【旅とおやつ。/栃木編】あなたと私を繋ぐお茶。「Y’s tea(ワイズティー)」
栃木県宇都宮市が「紅茶の街」と呼ばれているのはご存知でしょうか。
紅茶の年間消費量全国1位を獲得したこともあるほど、宇都宮では紅茶文化が根付いていますが、はじめからそうだったわけではありません。
一時は“魅力のない街”のワーストにまでなっていた宇都宮。商店街は荒れ、治安が悪化。空き店舗の前に人がたむろし、近寄れない場所に。
「これではいけない」と一念発起し新たな事業へと乗り出したのは、宇都宮に生まれ宇都宮を愛する一人の会社員。郷土愛が生んだ挑戦が、街に活力とにぎわいを創り出します。
“宇都宮ティーストーリー”のはじまり
オリオン通りの中ほどに位置するティールーム「Y‘s tea(ワイズティー)」。店名の「Y‘s」は複数の意味を持つ。
オーナーのイニシャル「Y」と「YOU」からなる「あなたと私」。英語で「賢明」を表す「wise」。
そして「紅茶で笑顔と幸せが世界中に広がるように」、「ワイド」をより広げたいという意味の造語「ワイズ」。
宇都宮に暮らす人々が安心して歩ける街になるよう思いを込めたそう。
階段を上がった2階。奥行きのある開放的な店内で人通りを気にせず過ごすことができ、ランチからティータイムまで地元の人たちの明るい声が響きます。
今でこそ賑わうオリオン通りも、一時は子供が一人で歩けないような雰囲気だったとか。
当時製薬会社に勤めていたオーナーは、衰退し続ける宇都宮の姿に胸を傷めていました。
“心の病は薬では治せない。身近なものでこの場所を、人の心を癒したい。”
長年勤めた会社を退職し、愛する宇都宮のためにできること、人と地域が元気になるものを見つけるため、模造紙に書き出したキーワードは約5000。
そこからさらに「持続可能」「老若男女楽しめる」「誰でも手に入る価格」「健康に」「笑顔に」「副作用がない」などに当てはまるものを絞っていくと、全てに丸がついたのは「紅茶」ただひとつ。
活気を失った宇都宮を元気にする特効薬はこれしかないと覚悟を決め、ゼロから紅茶店をスタート。
真っ白だった絵本に鮮やかな未来が描かれ始めます。
継続は力なり!世界にひとつ、あなたのため一杯
宇都宮には昔からコーヒー文化が根付いており、紅茶を飲む習慣はほとんどありませんでした。オーナーはヨーロッパの紅茶業界を視察し、インド・スリランカ等の茶産地を訪問。
さらにはオーナーが一番愛する茶産地であったダージリンでの現地修行を経て、2006年、幼少期を過ごしたかつての明るい街を取り戻すべく、宇都宮の中心部に「Y’s tea」をオープン。</p
ひとつひとつの紅茶に物語をつけ、世界にひとつのオリジナルブレンドティーを作ることで「Y’s tea」のブランド力を高めていきました。
紅茶のリラックス効果だけでなく、紅茶を飲む姿が「かっこいい」「おしゃれ」という意識の変化も宇都宮の人々に大きな心の変化をもたらし、ついに2008年には宇都宮市が「紅茶の消費量日本一」に。
現在は日本各地の観光名所などでもオリジナルティーが販売され、その魅力は海外からも支持されています。
中でも人気の「シャンパンパーティー」は、「紅茶のシャンパン」と称されるダージリンをベースにローズ、マリーゴールドといったハーブを合わせた乾杯をハッピーにするブレンドティー。
宇都宮市の紅茶消費量日本一を記念して誕生したた「Utsunomiya tea story(宇都宮ティーストーリー) 」は、紅茶の深みとフルーティーな香りが折り重なる、奥行きのあるフレーバードティー。
紅茶で驚きと感動を。
棚に並ぶ紅茶それぞれにシーンを想像させる物語のような説明がついているので、選ぶ時の参考に読んでほしい。選んだその一杯で紅茶の世界が一気に広がることでしょう。
直接会わずとも、オーナーが込めた思いが紅茶を通して伝わってくる。これこそオーナーが目指す「YOU&ME」。
店内では熟練のスタッフが完璧な一杯を淹れてくれます。普段はコーヒー派という方も、宇都宮に訪れたら紅茶に親しんでみてほしい。
フードやスイーツもこだわり抜かれた逸品揃い。まずはやはり王道の組み合わせで。
どちらも主役!相乗効果でおいしさが増幅(イラストあり)
今回いただいたのは
●プレーンスコーン ¥400(税込)
