「MUSIC NEXUS LIVE 導-SHIRUBE-Vol.2」by U-NEXT HOLDINGS@TOKIO TOKYO――ライブレポート
STAP Sigh Boys
トップバッターは打ち込みのトラックを走らせ、歌い、固定したギターも操る謎めいたバックボーンを持つ一人ユニット、STAP Sigh Boys。プロフィールにあるように「電子レンジで溶かしたネオソウル」とか「一人ランダム・アクセス・メモリーズ(ダフト・パンク)」とか「高円寺のマック・デマルコ」という形容はどれも当たっていて、それらが融合した音楽性を感じる。洒脱なディスコチューン「君たちは宇宙生まれ」は曲調も相まって、“一人ダフパン”やマハラージャンを想起させる部分も。地声のパワフルさとファルセットに加えて唱法でユニークだったのが首を指で叩いてビブラートを起こすというもの。
佇まいのユニークさについ注目してしまうが、実はかなり歌える人なのだ。というのも、25分間、ほぼノンストップミックスで歌い続けたのだから。しかもトラックセンスが冴えているだけでなく、コーラスの重ねがスペーシーで70年代風のムードもある「瀬戸内磁石」――どんなタイトルなんだ(笑)――だったり、逆にこちらはまさにタイトル通りラテンのメロディにゲーム音楽のエッセンスなども盛り込んだ「Melt Into The Beat」など、音楽オタクには無視できないライブを展開。ライブ開始時は面食らっていた初見のオーディエンスも最後には体を揺らすところまでそのグルーヴで巻き込んでいた。もしまた彼に出会えたら今度は踊り倒したい!
■SET LIST
M1.君たちは宇宙生まれ
M2.Oh My, Friday Night
M3.Lovefool
M4.ぱお~ん!
M5.Light(n)ing
M6.瀬戸内磁石
M7.Dancing When You’re Dead
M8.Spell on You&Me
M9.Melt into the Beat
一度もライブをしたことがなかったにもかかわらず、「FUJI ROCK FESTIVAL '21」 Rookie A GoGoに出演。2021年11月23日にデビューアルバム『Hey』をリリースし、2022年4月29日にコンセプチュアル・ディスコ・アルバム『Aino』をリリース。「電子レンジで溶かしたネオソウル」「1人ランダム・アクセス・メモリーズ(ダフト・パンク)」「高円寺のマックデマルコ」と評される。影絵、腹話術、魔術、パーティーゲームを盛り込んだシュールでインタラクティブなライブを数多く行い、ライブシーンでも高い評価を得ている。もともと1970年の大阪万博アイルランド館で働くため来日しましたが、東京の築地市場に行った際に冷凍庫に閉じ込められてしまい、豊洲に移転した時にようやく発見されました。
STAP Sigh Boys
2025年2月28日(金)配信
TuneCore Japan
STAP Sigh Boys「Empathy - 共感放送!」
Surpass
続いては東京都青梅市を拠点に活動するスリーピースバンドSurpassが登場。一人ひとり登場して丁寧にお辞儀をして自分の位置に着くと、これぞ邦楽ギターロックバンドと言いたくなるタフな四分キックとギターストロークが放たれ、「秘密基地」と題された、少年から青年への成長を感じさせるアップチューンを披露する。シンプルなアレンジだが、西村勇哉(Ba)のよく動くベースラインが曲に起伏をつけている。3曲目には歌い出しの“我々は夢中人だ”というアイデアのある歌詞、ポストパンクなビートで流れを変える「夢中人」を披露。ダンサブルな曲も持っているバンドの強みを実感させてくれた。
MCでは場を盛り上げようと、ギター&ボーカルの古谷 蓮が「なんで座ってるんですか?卒業式ですか?」と軽く挑発したが、緊張の裏返しなのだとすかさずフォローを入れる。それを滑ったな、という風にツッコむドラムの鈴木洸太のキャラもいい。ちなみにここまで演奏した曲は4人バンド時代の曲らしく、確かにリフとソロ両方を弾く古谷はちょっと苦戦しているように見受けられた。だが、メンバーが一人抜けた今もスリーピースでバンドを再構築していることがわかると、彼らの熱演の意味もわかってくる。3人の演奏を意識しただろう「今日未明」と題された新曲はシンプルなコードで作るソリッドなマイナーチューン。ここでもベースの活躍が目を惹き、これからまだまだ変化していきそうなバンドの成長過程に出会えた。
■SET LIST
M1. 秘密基地
M2. 主人公
M3. 夢中人
M4. さよなら
M5. 今日未明
古谷 蓮(G/Vo)、西村勇哉(Ba)、鈴木洸太(Dr)からなるスリーピースバンド。東京都青梅市出身。主な活動拠点は下北沢、渋谷界隈。Shibuya Milkywayで開催した自主企画イベントでは100人以上を動員。「MiMiNOKOROCK FES JAPAN in 吉祥寺 2024」では「ミライオトロック」枠で出演。福岡、大阪など東京圏以外でも活動。
Surpass
2024年11月27日(水)配信
TuneCore Japan
Surpass「秘密基地」
ナリタジュンヤ
場のムードが温まってきた中、すでに10作以上のシングル、2作のフルアルバムをリリースしているシンガー・ソングライター、ナリタジュンヤがバンドセットで登場。サウンドチェックの段階で演奏のレベルの高さが窺えたが、1曲目の「Silver Sunlight」ではアコギをストロークしながら歌い始めた瞬間、ナリタの切なさと素直さ、広大な景色を描ける意思のこもった声に目が覚める。さらにUKロックをルーツに持つ彼の音楽性を立体的に盛り立てるバンドの演奏も相まって、日本のシンガーソングライターのイメージを軽く突破したのだ。エンディングのロングトーンにフロアも圧倒されていることがわかり、大きな拍手。
