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首都高地下化で青空の戻る日本橋リバーウォーク誕生へ。水辺と街がつながる再開発が進行中

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日本橋リバーウォーク誕生

日本橋と首都高速道路(室町方面より東京駅方面を撮影) ※2025年6月撮影

日本橋川上空を通る首都高都心環状線は、東京五輪1964を翌年に控えた1963年に開通した。これにより、江戸時代以来、旧五街道の起点であった「日本橋」の上空は高速道路の高架橋に覆われることとなった。都市の景観面では大きな変化となった一方で、この首都高速道路は東京の経済活動を支える都市基盤の一つとして重要な役割を果たしてきた。

そして、現在この高架橋の首都高撤去と地下化を伴う再整備事業が進められており、日本橋本来の空と景観を取り戻す取り組みが本格化している。

さらに、日本橋地区の首都高地下化と歩調を合わせて、日本橋川に隣接するエリアでは複数の都市再生プロジェクトが進められており、官民が連携した一体的な市街地再編が実現しようとしている。本稿では、こうした地下化事業と関連する再開発プロジェクトを通じて、日本橋という都市空間がどのように再構築されようとしているのかをわかりやすく伝えたい。

首都高速道路日本橋区間の地下化とは

国道の起点を示す道路元標(日本橋) ※2025年6月撮影

首都高速道路の日本橋区間の地下化に動き出したキッカケとなったのが2001年3月の当時の国交省大臣・扇千景氏による「日本橋は首都・東京の顔であり、国として取り組むべき課題である。首都高の高架に覆われた日本橋の景観を一新する」という発言を受けたことによる。

また、2005年には当時の総理・小泉純一郎氏による「日本橋を世界で最も魅力的な場所にしてほしい。夢を持って日本橋の上を空に向かって広げてみよう。数年でできる問題じゃないが、早くスタートした方がいい」といった発言なども加わって、本格的に日本橋の再生に向けた検討が進められていった経緯がある。

首都高の地下化は、シンプルに日本橋川の地下に道路を通すのではなく、市街地再開発の敷地の地下空間を通す区間が含まれている。こうした複雑な立体構造を可能にするために、「立体道路制度」と呼ばれる都市計画制度が活用されている。

通常、都市計画における道路は平面的に区域を指定するが、立体道路制度では、異なる高さの空間を立体的に指定できるため、地下に道路、地上に建築物といった整備が可能となる。また、「立体道路制度」は、建築基準法の緩和(法第44条)により、原則として建物を建築することができない道路区域内でも、立体的な空間区分を通じて建築物と道路を一体的に整備することを可能にする。

上図:首都高速道路日本橋区間再整備の位置、下図:地下ルートイメージ ※出典:首都高速道路株式会社(2025年4月版)「日本橋区間地下化事業パンフレット」
平面図・断面図 ※出典:首都高速道路株式会社(2025年4月版)「日本橋区間地下化事業パンフレット」

地下化が予定されている区間は、神田橋JCTから鎧橋付近まで。新幹線や山手線が交差する新常盤橋付近から地下に入り、江戸橋を過ぎたあたりで再び地上に戻るルートが想定されている。地下トンネルは、既存の地下鉄や上下水道管、電線といったインフラを避けながら構築される計画であり、極めて難易度の高い工事になると見られている。

工事スケジュールとしては、地下化工事が2035年ごろに完了し、その後、既存高架施設の撤去が2040年ごろまでに行われる予定となっている。なお、2025年4月には、八重洲線の長期通行止めが実施されており、すでに呉服橋・江戸橋両出入口の撤去は完了している。今後は、本格的な地下化工事に移行する段階に入る。

▶︎首都高速道路株式会社「首都高速道路日本橋区間地下化事業」

日本橋リバーウォーク構想の概要

日本橋リバーウォークのイメージパース(江戸橋上空から大手町方面を望む) ※出典:一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメント・日本橋一丁目中地区市街地再開発組合・八重洲一丁目北地区市街地再開発組合・日本橋室町一丁目地区市街地再開発組合・日本橋一丁目東地区市街地再開発組合・日本橋一丁目 1・2 番地区市街地再開発組合・首都高速道路株式会社(2025年6月11日)「官民地域一体となり、“水都”としての東京の新しい顔の創出へ 日本橋川を中心とした 5 つの再開発区域とその周辺一帯エリア『日本橋リバーウォーク』の情報発信を開始」

