つむみさん(以下、つむみ):ありがとうございます(照)。
──デニスがマッチョなのは、ロッキーがモデルだったから、でもあると思います。それ以外の部分で、どのようなキャラクターにしようと思っていたのですか?
君川:とにかく裏表がなく豪快で、彼の周りの人たちだけでなく、読者も応援できるようなキャラクターにしたいと思っていました。ロッキーはシルベスター・スタローンが演じていますが、スタローンって結構ナイーブなところもあるじゃないですか。だからなのか、デニスを書いていくうちに、「豪快で裏表がなく誠実」という表面的な部分から、自分の中でボロが出始めたというか、違和感を感じてしまったんです。なので話を通じて、もう一度デニスと向き合ったところ、ナイーブな部分も出てきたのだと思います。
──それぞれのキャラクターたちと向き合う際に感じる別々のカッコ良さが、とても新鮮でした。
君川:全体の雰囲気として追放モノをベースに書いていましたが、そこから少し外そうと思っていたので、新鮮と感じていただけていたのなら良かったです。
──ヒロイン・アトリエの誕生についてもお聞かせください。
君川:アトリエは、“そこにいた”キャラクターでした。デニスが置かれている状況があって、そこから話を進めていくプロットを考えているときに、ポッと出てきたキャラクターだったんです。
だから読者のみなさんに「こう思ってもらおう」という狙いや、物語において「こういう役割を担ってもらおう」という目的はなかったのですが、そのおかげで作為のないキャラになり、彼女のミステリアスな魅力にも繋がったのかなと思っています。
──ありがとうございます。次に、コミカライズの企画キックオフのお話をお聞かせください。
つむみ:私が長期でお休みをいただいていて、次に何を描こうかなと思っていたときに、コミックガルドさんからお声がけをいただいたのがきっかけでした。
とてもありがたいことに、少女漫画のお誘いをたくさんいただいていたのですが、私はずっと少年漫画を描きたいと思っていて。なので、このお話を聞いたときに、「これは私が描きたいものかもしれない」と思い、即OKをしました。個人的には、主人公がマッチョであるという要素も、新しさを感じて惹かれました。
──実際に本作の漫画を描いてみて、大変だったことはありますか?
つむみ:漫画で料理をしっかりと描いたことがなかったので、「美味しく描く」ということを意識しました。どうやったら美味しく見えるのかを研究して、何度も描き直したりしましたね。
──つむみ先生の工夫もあって、あんなにも美味しそうな料理の数々が生まれているのですね。
つむみ:やった! ありがとうございます!(笑)
「つむみ先生が喜んでくれたのでOKです!(笑)」
──お二人は普段、どのような形でお仕事のやり取りをしているのですか?
つむみ:原作小説第1巻までは、小説の内容をもとに漫画を描いていましたが、小説第2巻以降のエピソードについては、君川先生に漫画用としてあらためて脚本をご執筆いただいて、詳細な補足資料と併せてご提供いただいたうえで、そちらをもとに漫画制作を進めている、流れになっております。
──君川さんは、コミックスを見たときはどう感じましたか?
君川:第1話が上がってきたときは本当に感動しました。完成前の段階で、つむみ先生から、すごい熱量でキャラクターデザインなどを上げていただいていたんです。それを見て、これはひょっとしたらすごいマンガになるのかもしれないと思っていました。そうしたら、第1話が普通では考えられないほど高いクオリティで、僕が思い描いていた以上のものだったんです。僕の原作を数倍良いものにしていただきました。
つむみ:いやいやいやいや!
──そこからアニメ化の話が来たときは、いかがでしたか?
君川:普段やり取りしている文庫の編集の方から、具体的な話をぼかして、電話をしましょうというメールが届いたんです。その前にも何となく雰囲気を感じていたので、これはアニメ化の話だなと予想ができてしまいました(笑)。
その後、改めてお話を聞いたのですが、個人的にアニメ化を目指していたわけではなかったので、喜びというより、プレッシャーを感じてしまっていたところもありました。……でも、つむみ先生が喜んでくれたのでOKです!(笑)
つむみ:あはははは(笑)。個人的に、小さい頃から漫画を描いていたこともあって、アニメ化に憧れがあったんです。それに『追放者食堂へようこそ!』は、原作がとても面白いので、絶対にアニメ化するだろう!と思いながら描いていました。本当に嬉しかったです。
──アニメ化の際は、原作サイドとして、どのように制作協力をされたのでしょうか。
君川:アニメにはアニメの、漫画には漫画の作り方があるから、あまり口出しはせず、アニメ側がやりたいことを尊重できればと思っていました。
つむみ:私は、キャラクターやイラストの監修が多かったのですが、キャラクターデザインの大和葵さんがデザインされた女の子たちが本当にかわいくて、「これは良い作品になりそう」と思いました。なので、毎回監修物が届くのを楽しみにしていました。
──君川さんは、脚本会議にも参加されたのでしょうか?
