世界のサンゴの44%が絶滅危機…シンガポールで10万株のサンゴ植え付けを開始
原因は湾岸開発 “人間活動”とサンゴ白化
豊かな生物多様性を育むサンゴ礁。漁業や観光の資源、自然災害から陸地を守るなど、多くの役目を担うサンゴ礁が年々減少していることは以前から警告されてきた。サンゴはストレスを受けると、共生する藻類を組織内から失い、炭酸塩の骨格が露出して白くなる。“白化”とは、つまり餓死。そんな白化現象の頻度が高くなっているのだ。
シンガポール国家環境庁(NEA)のデズモンド・リー大臣は、「気候変動と人間の行動がシンガポールのサンゴ礁に大きな脅威を与えている」と指摘。過去10年間で2度目となる世界的なサンゴの白化現象が起きているのが、事の大きさを示している。
大小60を超える島で構成されるシンガポールは、埋め立てによって国土を拡大させて栄えてきた。加えて、世界最大級のハブ機能を担う港には荷待ちのタンカーで渋滞し、偶発的な船舶事故による石油流出は、サンゴ礁の脅威となっている。
また、日本では1960年以降の高度経済成長期にさまざまな開発が行われたことを機に、サンゴの生息環境の悪化が進んだ。海岸線の開発や埋め立てによって赤土が流出。2024年12月には、鹿児島県奄美大島の近海でサンゴ死滅率が平均約6割だったことがわかっている。
10年かけて10万匹のサンゴをシンガポールの海域に
このような背景を受けて、2024年12月にシンガポール国立公園局(NParks)は、今後10年以上にわたってシンガポールの海域に10万株のサンゴを植えることを目的としたプロジェクトを開始。この一環としてサンゴ養殖施設を新設すると発表した。
国立海洋研究所のサンゴ再生専門家とシンガポール国立大学の海洋生物学者が共同してサンゴを養殖したのち、劣化したサンゴ礁を回復させたり、移植したり。多様性のある群落をつくることで、自然都市シンガポールの自然遺産の保護を目指している。
市民に人気の離島リゾートにサンゴ養殖施設を新設
サンゴ養殖施設は、シンガポール本島の南約6.5㎞、フェリーで25分ほどのところにあるセント・ジョンズ島に新設される。トレッキングをしたり、釣りをしたり、シュノーケリングで生物多様性に富んだ水中の世界を垣間見ることができる。
地元の人たちに人気のリゾート内に研究施設をつくったのは、研究に関わる人だけでなく、島を訪れる一人ひとりに自然の豊かさを身近な存在として実感してほしいという思いが込められているのかもしれない。施設は2025年7〜9月頃に完全に稼働し、一般公開される予定だ。
注目の島はほかにもある。たとえば、シスターズ島にはシンガポール初の海洋公園があり、3年の改修工事を終えて再開したばかり。手つかずのサンゴ礁、砂浜、海草の群生地など、多様な生息地があることから、この島とサンゴ礁は保護区に指定されている。潮の満ち引きによって上下する220mの浮遊遊歩道は見所の一つで、都会では見られない海洋生物の観察を楽しめる。島の電力をすべて太陽エネルギーでまかなうという持続可能性の高さも興味深い。
地域の環境や文化を学びに、シンガポールへ。エコツーリズムという旅の選択肢がこれから広がりそうだ。
※参考
Singapore launches most extensive coral restoration effort with planting of 100,000 corals|CAN
Sisters’ Islands Marine Park reopens; visitors can hike a coastal trail and see corals up close|The Straits Times
Coral Reefs of Singapore|NUS
Over 40% of coral species face extinction – IUCN Red List|IUCN
日本のサンゴ礁生態系とその保全|WWF