続く「Just Drive」はネオアコの瑞々しさとシューゲイザー感もある1曲。さらにネオソウルの手触りもある「Crying Inside」と、音楽的なレンジの広さを体感させてくれるのだが、どの曲もナリタが歌と声が頭ではなく胸にスッと馴染み、言葉が腹落ちする感じはシンプルに心地いい。素晴らしい資質だと思う。そして心地よさを喩えるなら場の空気を新しくしてくれる風のようだなと感じていたら、その名も「Wind」というフォーキーなナンバー、そしてラストは「皆さんにラブソングを送ろうと思います」と、曲紹介するのだが、バレンタインデーは誰にも会わずにコンビニのチョコバーを食べていたと素を見せるところも嫌味がない。そのラブソング「I'm in Love with You」はノエル・ギャラガーを彷彿させる珠玉のコードワーク。それでいて彼のオリジナリティである声と言葉でしっかり魅了されたのだった。
■SET LIST
M1. Silver Sunlight
M2. Just Drive
M3. Crying Inside
M4. Wind
M5. I'm in Love with You
愛知出身のシンガーソングライター。1993年11月4日生まれ。幼少期にオアシスが出演するテレビCM曲「Lyla」に衝撃を受け、後の音楽活動の原体験となる。22歳、名古屋市のライブハウスを中心に社会人バンドでの活動を開始。同バンド解散後上京。ストリートライブを中心にソロ活動を始め、これまでに作曲した楽曲は150 曲以上に及ぶ。2020年9月にリリースした 2ndシングル「I'm in Love with You」は、ラジオ番組等で話題となり、Spotifyの公式プレイリスト「Early Noise」のカバーに抜擢。2024年11 月現在の総ストリーミング回数は約200万。2021年6月、1stアルバム『 0630』を配信リリース。2023年4月、2ndアルバム『MEMORABLE』をリリース。同月自身初のバンドセットでのワンマンライブを開催。2024年11月、5曲入りEP「wind e.p.」をリリース。
ナリタジュンヤ
2024年11月13日(水)配信
BIG UP!
ナリタジュンヤ「wind e.p.」
ペンギンラッシュ
トリは名古屋拠点で活動する男女混成バンドのペンギンラッシュだ。ジャズやファンクがポップシーンに浸透してきた2010年代以降のセンスを内包しつつ、意表を突くアレンジやメロディが特徴的。2020年にメジャーデビューを果たしたが、コロナ禍真っ最中だったがために活動がスローダウンし、現在は再びインディーズリリースを行っている。昨年は4年ぶりとなるニューアルバム『真善美』をリリースし、今回のセットリストも本作から代表曲がプレイされた。真結(Key)のシンセのレイヤーがガムランのようなムードを醸すイントロから、「蒼炎」がスタート。レイドバックしたnariken(Dr)のビート、ユニークなリフを挟む浩太郎のベースなど、ギターレスバンドらしいアレンジの工夫が緩急を突いてくる。その上で歌う望世のボーカルはストイックさと大胆さを兼ね備えたニュアンスだ。続くマイナーメロディがセンシュアルな「Salvia」、このバンドの音楽的なレンジの広さを実感させる、どこかアニメソング的な勇壮なメロディを持ち、目眩くリズムチェンジや複雑なフレージングを持つ「limit」と、3曲それぞれ全く異なるカラーの演奏で圧倒した。
MCで最新リリースが決まったことを告げると、フロアから拍手が起こり、早速新曲「いつからだっけな」が披露される。これまでのレパートリーと比べると、比較的平易な言葉で別れと成長を感じさせる“いつからだっけな”というサビのリフレインが耳に残った。同曲はライブ翌週の2月26日にリリースされたばかりだ。そしてラストは機械的なピアノリフやダンサブルなビートがポップな「悪ふざけ」で、この日最高の盛り上がりを見せてフィニッシュ。予想外のアンコールも納得で、1stアルバム収録の人気曲「ユイメク」をオーディエンスにプレゼントして、イベントを締め括った。
■SET LIST
M1. 蒼炎
M2. Salvia
M3. limit
M4. いつからだっけな
M5. 悪ふざけ
EN. ユイメク
名古屋出身。2014年、高校の同級生であった望世、真結を中心に結成。2017年に2人をサポートしていた浩太郎とNarikenが正式加入し現4人体勢に。昨今のバンドサウンドとは一線を画す、ジャンルレスなアンサンブル、独自のメロディライン、言い換えるならば現在のPOPS シーンに存在しない違和感"で構成されるJ-POP。
ペンギンラッシュ
2024年10月2日(水)配信
Village again association
ペンギンラッシュ「悪ふざけ」
初見のオーディエンスが多い上に、これまでの3回の中でも最もジャンルの振り幅が広かった今回。それだけにライブで届くパフォーマンスや曲の完成度がそうしたハードルを超える様子も確認できた。今回出演した4組の今後のリリースやライブに期待するとともに、ユニークなオムニバスとして、次回以降もぜひチェックしてほしい。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/藤村聖那