ヤッホーブルーイング・井手直行社長から、仕事を楽しめないあなたへのエール
「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、クラフトビールメーカー国内約900社の中でトップシェアを誇るヤッホーブルーイング。ユニークで自由度の高い社風で、「働きがいのある会社」ベストカンパニーに9年連続で選出されました。社員全員にあだ名があり、井手社長自身も社内では“てんちょ”と呼ばれています。そんなユニークな文化を築いた井手社長に仕事を楽しむコツと、自分の可能性を広げる働き方について伺いました。
まずは自分の資質を知り、さらに強みへと変えていく
Q.ヤッホーブルーイングでは、社員によるメルマガやイベント企画など自分たちのカラーを全面に出すことを大切にされていますが、社員の個性をどのように引き出していますか。
まず、それぞれの強みを見つけて伸ばすために、 社員全員に「ストレングスファインダー」という資質テストを受けてもらっています 。ストレングスファインダーの理論では、人間は34の資質に分けられて、その上位5つがテスト(※)でわかるんです。その5つを理解して、意識的に伸ばしていくと強みになるというもの。弊社では、その上位5つを社内で公開し、名札にも記載しているんです。
僕の場合、「戦略性」が1位。僕は昔から戦略を立てるのが大好きなので、みんなもそうだと思っていて、チームビルディング研修を受けるまでは「なんでできないの」「考えればわかるでしょ」と思ってしまっていたんです。でもそれは自分特有の傾向であって、ほかの人は苦手なことだったりする。逆に、僕と違って分析や社交が得意な人もいますよね。恥ずかしながら、僕は40歳で初めて「人はみんな違う」ということが身にしみてわかったんです。
資質テストを1つの目安にすれば自己理解を深められるし、強みを磨いていくこともできます。さらに周りに結果を公開することで、「てんちょ(※井手社長の社内での愛称)がしょっちゅう戦略って言っているのは、この人が戦略オタクだからなんだ」と理解をしてもらえるし、それを踏まえた役割分担もできます。個性を生かしたチームビルディングをするうえで、 自分とお互いの資質や強みを理解することは非常に有効 だと思っているんです。
Q.ほかにも、社員に働きがいを感じてもらうために工夫している点があれば教えてください。
自分で考えて動いてもらうこと ですね。弊社は経営方針として、「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションと、「クラフトビールの革命的リーダー」というビジョンを掲げています。そのベクトルさえ合っていれば、それぞれの多様性を生かしたいろんなやり方でやればいい。個々人が自立して自由に考えて行動することは、さらにその人が成長していくきっかけになりますし、強みがわかりやすくなる一番のやり方だと思います。
Q.「自分で考えて自由に動いてもいいよ」と許されていても、一歩踏み出すのを躊躇してしまう社員にはどのように声をかけていますか?
とにかく「やっちゃえ!」と言っています。僕は社長ですから、社員がなにかやりたいことがあるけれど迷っているのであれば、「そんなことやったって会社潰れないから!」とか、「最悪、僕がすべて責任をとるから」と、そんなふうにして背中を押していますね。それでも動けない人に対しては、一緒に併走しながら打ち合わせを繰り返して、不安を取り除いていくようにしています。
それでいざ一歩踏み出してみると、思った通りうまくいって楽しかったり、心配していたことは実は取り越し苦労だったり、逆に予期せぬトラブルでつまずいたりするわけです。それは全部やってみて初めてわかること。 何事もまずやってみて、それから考えればいいんです 。
賛否両論はむしろチャンス。怖がらずに批判の声を聞いてみて
Q.井手さんご自身の経験のなかで、自分で自由に考えて動いたなかで成功した取り組みにはどんなものがありましたか?
たくさんありますが、20~30代の頃の話で1つあげるとしたらメルマガですね。今でこそブログ風に日常を綴ったメルマガは当たり前になりましたが、僕がヤッホーブルーイングでインターネット通販を始めた頃は、そんなメルマガは珍しかった。
製品の説明もなく僕の日常やぶっ飛んだこと書いていたら、喜んでくれるファンが一気に増えたんですが、同じぐらい「ビールが好きなのであってお前には興味がない」「こんなメルマガやめろ」といった批判の声もあったんです。それでも、賛否両側の声を聞きながらメルマガを書き続けていたら、次第に否定的な意見はなくなってきました。
僕はそれを1,000本ノックと言っていて。個性を残しながらも、お客さんがクレームを言うような要素を減らしていくことを繰り返したら、だんだん自分の強みが鍛えられていきました。だから、批判の声はある意味ありがたいんですよ。
Q.批判の声が怖くて動けない、新しいことを始められないという社員には、どのようにアドバイスをしていますか?