●日替わりスコーン(レモンジンジャー) ¥450(税込)
●Amazing Mango Tea 〜魅惑のマンゴー〜 ¥990(税込)
スコーンはボードに記載の中から選べ、定番のプレーンと日替わりスコーンが数種類用意されています。
「レモンジンジャー」は夏季に登場する人気のスコーン。果実感あるペアリングに、完熟マンゴーのジューシーな風味の紅茶をチョイス。
本場のレシピを基に、日本人の口に合うよう独自に改良したスコーン。
紅茶で流し込むようなもそもそとしたものではなく、自然と紅茶を呼び込むウェット感を目指したそう。
繊細な歯触りとしっとりソフトな味わい。粉の味が香ばしく感じられ、豊かなバターとミルクが口の中で溶けていくよう。
「Amazing Mango Tea 〜魅惑のマンゴー〜」は、創業19周年を記念して作られた新作のブレンドティー。まろみのあるなめらかな飲み心地。
ドライマンゴーのトロピカルな香りとオレンジフラワーの華やかさが溶け込んだエレガントな一杯です。「Y’s tea」の紅茶は茶葉の持つ個性がクリアに抽出され、清々しさも渋みもすべてがおいしさ。
紅茶で口を潤し、温かいうちにさっそくスコーンを。ザクザクと高鳴る表面からは想像もつかないほど中がふんわりとして、ほくほくと香り立つ生地の芳醇さに惚れ惚れしてしまいました。
軽めの生クリームと相性がよく、ジャムの甘さは心地良いバターの塩気を連れてきてくれます。
そして紅茶をひとくち。少しまったりとした口をさわやかにし、フレーバーを感じながらまたスコーンに戻る…このくり返しがなんとも贅沢。
無農薬レモンの皮をピールにして生地に混ぜる。レモンの甘酸っぱさに生姜のアクセントが加わった少し大人なスコーンです。
生クリームをつけてみるとガラリと印象を変え、その味はまるで、栃木名物「レモン牛乳」。どこか馴染みのある味わいですが、スコーンの上品さは健在。
そして紅茶のトロピカルさが混ざり合い、舌に幸せな余韻が広がります。
それぞれに存在感があるのに、どちらかが突飛することなく両方主役に。交互にいただく喜びを存分に感じ、いつの間にか時間を忘れて夢ごこち。
気軽にお茶のある日常を。
紅茶とともに、スコーンもテイクアウト可能。
「プレーン」は冷凍ストックしておきたいほどですが、今回は店内でいただいたものとは違うものをお持ち帰り。
リベイク方法が書かれた紙を参考に温め直して紅茶といただきました。
ランチタイムのみ提供のセイボリースコーンから、この日は「枝豆とチーズ」。
店内ではこのスコーンにボリューミーなシーザーサラダが付きます。チーズとあいまってパイのような香ばしさ。
枝豆の旨味が生地にたっぷり染み込んでいました。「キャラメル」は日替わりの中でも定番かつ人気のスコーン。
開いた口から滴るほどのキャラメルで、何もつけずに食べられるコクのある甘さ。
初めての方におすすめなのが、ストロベリー・ラズベリー・ブルーベリーを組み合わせた「ベリー!ベリー!ベリー!」。
「Y’s tea」オリジナルブレンドティー第一弾の紅茶です。紅茶でありながら、弾けるようなベリーの後味が芳しい。
栃木県産のとちおとめを入れた「とちおとめ紅茶」も宇都宮土産にぴったり。地元に寄り添ったフレーバーや和紅茶も積極的に取り入れています。
オンラインショップで注文をするとおまけの紅茶をいただけるなど、思いやりが嬉しいです。
ゼロから紅茶を広めることは容易ではありませんでしたが、時間をかけて地域活性化のために尽力したことで徐々にその存在が知られるように。
子供たちの笑い声はなによりも人と街を元気にします。大好きな宇都宮に再び明るい未来を。地元の人たちもきっと、オーナーと同じ気持ちだったのでしょう。
「Y’s teaを見つけてくれてありがとう」
これからも楽しく変貌していきたいと話す、オーナーの柔和な笑顔がさらに心をときほぐしてくれます。
WRITER:まるやまひとみ
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【SHOP INFORMATION】
SHOP:世界のお茶の専門店 Y's tea(ワイズティー)
ADDRESS:栃木県宇都宮市曲師町5-3 タキヤビル2階
OPEN:11:00~18:00
CLOSE:月・火曜日(定休日が祝日の場合は営業して翌日休み)