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「もう生きるのがつらい……」家族や家庭というものにずっと苦しめられてきて、限界です【お悩み】

Sitakke

Sitakke

は〜い皆さん、ごきげんよう!満島てる子です。

突然なんだけどさ、読者の方々は、自分ではコントロールできないことで苦しんだり、それが起因となって他人をうらやんだりしたことってあるかしら。あたしは割とあるのよ。

ライター・満島てる子

例えば自分は、みずから選んでゲイになったわけじゃなく、気がついたときには男の人が好きな男の子になっていて。
ただそれだけだったんだけれど、そのせい(って言い方もどうかしらとは思いつつ、一旦ね)で、周りが当たり前に経験し楽しんでいること(結婚とかね)から遠ざからざるを得ない瞬間が、思春期から大人になってからもしばしばあったんだよね。

自分の場合はだいぶ和らいだとはいえ、このタイプの傷ってどこか根深かったりするし、人によっては大人になってから突然発生•再発したりもするよね。
今回は、そうした苦しみを抱える方からのお手紙のようです。見てみましょう。

読者のお悩み:家族や家庭というものにずっと苦しめられてきて……もう限界。自分も人並みに生きたかっただけなのに。

なるほど。これは赤裸々なお手紙だわ。
風花さん、正直なメッセージを送ってくださって、まずはありがとう。

あなたにとっては、聞くのもしんどい単語かもしれないけれど……事をわかりやすく語る目的で、あえて使わせてもらうと(許してね)。
しばらく前に話題になっていた「親ガチャ」という言葉。そこにきっと風花さんは、なにがしかの思いを抱いたことのある人なんじゃないかしら。

親をガチャガチャにたとえるという語の成り立ちに、個人的には抵抗感を抱いたりもしつつ。
このワードが伝えるであろう「その人だけではどうしようもないのに、その生き方に大きな影響を与えてしまう事柄」というニュアンス。
そこには実感のこもった意味で、あたしも苦々しさを覚えていたりします。

人生において「自分ではどうしようもなく決まってしまう要素」について

このコラムのドあたまでも少し触れましたが、自分ではどうしようもなく決まってしまう要素というのが、人生にはあります。

生まれてくる国、育つことになった家庭の経済的・人間的な状況、ひとりひとりのセクシュアリティのあり方や、なんなら時代でさえもそうです。

否応なしに、おのれで舵取りをし切る隙なく決定されてしまうこれらの事情は、そんな一種、暴力的な決まり方をするにも関わらず、社会的な構造と照らし合わされることで、人々の間に時に決定的な格差を(なんなら差別までをも)生み出すことがあります。

そんな格差という"ひずみ"に吸い込まれ、厳しい環境を自分の居場所とせざるをえなくなった場合、その当事者の苦しみたるや、計り知れないものがある。
あたしはその事実を、冒頭でも例で挙げたように、自分の経験として直に受け取ってきました。

ごくありきたりのとか、ましてや「普通」などと言ったら確実に語弊があるんだけれど。
もし自分が、これまでおのれの周囲にいた大多数の男性のように、異性愛者の男性として生きていたのなら。そう想像することは、実は今でもあります。

胸の内を愛用のキーボードに託して…

周りと同じように、思春期になれば女の子に興味を持ち、恋の話を友達と包み隠さず気軽にして、みんなで盛り上がる。それが当たり前の日常を送りたかった。

不自然な重みや困難を抱えることなく、素敵な誰かと出会ってお付き合いを経たのち、堂々と結婚。そんな選択肢がそもそもある人生を歩みたかった。
自分のことを誤魔化すために故郷から距離を置く、そんな選択肢を取らなくても済む生き方がしたかった。

でも自分はゲイ。
シスヘテロの友人たちが送っている、風花さんの言葉を借りれば「羨ましい生活」には、なぜか手が届かないわけで。そして、それをどこか「仕方ない」とも考えていたりするわけで。

この30数年間は、正直そんな羨望と諦念が入り混じったものだった気がしています。
今回の風花さんとは、事の側面は異なれど、自分には与えられていない"幸せそうな普通さ"を見る目線は、共通している部分があるようにも感じました。

こちとら一生懸命生きてるだけなのに……ねぇ

そりゃさぁ、嫌にもなるよね、人生送っていくの。
だって、こちとらただ一生懸命生きてるだけなのに、自分が欲しいと望んでいる何か(しかしながら他人にとってはそんなに高級でもないらしい何か)には、いつまでも手が届かず。

なんなら時とタイミングによっては、今以上に状況が悪くなってしまったりもして。
そのせいで「何なのこれ……もう無理なんだけど……」と打ちのめされたとしても、その絶望とは関係なく、勝手に日々は続いていってしまう。
もうこれは「残酷」の一言でしょう。

きっと風花さんは、今その残酷な嵐のただなかにいるのよね。
あまりの暴風のせいで、おそらくとんでもなく傷ついているのだろうなぁと、お手紙の書き様からも想像しつつ。
果たしてあたしはあなたに、一体どういう言葉をかけることができるのか、かけるべきなのか、それをストーブの前にしゃがみこみながら「ううむ」とひとり考えていたりしたのでした。

