子どもの【発達障害】 「障害年金」親は今から準備を! 「もらえるお金・減らせる支出」 受給や請求のポイントを専門家が解説
親なき後も、障害を抱える子どもを支える基盤「障害年金」。発達障害者も受給条件を満たせば取得できるが仕組みを知って準備をしないと一生を受け取ることができなくなることも。受給条件や請求のポイント、親が今からできる準備について青木聖久教授(日本福祉大学)が解説
【マンガ】障害年金って何?受給のための超・重要ポイントとは障害年金は、障害を抱える子どもが社会とつながる重要な仕組みであると同時に、親なき後も子どもを支える基盤になります。
発達障害者も受給条件を満たせば取得できますが、仕組みを知って準備をしないと、一生年金を受け取ることができなくなることも。
「もらえるお金・減らせる支出」をテーマに、障害年金の受給条件や請求のポイント、親が今からできる準備などについて、青木聖久教授(日本福祉大学)に教えていただきました。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
支援はいらない・親が頑張ればいい、は危険
──特に子どもの年金などについては、親御さんにとってずっと先のことに感じてしまうかもしれません。子どもが成人する前から、年金について知っておくことは重要なのでしょうか?青木教授:障害年金を始め、障害を持つ人を支える制度を知っておくことはとても大切です。なぜなら仕組みを知らずに放っておくと、一生年金を受け取ることができず、後からとても困るケースがあるからです。
また、親御さんの中には「月に数万円くらいなら、自分が出してあげられる。親が頑張ればいいのだから、支援は必要ない」という人がいますが、この考え方は危険です。
なぜなら「制度を活用すること」は、単にお金をもらえるだけではなく、社会とつながることでもあるからです。
福祉サービスを使うことは、社会とつながること
──社会とつながるとはどういうことですか?青木教授:実際にあったケースをもとに説明しますね。
ある親御さんは「自分が死んだあとに障害を持つ子どもが困らないようにお金を貯める」と、頑張って多くの財産を残しました。ある程度の資産ができて「安心した」と思っていた矢先に、子どもを残してその人は亡くなってしまったのです。
その後、どうなったかというと……たった数ヵ月もしないうちに、残されたお子さんは詐欺に遭い、遺産をすべて失ってしまいました。
結局、我が子のためにいくら資産を残しても、それを管理し続けることができなければ、思わぬ出来事で失ってしまう。お金とはそのようなものだと思います。
──だまされて資産を失ってしまうというケース以外にも、発達障害の特性によりお金の管理が苦手、などの事例も考えられますよね。青木教授:はい、そうですね。発達障害の子どもはやがて成人し、親なき後も、さまざまな困難に対処していかなければなりません。
障害年金をはじめとする制度を活用するということは、そこを入り口として「社会とつながる」ことになります。
発達障害を抱える子ども自身が成長したとき、さまざまな専門家や支援者とつながっておけば、親が死んでひとりになっても放ってはおかれません。制度によって子どもが未来永劫、守られるのです。
私は、親自身が制度に頼る姿勢を見せることは、子どもにとっても重要なことだと考えています。
「手帳があれば障害年金をもらえる」は危険な誤解
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
──親自身が制度に頼ることは、結果として子どもを助けることにつながるのですね。青木教授:そのとおりです。そして発達障害を持つ人の生活を、長期にわたって支える土台になるのが「障害年金」です。
障害年金を知るうえで、次のポイントを押さえておくことが大切です。
・現役世代の人ももらえる年金
・20歳を超えたら対象
・「請求」しなければもらえない
よくある危険な誤解に「手帳があれば自動的に障害年金がもらえる」「それまでもらっていた手当が自動的に20歳になったら切り替わる」というものがありますが、どれも間違いです。
障害年金は請求しなければもらえません。
障害年金は、条件を満たしていなければ一生使えなくなるかもしれない難しい制度なので、正しい知識を得て、きちんと準備しておきましょう。
ひと月「約6万8000円」が受給できることも
──実際にはいくらぐらい受け取ることができるのですか?青木教授:日本の公的年金は、基礎年金と公的年金の2階建てになっています。障害年金も2階建てですが、障害の重さによって等級で分けられるので、全体としては5つになります。
このうち、発達障害の人が最も多く利用しているのは障害基礎年金給付で、金額はひと月に約6万8000円です。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
年金受給のための「3つの要件」
──どうすれば障害年金を受け取ることができるのですか?青木教授:障害年金を受給するためには、次の3つの要件を満たすことが必要です。要件を満たしていなければ、請求自体が難しくなります。
要件① 初診日
要件② 保険料の納付
要件③ 障害状態
このうち、最も重要なのが「初診日」です。
初診日とは、「障害の原因となった病気やケガで、初めて医師等の診察を受けた日」のことです。初診日によってどの年金(※1)に該当するのかが決まるほか、障害認定日が決まります。
