「今ごろ!?」と母は思わずツッコミ!高校生ADHD息子の「腑に落ちる」体験での成長
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
夏休み!それは宿題と共に……
神経発達症がある息子のコウは現在高校生です。ADHD(注意欠如多動症)の特性によるものなのか、宿題を出すことが苦手なコウですが、中学までは長期休暇やテスト前の課題は出せることも多くありました。
理由はシンプルで、宿題の範囲表が配布されていたからです。提出期限も明記されているため、それを見ながら私や夫が管理を手伝うことができました。提出されなかった宿題が後にリュックから出てきたりして「なんで~!?」と驚くこともしばしばでしたが、それでも、範囲表のおかげである程度の宿題を出すことができました。
高校に入学してからの一学期は、紙での課題一覧がなかった(あるいは、コウが持ち帰らなかった)ため、私も何を提出すればよいのか把握できていませんでした。ですが、個人懇談にて、タブレットでの宿題範囲の確認方法を教えていただきました。コウ本人の希望もあり、二学期からはまた親の伴走も再開することになりました。
今年は、高校生になって初めての夏休みです。前回のコラムで書いたように、コウは、自らタブレットで各教科の宿題範囲を確認して、一覧表を作りました。これまで「宿題一覧を自作する」ことは一度もなかったので、例え今回の一度きりで終わったとしても、確かな変化だと感じました。
その一覧をもとに少しずつ宿題を進めていった結果、何とか夏休み中に終わらせることができました。私と夫のダブルチェックを受けての差し戻しはありましたが、小学生の頃のようにパニックになることもなく抜けを認め、「危なかった~!ありがとう!」と回答漏れを埋めることができました。
チェックを受ける際も、一覧表と終わった課題を積み上げ、範囲に付箋を貼って置いておいてくれたので、「中学生の間に身についたこともあるのだな」と少しほっとしました。
宿題を2周する意味に気づいたと言うコウ
そんな夏休みも終盤になったある日、休み明けのテストに向けて珍しく宿題の解き直しをしていたコウが、伸びをしながらぽつりと言いました。
「宿題って、やった方が授業の内容がよく分かるし、2周やった方がスムーズに解けるようになるんだよね」
「O先生っていたでしょ?あの先生が、解き直しをしなかったら、その問題は分からないままだって言ってたの覚えてる?あれ、本当だったんだねぇ」
そう言ってしみじみと頷くコウを見ながら、私と夫は「それ、君の周りの大人がずっと言ってきたことだよね?」「うそでしょ?今頃!?」と口ぐちにツッコミました。
すると、コウは笑いながら「いや~、参考書にもそうやって書いてあるんだよね。ほら」と言い、該当ページを開いて見せてくれました。私は「ありますね~!」と返しながら、「一応、話も文字も、意識に残ってはいるんだな」と改めて思いました。
コウを見ていると、つくづく「聞いて理解し、納得したところで、やるかどうかは話は別なのだな」と思います。そして、それは、コウだけに限らないことなのだろと思います。そして、『本人が困るまでやらない』どころか、『本人が困っていてもやらない』ことも、全く珍しくはないはずです。それは、世の中にあれほど多くのダイエット本や片付け本が存在することからも分かります。
それでも、私は『方法を知らないこと』と、『知っているけれどやらないこと』には、大きな違いがあると思っています。知識があれば、状況や経験が揃ったときに「こういうことか」と体感する瞬間がやってくることもあるからです。
この夏、コウは宿題の解き直しをしたことで「こういうことか」を一つ得たのだと思います。一つの「こういうことか」は小さくても、いくつもの「こういうことか」が積み重なって彼の理解や実感を深めていってくれたらいいなと思います。そして、それにより、コウが楽に取り組める方法が増えることを願っています。
執筆/丸山さとこ
(監修:室伏先生より)
宿題にまつわる工夫や、コウくんの成長や気づきについて、詳しく共有してくださりありがとうございます。ADHD(注意欠如多動症)の特性があるお子さんにとって、課題の管理や提出は、「興味の範囲外のことに集中する難しさ」や「ワーキングメモリーの弱さ」、「時間感覚のあいまいさ」、「複数のステップを同時に処理する難しさ」などにより、負担になりやすいといわれています。宿題一覧表やスケジュールを作ることは、こうした困りごとを補うための視覚化の工夫であり、達成感も得られやすくなる大切な方法です。これまで親御さんが根気強く支えてこられたこと、そしてコウくん自身が気づきを積み重ねてきたことが、少しずつ重なり合いながら、今後も新たな発見や成長へとつながっていくことを応援しております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。