うちの社員たちは、僕が同世代だった頃に比べると非常に優秀で真面目で有望な人たちばかりなんですが、やはり賛否両論は避けたい意識は強い気がします。でも、賛否両論あるぐらいじゃないとイノベーティブじゃないし、反対意見=悪とは限りませんよね。
もちろん社内でも賛否両論が出てくるんですが、賛否両論になるくらいじゃないとベンチャー企業らしくないと思うんです。みんなが合意する案って楽なんですけど、誰も反対しないならほかの会社はもうとっくにやってることなんですよね。つまり、自分たちがやってもすぐ真似されちゃう。でも、 社内ですら賛否両論があるということは、他社はなかなか追随しにくい何かがある わけですよ。あえてそういうアイディアを選んで取り組んでいくというのは、我々みたいなちょっと変わった会社が成長していくポイントかなと思います。
だから、「批判の声があってもいいんだよ。それで踏み出せないんだったら反対する人を説得して、リスクや不安をできる限り解消したうえでやってみよう」と、いつも社員に伝えています。
今の仕事が楽しくないのなら、楽しくしていく視点を持つことが第一歩
Q.リスクを取って一歩踏み出すためには、どういう考え方をしたら不安を乗り越えられると思いますか?
現代は、世界情勢的にも先が見えず不確定な要素が大きい時代ですよね。とはいえ、 心配ばかりしていると何も踏み出せない 。最悪、何かあっても死ぬわけでもないし、生活できないこともないんだから、最低限の担保を自分の中で設定しておけばいいんじゃないかな。
この間、ある経営者の方と対談をしているときに、その方が面白いことを言っていたんです。今ではすごく成功されていて、従業員の方もたくさんいる有名企業の経営者なんですが、起業するときにはやっぱりいろいろと反対する声や心配する声があったそうで。
そんなときその方は、共同経営者だった方と2人で「もしこの事業がうまくいかなかったら、2人でコンビニのオーナーになろう。少なくとも、2人だったら地域一番のコンビニになれるだろうし、それで生活はできるだろうから失敗を乗り越えよう」と話して、起業を決めたそうなんです。
実は僕も、ヤッホーブルーイングに誘われる前の数ヶ月間はパチンコで生計を立てていたんですよ。一生やれるとは思っていなかったけれど一時期だったらしのげたし、もしまた仕事を辞めちゃったらパチンコで生計を立てればいいやと思っていたんです。
実は、その当時のパチンコ屋の跡地を改修したのが今の御代田にあるオフィスなんですよ(笑)。そこから社長になるなんて当時は思いもしませんでしたね。
Q.今の仕事に不満はないけれどなんとなくモヤモヤしている人に声をかけるとしたら、なんと声をかけますか。
まずは、 ネガティブをポジティブに転換をする努力をしてみてほしい です。よほど耐えられないような労働環境なのであれば辞めたほうがいい。でも、「なんとなくいやだ」で逃げるように辞めてしまうと、逃げた先でも同じことになる可能性が高いと思うんです。
今は「この仕事は合わない」と思っていたとしても、前向きに取り組めるような何かを探して自信をつけたり、「次はこういうことをやってみたいな」というポジティブな気持ちになったりしてから、次にいったほうがいいんじゃないかなと思います。
僕が仕事をするなかで、すごく影響を受けたのが楽天の三木谷さん。三木谷さんのお話で今でも覚えているのが、「面白い仕事があるわけではない。仕事を面白くする人間がいるだけなのだ」という言葉です。
どんな仕事も、どうにかして楽しもうと思える人はやっぱり強いですね。 今の仕事が楽しくないのなら、楽しめるような人間になっていく というのは1つの手だと思います。
Q.最後に、ヤッホーブルーイングの展望や、井手さんのこれからの目標を教えてください。
2026年の夏までに、大阪の泉佐野市にクラフトビールを楽しめるエンターテインメント性を兼ねた体感型のブルワリー「ヤッホーブルーイング 大阪醸造所 よなよなビアライズ」を作ろうとしています。ただのビールの醸造所だけではなく、見学ツアーや試飲ファンが集まるイベントなど、面白い仕掛けを準備中です。この新拠点立ち上げも社内外で賛否両論がありましたが、ひとつひとつ不安要素を潰して、実現に向けて一歩踏み出しました。
今まで僕たちが挑戦し続けてきたような、スーパーやコンビニで多様なクラフトビールが手に取れる世界をこれからも作っていきたいと同時に、さらに全国に面白い拠点を増やして、体験価値としてのクラフトビールのよさを広げていきたいですね。みんなが日本中で個性的なクラフトビールを飲んで、いろんな楽しみ方ができるよう、これからも日本のビール文化を変えていくことができたらいいなと夢見てこれからも頑張っていきます。
プロフィール
井手 直行(いで なおゆき)
福岡県出身。国立久留米高等専門学校電気工学科卒業後、大手電子機器メーカーにエンジニアとして入社。その後、環境アセスメント事業会社・広告代理店を経て、1997年に株式会社ヤッホーブルーイングに営業担当として入社。2008年に同社代表取締役社長就任。看板ビールである「よなよなエール」を筆頭に「水曜日のネコ」「僕ビール君ビール」などを発売し、国内に約900社あるといわれるクラフトビールメーカーでシェアトップを誇る。社内でのニックネームは「てんちょ」。