「レイオフされても日本には戻らない」元Amazon本社PMが語る、日本と米国“働き方の決定的な差”
米国赴任中に突然のレイオフ。キャリアの過程で米Amazon本社のプロダクトマネジャー(PM)として活躍するも、転職を繰り返したのちに二度目のレイオフーー
米国テック業界の荒波にもまれつつも、いまだ現地で転職活動中のゆうさん。
キャリアの初期に経験したアメリカ出張で挫折し、一度は「二度と米国なんかで働くもんか!」と誓ったと明かしつつも、なぜ今なお米国で働くことにこだわるのか。
10年以上にわたって現地で働いてきた経験から、ゆうさんが思う「米国で働く本当の価値」について聞いた。
ゆうさん(@honkiku1)
日本生まれ・日本育ちの“純ジャパ”として、社会人初期に経験したアメリカ出張で英語の壁に直面し、「もう二度とアメリカで働くなんてごめんだ」と誓う。しかしその後、独学で英語を習得し、日系ITメガベンチャーの米国現地法人での勤務を経て、Amazonシアトル本社にてプロダクトマネジャーとして活躍。2013年からアメリカ在住。二度のレイオフを経験しながらも、米国でのキャリアを継続。現在は、米国での転職活動を行いながら、自身の経験をもとに、英語力の習得方法や米国での働き方、キャリア形成についての情報発信を行っている ■ゆうさんのサイト「本気のアメリカ就職」 ■新著「グローバルに通用する英語独学バイブル: こうして僕はAmazonシアトル本社でプロダクトマネージャーになった!」(大和出版)
目次
二度のレイオフ。それでも「ショックではなかった」「報酬は日本の2〜4倍」かつ働きやすい理由レイオフに備えるには「人脈&資産形成」英語力があれば、日本人でも米国で幸せに働ける書籍紹介
二度のレイオフ。それでも「ショックではなかった」
ーーまず、米国で働くようになったきっかけを教えてください。
実は、最初から米国に憧れがあったわけではありません。むしろ、「アメリカで働くなんてごめんだ」と思った過去があるんです。
というのも、社会人初期にコンサルティング会社で働いていた頃、2カ月ほどのアメリカ出張に行ったことがありまして。その時、英語が全くできなくて本当に苦労したんです。
現地の会話についていけない、会議で発言できない、頼まれごとも理解できない——そんな状態で、精神的にもかなり参っていました。
当時の私は、大学卒業まで一度も海外に出たことがない筋金入りの“純ジャパ”。英会話はほぼ未経験で、心の底から「もう二度とアメリカなんて来たくない」と思いましたね。
そもそも日本が大好きで、ずっと日本で暮らしていきたいと思っていたタイプでしたから、まさか後に自分がシアトルでAmazonのPMになるとは、夢にも思っていませんでした。
ーーそこから実際にアメリカで働くようになるまでに、どんな経緯があったのでしょうか?
その後、日本のITメガベンチャーに転職したのですが、ある日「アメリカ事業を立て直してほしい」と言われたんです。最初は戸惑いましたが、「もう一度アメリカでチャレンジしてみよう」と決意して、サンフランシスコへの長期駐在を引き受けました。
ーーその後、最初のレイオフにつながるんですね。具体的にはどのような状況だったのでしょうか?
残念ながら事業が振るわず、現地オフィスそのものが閉鎖したんです。結果、全社員がレイオフされました。
ーー日本に戻る選択肢はなかったのですか?
ありました。会社都合での撤退だったので、日本に戻ればポジションは確保されていました。実際、他の駐在メンバーは全員帰国しましたしね。ただ、私だけは米国に残る道を選びました。
ーーその理由は?
二つあります。一つは、ちょうど永住権(グリーンカード)を取得できたタイミングだったこと。取得はかなり難易度が高いので、ここで戻るのはあまりにもったいないと思ったんです。
もう一つは、子どもの教育です。当時、生まれたばかりの子どもに、「この子には、自分のように英語で苦労させたくない」という思いがありました。それで米国で育てることにしたんです。
ーーレイオフの事実からは、すぐに立ち直れたのですか?
実は、それほどショックではなかったんです。全員一斉のレイオフでしたし、自分なりにやれることはやってきた自負もありました。それよりも、「会社ってこうも簡単に消えるんだな」と実感したことの方が印象に残っています。
それがきっかけで、「一つの企業にキャリアを依存させるのはリスクだ」という意識を強く持つようになりました。
ーーそして昨年、再びレイオフを経験されたと。これはどのような状況だったのでしょうか?