地下化工事に合わせて進められる都市再生プロジェクトとして、日本橋川に沿って歩行者の回遊・滞留を促すような新しい空間が整備されることが明らかにされている。

一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメントらが報道発表(2025年6月11日)した資料によると、川幅約100m、延長1,200mにおよぶ広大な親水空間のエリア名称「日本橋リバーウォーク」に関して、街づくりのプレゼンテーション拠点「VISTA」を開設するとともに、エリアの街づくりを推進する法人組織として、「一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメント」を2025年4月1日に発足したことを公表した。

江戸橋から日本橋方面を撮影 ※2025年6月撮影
左:日本橋一丁目中地区市街地再開発のイメージパース、右:八重洲一丁目北地区市街地再開発のイメージパース ※出典:一般社団法人日本橋リバーウォークエリアマネジメント・日本橋一丁目中地区市街地再開発組合・八重洲一丁目北地区市街地再開発組合・日本橋室町一丁目地区市街地再開発組合・日本橋一丁目東地区市街地再開発組合・日本橋一丁目 1・2 番地区市街地再開発組合・首都高速道路株式会社(2025年6月11日)「官民地域一体となり、“水都”としての東京の新しい顔の創出へ 日本橋川を中心とした 5 つの再開発区域とその周辺一帯エリア『日本橋リバーウォーク』の情報発信を開始」

日本橋リバーウォークでは、取り組む重点課題として、次の6つを設定し、「水と緑 広がる街」、「東京の新しい顔」、「創る人 支える街」の3つの実現を目指すこととしている。

①東京の新しいランドマークとなる景観形成
②環境や生態系の確保による豊かな水辺の再生
③国内外の注目を集める国際都市へのさらなる進化
④高速道路機能の維持、舟運の活性化など交通利便性の維持・向上
⑤地域が育んできたイノベーションの連鎖の促進
⑥より多様な文化・産業の創出

日本橋リバーウォークが位置する東京駅の北東側エリアは、オフィス街や百貨店が集まる都市機能の中に、「日本橋」や「日本橋三越本店」、「常盤橋」、「日本銀行本店」など歴史的建造物が点在し、江戸から現代までの時間が重なるエリアでもある。

「日本橋リバーウォーク」の誕生により、こうした歴史的・文化的資源が空間的にも視覚的にも再認識される機会となり、この地が新たな東京の都市景観をかたちづくると考えられる。

地下化と連携した市街地再開発事業とは

日本橋エリアにおける市街地再開発事業の位置 ※出典:首都高速道路株式会社(2025年4月版)「日本橋区間地下化事業パンフレット」を一部加工

今回のプロジェクトにおいて、もう一つ注目すべき点がある。それは、首都高の地下化にあわせて、複数の市街地再開発事業が並行して進められている点だ。前述の通り、高速道路の一部は建物の敷地内地下を通過するルートとなっており、単に地下トンネルを掘削するだけでは実現できない。このため、建物との一体整備が求められ、土木設計・建築設計・施工工程など多方面にわたる高度な調整が必要となる。

再開発エリアを改めて見ると、合計6つの事業が計画・進行中だ。最初に都市計画決定が行われたのは、2016年4月の「大手町二丁目常盤橋地区」である。このエリアでは、地上約385mの高層ビル「Torch Tower」が建設予定で、完成すれば国内で最も高い建築物となる。参考までに、現在の都内の高層建築としては、「麻布台ヒルズ森JPタワー」(高さ325m)や「東京タワー」(高さ333m)を超えるスケールとなる。

続いて2018年3月に都市計画決定されたのが、「日本橋一丁目中地区」だ。こちらでも建築工事が進行中で、東京メトロ三越前駅から地上に出ると、眼前に建設中の高層ビルがそびえている。建物は地上52階建て・高さ約285mの超高層となる予定だ。また、関連する市街地再開発事業の中では最も早い2026年3月に竣工が予定されている。