※1
・20歳前に初診日がある、または初診日の時点で国民年金に加入していれば「障害基礎年金」に該当
・初診日の時点で厚生年金に加入していれば「障害厚生年金」に該当
保険料を未納にしない 免除の手続きもあり
──初診日が20歳未満かそうでないかが重要なのですね。他の要件についても教えてください。青木教授:次に、「保険料の納付」も非常に重要なポイントです。
障害年金は、障害があればもらえるわけではありません。「保険料を納めている人が、障害のある状態になったとき」初めてもらうことができるのです。この点は、民間の保険と同じように考えてもらえば分かりやすいと思います。
具体的には、初診日の前日までに一定の期間、年金保険料を納付していることが必要です。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
青木教授:実は、発達障害の人で、この「納付要件を満たせずに障害年金を受け取れなくなってしまう」ケースがとても多いのです。
発達障害で苦しんでいる人は、障害によって働けなくなったり体調不良に苦しんでいたりすることが多いため、年金の支払いまで頭が回らずに、結果として未納になってしまうことがあるのです。
これは非常にもったいないことです。
経済的に困窮しているときは、手続きをすれば保険料が免除されたり、納付を待ってもらえたりできます。この期間は、保険料を払っているのと同じ扱いとなり、未納とはみなされません。
障害年金について何よりも覚えていてほしいことは「年金の保険料を未納にしない」ということです。
未納が多いと、障害年金を生涯、受け取ることができなくなってしまうからです。
だからこそ、発達障害の子どもを育てる保護者は、子どもが20歳を過ぎたら年金をしっかり支払っているか、あるいは免除の手続きをしているかを確認してあげるといいと思います。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
保険料が未納だった場合の対応策
──万が一、保険料が未納だった場合の対応策はあるのでしょうか?
青木教授:例外として、初診日が20歳未満のケースでは、障害年金を受け取ることができます。なぜなら、年金制度は20歳以上を対象としているので、20歳未満はそもそも納付要件の対象にあたらないためです。
もしも納付要件を満たしていなくて請求ができない場合は、病院の受診記録などを確認して、20歳未満に初診日があることを証明できるものがないかどうか探してみましょう。
病院の領収書や、証拠としてのランクは下がりますが、日記などでも役立つことがあります。
──日記や領収書などの記録が大切なのですね。青木教授:精神科だけではなく、他の診療科のカルテが証拠となることもあります。例えば、統合失調症の人が幻聴だと気づかずに、耳の異変を感じて耳鼻科を受診していたケースなどです。
精神的な症状だと気づかずに、耳鳴りで耳鼻科を受診していた記録が初診日の認定につながったケースなどもありますから、あきらめずに根気よく証拠を集めましょう。
ひとりで記録を集めるのが難しいときは、障害年金専門の社会保険労務士(社労士)など、プロの手を借りるのもおすすめ。(写真:アフロ)
青木教授:ひとりで記録を集めるのが難しいときは、障害年金専門の社会保険労務士(社労士)などに依頼するのもひとつの方法です。
多くの場合、かかる費用は成功報酬で障害年金の2ヵ月分程度ですから、悩んで何ヵ月も過ぎてしまうくらいならば、頼んでみるのも選択肢になります。
──「障害年金」の他に選択肢はないのでしょうか。青木教授:障害年金の他にも、親なき後に備えて任意で加入する「障害者扶養共済制度」があります。
親が掛け金を払うことで、万が一のときには子どもに年金が支払われる仕組みです。掛け金は所得控除になっていて税金面でも優遇されているので、興味がある人は検討してもいいでしょう。
──子どもが一生困らないために、親ができることは多そうですね。青木教授:私は「親亡き後」問題は「親なき後」問題と、ひらがなにすべきだと考えています。なぜなら、障害を持つ子どもが困窮するのは、何も親が死んだ後だけとは限らないからです。親が病気になった、もしくは、親子関係に問題があって頼れない、などさまざまなケースがあります。
だからこそ、親は上手に社会に頼って、自分ひとりで抱え込まずに、使えるサービスや制度を存分に活用してほしいと思います。
お金の見通しがつけば、人はちょっと安心して元気が出ます。そうすることで、不思議と自分にも周囲の人にも優しくなれるものなのです。
──まとめ──
障害年金は、発達障害の人の生活を長期的に支えるための重要な制度です。「保険料の未納を作らない」などいくつかのポイントを押さえておけば、親なき後にも安心して備えることができます。
青木先生の「親自身が制度に頼る姿勢を見せることが重要」という話は、とても印象的でした。上手に制度を使って、発達障害があっても安心してその人らしく暮らせる社会が望まれます。
青木聖久教授に教えていただく【発達障害の子どもと家族が「もらえるお金」と「減らせる支出」】連載は全3回。障害者手帳についてお聞きした第1回に続き、医療費の負担軽減制度についてお聞きした第2回に続き、最後となるこの第3回では、障害年金について詳しく紹介しました。