君川:最初に原作者として脚本を監修させていただいたのですが、実際にいただいた第1話の脚本を見ていたら熱くなってしまう部分もありました。僕としてはエモーショナルすぎるというか、演出が過剰なのではないかと思い、色々と意見を出したんです。
それ以降、脚本会議にも参加するようになりましたが、第1話の絵コンテと、完成した映像を見たら、ものすごく良かったんですよね。あぁ、なるほど、アニメのスタッフ様がやりたかったのは、こういうことだったのかと、そこでわかったんです。アニメとして、声と音と絵が合わさるとこうなるんだなと……。
──なるほど。
君川:決して、アニメのスタッフ様が変な脚本をぶつけてきたという意味ではなくて、僕自身、アニメの文法(作り方)について理解が浅い部分があり、自分の中にあるものが熱く出てしまいました。とにかく第1話がすごく良かったんです。
──完全にノータッチという方もいらっしゃいますが、自分が生み出した作品ですから、熱くなってしまう気持ちもありますよね。
君川:自分では、もうちょっとクールなつもりでいたんですけどね(笑)。そんな熱い部分も受け入れてくださいました。
──つむみさんは、具体的なやり取りで覚えていることはありますか?
つむみ:一部のキャラで等身のバランスを直してもらったり、あるキャラの表情がどうしても似ないという相談を受けて、「こうしたら良いですよ」と伝えたりしました。絵のテイストをかなり寄せてくださったので、リスペクトをしてくださっているなと感じています。
──小説やマンガの制作現場とアニメのそれでは、違いを感じましたか?
つむみ:作品に関わる人の多さに驚きました。私は普段引きこもっているので……(笑)。
あと、アフレコ現場に何度かお邪魔させていただいたのですが、皆さん、意見をばんばん出し合っているんですよね。「良いものを作るためにやっている」という想いが感じられたので、私ももっと頑張ろうと思いました。
君川:僕も、ひとつの作品に関わる人数の多さが最も違うところだと思いました。アフレコ現場にお邪魔したとき、それぞれが意見を出し合う中、最終的にまとめるのは志村錠児監督なんですよね。なので、アニメでは監督の役割が本当に大きいんだなと驚きました。クリエイターとは違う能力が求められるというか。
──確かに、監督はクリエイティブな能力のほかに、それを各セクションに伝えるコミュニケーション能力がないとできない仕事かもしれません。
君川:そうですね。あとは思考の瞬発力も必要だと思いました。アフレコでも、役者さんの状況を見ながら、様々な指摘やジャッジをしているのがすごいなと……。ちなみに、アフレコ現場に行くときは、つむみ先生が一緒のことも多くて、とても心強かったです。
つむみ:私もドキドキしていましたが、君川先生が隣にいたので安心感がすごかったです。
──今も、お二方の連携力の高さを感じています。
君川:アフレコ中に、原作サイドから指摘したいタイミングがあって。そのときに、「このシーンについて、僕はこう思うんですけど、細かすぎますかね?」と、つむみ先生に確認して、それから意見させていただく、みたいなことをしていました。そんなコミュニケーションも、つむみ先生が積極的にやってくれたので助かりましたし、監督やスタッフの方々も、すごく良い雰囲気の現場にしてくださっていたので、居心地が良かったです。
──まさに作品の雰囲気にピッタリな現場だったのですね。
君川:そうですね。監督は食堂の温かさをすごく大事にしてくださっていて、そこもテーマにしてくれていたので、それが現場にも表れていたのかもしれません。
「アフレコ現場でお腹が空いてしまいました(笑)」
──実際にアニメ『追放者食堂へようこそ!』をご覧になっていかがでしたか?
つむみ:戦闘シーンの作画がいいなと思いました。あとは料理が本当に美味しそうで、そのシーンを見るたびに、うわぁ美味しそう!ってなっていました。
アフレコのときに見た映像は、まだ完成されていないものだったのですが、原画に細かく色の指定が書かれていたんですね。それを見て、「アニメーターさんってすごい! 私もこのくらい気合いを入れて描かないと!」と思いました。
──第1話の感想を聞いていきたいのですが、始まりは激しいバトルシーンからでした。
君川:原作も漫画も、バトルからは始まらないんです。でもアニメだったら、動きのあるシーンを最初に持ってきたほうが良いだろうということで構成していただきました。(戦闘シーンを)入れていただいてありがたかったです。
つむみ:このバトルシーンのカッコ良さで、多くの人に興味を持っていただけるアニメになると思いました。あと、第1話の中盤になりますが、アトリエちゃんの心情を深堀りしているシーンが追加されています。食堂までの帰り道でデニスとはぐれてしまう場面なのですが、そこで不安そうな表情を浮かべるんですね。ここはアトリエの心情が追加されていて本当に良かったので、漫画にも逆輸入をしたいというお話をアフレコ現場でしていました(笑)。
──演出的に、アトリエの心情を描いているのが良かったですね。
君川:先程お話しした「熱くなってしまったシーン」が、まさにこのあたりでした。第1話でアトリエの内面に踏み込みすぎているのではないかと思ったんです。そこは取り扱いが難しいところでもあったので、脚本の段階では過敏になってしまっていたのですが、絵コンテを見て「これがやりたかったんだ」と思い、映像を見て「なるほど! ありがとうございます!」となりました(笑)。