あたしなりのAnswwr

さて、風花さん。
あなたのお悩みは「どうしよう」→「こうしてみれば?」的な単純なアンサーで、めでたしめでたし!なんて結論を与えられるような話ではないはずだと思うの。

何なら、こんなこと書くのは風花さんの傷に塩を塗るようで心苦しいけれど。
はっきり言ってしまえば、あなたの抱えている諸々の事情、様々な苦しみは、このコラムを読み終わった後も、きっと何をどうやってしても続いていってしまうはず。
厳しいながら、それが現実というもの。

だから、あたしとしてはせめて。
あなたがこれからも「生き続け」ていくうえで、少しでも支えになる何かをここで届けることができれば嬉しいなって、そう考えているの。
そのためにまずは、あたしが風花さんのように、自分ではどうしようもならないかなしみと直面したときに必ず読み返している、こちらの童話の紹介から始めさせてください。

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新美南吉(1935)「デンデンムシノ カナシミ」
「青空文庫HP」
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自分の内なる悲惨に気づいたでんでんむしが、それを他者に伝えようとする過程で、誰もが外殻からは慮る余地もないそれぞれの悲惨を抱えているんだと気づき、未来に歩み始める話。

「つらいのはお前だけじゃないってこと……?そんな当たり前のこと言われても」って、もしかしたら読んでいて思ったかもしれません(「それぞれの家庭にそれぞれの悩みがあると頭では理解」しているって、手紙の中にも書いてくれていたものね)。

でもね風花さん、あたしがこの童話から勇気をもらうのは、実は「みんな苦しい」っていうところではないの。

童話「でんでんむしのかなしみ」がくれる勇気

むしろね。
その事実にでんでんむしが気づくきっかけとなるのが、他のでんでんむしとの出会い、そして対話であるというところが、あたしは(作者の新美南吉の意図するところではないかもしれないけれど)とっても大事だと思っているし、個人的にも響くところなんだよね。

そう風花さん。あなたは今、自分のなかで大きく育った厭世の念のせいで、周囲の人間から距離を取りがちになってしまっているみたいだけれど。
そして、そのスタンス自体は、かつて似たような暗い念をこころの内側に抱えながら生きていた(今もそう生きているかもしれない)自分としては、根本から否定したいとかそういうことではなく、むしろ共感でもってその背を撫でてあげたいくらいなのだけれど。

でもね、どうやらわれわれ、"人"ってさ。
誰かと出会い、つながり、話す。そうした輪の中でこそようやく新しい歩みを見つけ、なんなら自らのことを癒すことができる生き物みたいなのよ。

アリストテレスは、人間は「社会的動物」であるだなんてのたまわったそうですが。
あたしは自身自分の歩みを振り返って、この一言には一理も二理もあるなぁって、そんな風に思うんだ(ゲイというアイデンティティをあまりに深い"ひずみ"として内面化することはないんだよと、そう教えてくれる人たちにこの札幌で出会えたこと、そのつながりが文字通り、僕を救ってくれたのです)。


だから、風花さん。
あなたもどうか、誰かとのつながりや出会い、その中での対話を、どうかあきらめないでください

「とても話せない」と相談文に書いていたし、この件をご家族に話すというのはやはり厳しいだろうけれど……。
ただ、いきなりは無理でも、自分の今の状況を少しずつ言葉にして伝え、周囲の人たちに相談してみるのは、あたしむしろアリだと思う。
その過程で、手を差し伸べてくれる仲間ができるかもしれない。明るい選択肢を見出せる瞬間が来るかもしれない。

もしそんなに都合よくいかなくても、誰かと「ともに生きている」という実感は、あなたのこころの支えになるはずです。
画面越しだし、しかも勝手にですが、あたしは風花さんとこれから「ともに生き」られればと思っています。あなたが出会ったもう1匹のでんでんむしとして、あたしのことも頭の片隅に置いておいてほしい。それが少しでも、あなたの励みにつながればって。

人生は、決して明るくない。でもだからこそ、手をたずさえて歩んでいければいい。
風花さんがあたしも含めた様々な人たちとのつながりのなかで、少しでも笑顔でこれからを生きていってくれればと、そうこころの底から祈っています。

ま・と・め♡

今回は、いただいたお悩みをもとに、人生の理不尽さやその乗り越え方など、つらつらと書かせていただきました。

こうやって文章にすることが、あたしにとってもひとつの救いになってんのよね。
皆さんのお悩みをコラムとして咲かせることがセルフラブにもつながってくる……貴重な経験をいつもさせてもらっているなぁと思っています。

これからも様々なお悩みと向き合っていきたいな。
ではまた次回。Sitakkeね〜!

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■番組名 「ひとりの夜にあなたとあたしのしたっけラジオ」
■放送日時 毎週日曜日 午後7時30分~8時00分  ※初回放送:2024年10月6日(日)
■出演 満島てる子、HBCアナウンサー・森結有花
■番組メールアドレス st@hbc.co.jp
■Podacast https://podcasters.spotify.com/pod/show/hbcsitakke

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文:満島てる子
イラスト制作:VES
編集:Sitakke編集部 ナベ子
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満島てる子:オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。 2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。お悩みは随時募集しています。

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