はい。Amazonから米国スタートアップに転職した後、また日系ITメガベンチャーの米国子会社にいたのですが、経営の見直しに伴い、大規模な人員整理が行われることに。日本側に雇用されていた社員は法的に保護されやすいですが、私は米国子会社の正社員だったため、真っ先に対象になりました。
さすがに「なぜ自分が」とは思いましたが、冷静に見れば、給与水準の高い自分が最初に切られるのは合理的です。
それに、米国で10年以上過ごす中で、周りの人たちがレイオフされるのを数えきれないほど見ていました。なので、もはや驚きませんし、妻も落ち着いて受け止めてくれました。
「報酬は日本の2〜4倍」かつ働きやすい理由
ーー二度のレイオフを経験しながらも、米国にこだわるのはなぜですか? 一度目のレイオフの後はAmazonのPMとして働いていた実績もお持ちだとか。その経歴があれば、日本でも活躍できるのでは。
一番の理由は、「グローバルプロダクト」に関わりたいからです。
日本では国内市場向けのプロダクトが多いですが、私は世界中のユーザーに届くプロダクトに関わる方が、面白くて手応えがあると感じています。それに、世界各地のメンバーと連携しながら一つのものを作れるのは、純粋に面白いんですよね。
あとは、待遇。自分の知る範囲では、米国での給料は日本の2〜4倍というのが私の実感値です。
ーーそれだけ報酬が高いと、業務もハードなのでは?
むしろ逆で、働きやすいと感じています。定時退社が当たり前で、労働時間は全体的にかなり短いです。夜8時にもなればオフィスにはほとんど誰も残っていません。
さらに、ビッグテックにありがちな「超優秀な人材に囲まれて成果が出しづらい」といったプレッシャーも少ないです。米国では少数のハイパフォーマーがチームを牽引し、他のメンバーは役割を分担することで全体が回る仕組みになっている印象です。
正直、GAFAMにいるからといって全員がトップオブトップというわけではなく、本物のトッププレイヤー人材は、むしろスタートアップや独立を選ぶ傾向が強いです。平均的なスキルセットで比べると、日本人エンジニアの方が高いのではと感じることもあります。
レイオフに備えるには「人脈&資産形成」
ーー米国で働き続けるために、ゆうさんはどのように自身の市場価値を高めてきましたか。
特に何か意識してきたわけではないのですが、振り返ってみると、「キャリアの掛け算」がうまく作用したのかもしれません。
私はもともとデータアナリストで、後にゲームPMに転身。そこに「英語・日本語のバイリンガル性」が加わったことで、特定のニーズにフィットする希少な人材になれました。実際、このキャリアのおかげで「日本市場向けゲームを作る米国スタートアップでのPM」のポジションにはまったことがありました。
それぞれのスキルのレベルは、大したことはないんですが、組み合わせ次第で市場価値は高められるという実感があります。
ーー転職しても三度目のレイオフに遭う可能性がゼロではない中で、備えていることはありますか?
「信頼できるネットワークを築く」ことに尽きると思います。といっても、意図的に名刺交換するのではなく、日々の業務で信頼を重ねていく形です。
米国では紹介経由の採用が非常に多く、良い仕事をしていれば次の仕事を紹介してもらいやすくなります。だからこそ、目の前の仕事に全力を尽くすことが、キャリア継続の鍵なんです。
ーーレイオフ後の転職活動はどう進めるのですか?
日本では解雇されたことを恥と感じて、隠そうとする人も多いと思うのですが、米国ではそんな価値観はありません。レイオフ対象になるとすぐにLinkedInを更新して「レイオフされました。いいポジションがあったら教えてね」と投稿するのが一般的です。
ちなみに日本では「解雇=能力が低い」という印象を持たれがちかもしれませんが、アメリカではレイオフはあくまで事業上の判断と捉えられています。たとえ優秀な人材であっても、担当している事業が不採算だったり、会社の重点領域から外れたタイミングであれば、対象になることは珍しくありません。
実際、「パフォーマンスに問題があるからレイオフされた」と捉える人はほとんどいません。構造的な理由による整理であることが多いため、レイオフを経験しても転職活動で不利になることはほぼないのが実情です。
ーーとはいえ、突然収入が絶たれるのは、やはりリスクと言えそうです。
そうですね。ですから私は、普段から資産形成も地道に行っています。米国は給料が高いので、資金面できちんと備えておけば、レイオフのリスクにも十分耐えられると思います。
英語力があれば、日本人でも米国で幸せに働ける
ーー米国でキャリアを築いてきたゆうさんにあえてお伺いしますが、日本でキャリアを築くことにも意味はあると思いますか?
もちろんです。日本は便利で安全な国もですし、生活インフラも整っています。医療費圧倒的に安い。アメリカだと虫歯1本で10万円、入院で数百万円になることもあるので、老後まで米国で暮らすイメージは持てません。
ただ、日本にはまだグローバルに展開するプロダクトを開発している企業が少ないので、私のように「世界を相手にプロダクトを作りたい」という人には選択肢が限られてしまうと思います。
将来的には子どもの英語が十分に定着した段階で、日本に戻るのもアリだなと考えていますが、希望するポジションを見つけられるかどうかが一番の課題ですね。
ーーこれから海外で働いてみたいと考えているエンジニアが知っておくとよいことはありますか?
いろんな国の人と仕事をしてきて分かったのは、日本人は真面目で勤勉、そして優秀な人が多いということです。日本の職場で飛び抜けて優秀というわけでなくても、米国に来れば十分に通用しますし、報酬面でも圧倒的に恵まれます。
管理職にならなくても待遇を上げていけるので、自分の望むキャリアも形成しやすいです。
もちろん、そのためには一定の英語力が不可欠です。でも、私のように留学経験がなくても、正しい努力をすれば英語は必ず話せるようになるので、ぜひ諦めずにチャレンジしてもらいたいなと思います。
文/一本麻衣 編集/玉城智子(編集部)
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