──デニスとヴィゴー(CV:鈴木崚汰)のやり取りも見ごたえがありましたね。
つむみ:めちゃめちゃ良かったです。お二人の声の相性も良くて。
君川:鈴木さんがヴィゴーに厚みを持たせてくれましたね。アニメスタッフもヴィゴーを大事にしてくださっているなと思いました。
つむみ:ヴィゴーにも深堀りシーンが追加されていましたからね。
──「銀翼の大隊」だと、ケイティ(CV:安済知佳)のコスチュームの露出の多さなどがキャスト間でも話題になっていました。
君川:なるほど……それは良かったです(笑)。ケイティに関しては、演じてくださった安済さんがイメージそのままというか。
つむみ:ケイティ推しとしても、ピッタリな声で感動しました。
君川:元気いっぱいで良かったですよね。
つむみ:特に、普段のケイティと「銀翼の大隊」副隊長としてのケイティの演じ分けがすごくて。
君川:実はケイティってかなり難しいキャラクターで、色々な要素を持っているんですよね。その切り替えが難しいと思ったのですが、しっかり表現してくださっていたので、素晴らしいなと思いました。
──それでいうと、アトリエの塞ぎ込んでいる感じも、絵のお芝居と声のお芝居で見事に表現されていましたね。
君川:アトリエこそ難しいだろうと思っていました。橘さんもセリフ量が少ない中、全部を表現するのは大変だっただろうなと思います。
つむみ:セリフが少ない分、吐息などでも演技されていたので、すごかったです。
君川:アトリエはミステリアスなキャラクターなので、色々な解釈ができますが、「どのような解釈にするのか」についても、現場で監督さんや声優さんが一丸となって考えてくださって、アニメのアトリエを作ってくれました。
──炒飯を食べたあとに生まれる、デニスとアトリエのバディ感も良かったですよね。
つむみ:チラシを貼るシーンも、マンガだと一コマだけですが、動きが入ると、めちゃめちゃかわいくなるなと思いました!
君川:漫画のテンポ感がとても好きなのですが、アニメは漫画のテンポを維持しつつ、じっくり描いてくださっているんですよね。こういう細かい部分も監督さんは大事にしてくださっていたんだなと思いました。2人の関係性や温かさが構築されていく過程を描いていただけて嬉しかったです。
──そしてアニメでも美味しそうな料理が魅力のひとつかと思います。第1話では炒飯が登場しましたが、いかがでしたか?
君川:料理のシーンに関しても、監督さんが大事に作ってくださっているのがわかるんですよね。小説が漫画になったときに、つむみ先生が『追放者食堂へようこそ!』という作品に、温かみを与えてくれたと思っているんです。僕はひねくれた人間なので、どうしても冷たくなってしまって、どこかトゲがある。でも、つむみ先生が温かさや優しさを根底に漫画を描いてくれて、アニメではそれらをすごく大事に表現してくださった。食事の美味しさ、温かさを細かい部分まで、本当にこだわって描いてくださったことが伝わってきました。
つむみ:食べたあとの声やキラキラした雰囲気、さらに食器の音などが入ることによって、さらに美味しそうに見えるなぁと思って、アフレコ現場でお腹が空いてしまいました(笑)。アニメならではの良さですよね。
──フライパンを回しているシーンの作画も、細かく描写されていました。
君川:デニスくらい大きな男が料理をしていると、料理シーンですらアクションシーンになっちゃいますよね(笑)。そのシーンも、こだわって丁寧に描いてくださっていました。
──お二人がおっしゃった通り、あの炒飯が本当に美味しそうで……!
君川:「レジェンダリー炒飯」の炒飯なので(笑)。本当に説得力のある炒飯が出てきたな、と思いました。
──最後に、ついに放送が始まった『追放者食堂へようこそ!』を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
つむみ:アニメを観て、志村監督をはじめ、アニメ制作に携わってくださった皆さんの熱い想いを感じました。私もやる気が出て、この作品を少しでも世に広めたいと思い、宣伝のためのイラストをばりばり描いています(笑)。少しでもこのアニメの役に立ちたいと思いながらイラストを描いていますので、見かけたらよろしくお願いします。そしてアニメ『追放者食堂へようこそ!』を、このあとも楽しんでいただけたら嬉しいです。
君川:この先のエピソードでいうと、僕が大事にしていたのは第3話になります。なのでアニメのスタッフの方々とお会いしたとき、気合いを入れて作っていただきたいですとお願いをしたら、本当に素晴らしいエピソードにしてくださって……。丁寧な演出だった上に、声優さんの熱演もあって、僕は2回観て、2回とも泣いてしまいました。
演じるのが難しいキャラクターも多い作品ではありますが、最終話では、全12話を通したキャラクターの成長を感じられるシーンもあり、そのセリフでアフレコ現場が湧いたんです。本当に皆さんが良い演技をしてくださったので、そこも楽しんでいただきたいです。
皆様の協力のおかげで、とても良いアニメに仕上がっていると思いますので、最後までご覧いただければ幸いです。
【インタビュー・文:塚越淳一 編集:西澤駿太郎】