【心療内科医が回答】「ADHDかもしれない……」大人の発達障害、特性との付き合いかた|はたらく心の処方箋 vol. 1
2024年5月に発表された厚生労働省の調査によると、20歳以上で発達障害と診断された人は、約48.1万人にのぼります(※令和4年12月時点)。2016年の前回調査では約24.3万人と、 大人の発達障害は6年間でほぼ倍増しました。
しかし、渋谷365メンタルクリニック院長の森秀和院長は「発達障害を抱える人の数そのものが増えたわけではない」と指摘。10年ほど前からマスメディアやSNSの影響で「発達障害」に対する認知が進み、診断を受ける人が増えた結果だと話します。
心療内科医の森さんがビジネスパーソンのお悩みに答える連載「はたらく心の処方箋」。今回のテーマは 「私は発達障害に当てはまる?特性をどう活かすか」 です。大人の発達障害の専門家である森さんに、特にADHD(注意欠如多動症)に焦点を当てて話を聞きました。
参照:
厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」 厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」
お悩み
「ADHDかもしれない……」大人の発達障害、特性をどう活かせばいい? 新卒で広告代理店に入社し営業部門に配属され、もうすぐ3年経過。仕事にはやりがいを感じているが、業務の優先順位付けが苦手で、同期に比べて仕事が遅い。クライアントの資料作成などの仕事に追われる中で、ケアレスミスが多かったり、上司から確認されることが頻繁にあったりと、仕事がうまくいかないことも増えてきた。最近、SNSでよく見かけるADHDの特性に自分が当てはまるのではないかと感じ始めた。仕事は好きでがんばりたい反面、業務内容や人づきあいが向いていないのかもしれないと不安を感じている。また、今後のキャリアで、どう自分の特性を理解し付き合っていくべきか悩んでいる。 [25歳女性/会社員/広告営業(アカウントプランナー)/広告代理店]
まずは自分の特性をセルフチェックしてみよう
SNSの発達によりADHDに関する情報に触れる機会が増え、「もしかしたら自分はADHDかもしれない」と感じる人が増えています。学生時代は親や学校のサポートが得られる環境であり、たとえミスをしても大きな問題にならないケースが多いかもしれません。一方で、社会人になると自分の判断で責任を持って仕事を進めなければならず、1つのミスから大きなトラブルを招いてしまう可能性もあります。そのため、上司から何度も注意を受ける、周りと同じように働けず不安や焦りを感じる、といったことがきっかけで、自分の特性を意識し始める人も少なくありません。
しかし、「自分はADHDかもしれない」と感じたとしても、いきなり医療機関を受診するのはハードルが高いと感じる人もいるはずです。その場合はまず、セルフチェックから始めてみましょう。Webで検索すると、質問に答えるだけでADHDの傾向の有無を確認できるサイトがいくつかあります。「ADHDである」という確定的な診断が得られるわけではありませんが、自分の特性についてある程度の手がかりは得られるため、上手く利用しましょう。
たとえば私たちクリニックの診療では、下記の項目を質問しています。
※個人により異なるため、断定的な診断をするものではありません
<大人のADHDセルフチェック項目>
集中力が続かないが、好きなことには集中しすぎてしまう 人から話かけられても1回で反応できず何回も声かけされる じっとしていられない、講演など長時間座って人の話を聞く場面で手足を動かしてしまう ミスが多い 失くし物が多い 時間の管理が苦手 マルチタスクが苦手 計画性がない 人の会話にかぶせて話してしまう かんしゃくを起こしやすい、カッとなりやすい
特性の理解を深めるには、対話型AIの活用もおすすめ
セルフチェックでADHDの傾向があれば、まずは自分で対策を考えて試してみましょう。最近では 対話型AIを利用して対策を考える こともできます。たとえばAIに、 「私はADHDで、注意を怠りやすい傾向があります。広告営業として働いていますが、どのような対策が有効ですか?」 と聞いてみるのです。私も以前、AIに対して同様の質問をした経験があります。その際は、以下のような方法を提案されました。
やるべきタスクを付箋やメモに書き出し、優先順位が高いものから順にパソコンに貼っておく。 上司から新しい指示が来たら、付箋を追加して並べ直す。 上に貼っている付箋から順番にタスクを一つずつ進める。
医師の私から見ても有効な対策だと感じます。相談者さんが抱えている「優先順位付けが苦手」「同期に比べて仕事が遅い」という困りごとへの解決策にもなるでしょう。AIはほかにも具体的な注意点や対策をいろいろと教えてくれるはずです。
ただしAIの答えはあくまで一般的なもので、個別の事情に完全に対応できるわけではありません。もっと詳しく知りたい場合や、自分で対策を進めるのが難しい場合は、信頼できる人に相談したり、医療機関を受診して具体的な支援を受けたりするのがおすすめです。
相談先をみつけて、一人で悩まないことが大切
一般的に、ADHDの傾向としてマルチタスクや臨機応変な対応が苦手といった特徴はありますが、あくまで一人一人置かれている状況は違いますし、抱えている悩みも異なります。たとえば「人付き合いが苦手」と言っても、その原因はさまざまです。スケジュール管理が苦手で遅刻や予定の抜け漏れが続いて信頼を失ってしまう人もいれば、相手から挨拶されても気づかず知らないうちに無視してしまい、周囲の反感を買う人もいます。
ですので、「今後のキャリアにおいて特性とどう付き合っていくか」を考えるには、実際に仕事のどのような場面で困っていて、周りからどういった指摘を受けるのかなど、具体的な内容をもとに検討する必要があります。これは自分だけで考えるのはなかなか難しいため、医療機関や専門機関に相談してもらうほうがよいでしょう。人によっては、一度の医療機関への相談で悩みが解決する場合もあります。すでに自分でいろいろと対策を試みたけれど上手くいかなかった人であれば、状況を詳しく聞いたうえでその人に合う薬の服用の提案なども可能です。
何にせよ、まずは一人で抱え込まず、相談できる場所をみつけてください。AI、家族や友人、医療機関、どこでも構いません。自分にあった方法で周囲を頼り、一緒に解決の糸口を探っていきましょう。
プロフィール
渋谷365メンタルクリニック
院⻑ 森秀和
産業医科大卒業後、同大学心療内科医として勤務。その後、IT企業、コンサルティング企業、大手エンタテイメント系企業の専属産業医として活躍。23 年に渡る心療内科・精神科医療の経験と、産業医として幅広く活動してきた経験から、多角的な視野で患者さまのメンタルヘルス疾患に柔軟に対応することを得意としている。
企業サイト
渋谷365メンタルクリニック
保有資格
日本心身医学会・日本心療内科学会合同 心療内科専門医
日本内科学会総合内科専門医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
特定社会保険労務士