▶︎日本橋一丁目中地区市街地再開発事業が終盤。日本橋にそびえる超高層建築物の姿とは

日本橋三越本店前から「日本橋一丁目中地区」の市街地再開発事業を望む ※2025年6月撮影

2019年10月には、「八重洲一丁目北地区」の都市計画決定が行われた。当該地区では、2024年11月に建築工事が着工し、現在は本格的な工事が進められている。

一方、これから建築工事が予定されているのが、「日本橋室町一丁目地区」「日本橋一丁目東地区」「日本橋一丁目1・2番地区」の3つである。都市計画決定自体は指定が完了しているため、今後、本格的に事業の実施に向けた準備が進められることが考えられる。

これら再開発事業のうち、住宅供給が予定されているのは次のとおりとなっている。
・日本橋一丁目東地区:約568戸
・日本橋室町一丁目地区:約113戸
・日本橋一丁目中地区:約51戸

都市空間の再構築で変わる日本橋

常磐橋 ※2025年6月撮影

日本橋という地名は、日本の街道の起点であった歴史や、水運・商業・金融の中心地としての機能を背景に、国内において高い歴史的認知度とブランド力を持つ。周囲には国指定の重要文化財である「日本橋」をはじめ「日本橋三越本店」や「常磐橋」、「日本銀行本店」などの歴史的建造物が残され、都市景観に重厚さをもたらしている。

江戸橋 ※2025年6月撮影
日本橋および東京駅の地下空間 ※出典:国土交通省(2019年)「東京駅周辺屋内地図データ」、国土地理院地図等を基に加工して作成

このようなエリアにおいて、高架を撤去し地下化することで、空と水辺の回復を目指す都市再生(リジェネレーション)が進められている。海外では、シアトルのアラスカンウェイ高架橋撤去や、ソウルの清渓川復元事業のように、道路インフラと公共空間を一体的に再構成する取り組みが進んでいる。日本橋でのこの試みも、都市の顔を再構築する象徴的なプロジェクトとして、国内外から注目を集める可能性が高い。

また、本事業では、単なる道路の地下化にとどまらず、日本橋川沿いに再開発と連携した歩行者空間の整備が行われ、「リバーウォーク」の名の通り、都市と水辺が再接続される計画だ。

さらに、呉服橋交差点の地下歩道整備により、東京駅から日本橋駅への徒歩アクセスが改善され、周辺の大手町・日比谷・有楽町・銀座方面へとつながる巨大な地下ネットワークの構築も進む。これにより東京駅から日本橋駅までの徒歩アクセスがしやすくなり、日本橋周辺の商業施設にとっては大きなメリットになる。

江戸の原点としての日本橋が、現代の東京においても新たな都市価値を発揮する場へと再生し、多くの人でにぎわう空間に生まれ変わることが考えられる。

日本橋エリアが再び注目される日も近い

日本橋の獅子像と都の紋章 ※2025年6月撮影

首都高の地下化と日本橋川沿いの市街地空間の再構築は、単なるインフラ更新にとどまらず、江戸・東京が本来持っていた風景と機能を再接続する取り組みとして世界からも注目されるのではないだろうか。

とりわけ、日本橋という国の起点ともいえる場所において、空、川、街が交わる風景が再び現れることは、都市空間における象徴的な変化といえ、東京のみならず、地方都市でも同様な取り組みが進むことも考えられ、魅力的な都市再生プロジェクトに派生するのではないだろうか。

また、今回のプロジェクトでは、高架の撤去や地下化に加えて、複数の市街地再開発事業が連動的に進行している点も注目できる。高速道路や建築物、鉄道等のインフラが交錯する中において、日本の土木・建築の高度な技術力を通じて、歩行者動線や都市の回遊性が再設計されていくプロセスは、国家的なリジェネレーション事業ともいえる。

さらに、2025年4月には、エリアマネジメントを担う一般社団法人が発足し、「日本橋リバーウォーク」という空間名称も示された。今後は、都市再開発の枠を超えた人や自然、歴史と文化を活かした空間づくりとしてどのように取り組むのか、2040年頃を見据えた取り組みが期待される。今後、エリア周辺の価値も上昇するのではないだろうか。

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