平成ぎゃるそん ② 1996年は女性元気印!華原朋美は時代が愛したぶっとびシンデレラ
平成ぎゃるそん(平成ギャルSONG)vol.2
I'm proud / 華原朋美
作詞:小室哲哉
作曲:小室哲哉
編曲:小室哲哉
発売:1996年3月6日
1996年、一番カラオケで歌われたのが華原朋美の「I'm proud」
1995年、安室奈美恵の登場でギャル文化が爆発し、翌1996年には彼女を真似する “アムラー” たちが、ミニスカート、歩きにくいほど底が厚いブーツ、そして長い髪をバシッと決めて時代を刺激的にしていた。
この年元気だったのは日焼けしたガングロギャルだけではない。当時朝日新聞がこの年を総括して “女性元気印” と表現するほど、様々なオンナノコたちが日本に熱風を巻き起こしていた。音楽でも、1996年は “最強のガールズソング年” と言ってもいいほど、ヒット曲がズラリだ!
▶︎ Don't wanna cry / 安室奈美恵
▶︎ Baby baby baby / dos
▶︎ Body & Soul / SPEED
▶︎ 恋心 / 相川七瀬
▶︎ アジアの純真 / PUFFY
▶︎ そばかす / JUDY AND MARY
―― こんな凄まじい名曲ラッシュのなか、一番カラオケで歌われたのが、華原朋美の「I'm proud」だった。
時代が愛した “ぶっとびシンデレラ” 朋ちゃん。彼女の透き通るように伸びるハイトーンボイスと、1人の少女がスターになっていくプロセスを、そのまま描いたようなあの「I'm proud」のプロモーションビデオ! パラパラとヘリが飛ぶなか、高い高いビルの屋上で高い高い声を響かせている彼女の姿は、動画を観なくても余裕で脳内再生可能だ。
ヒリヒリするほど純粋に好きだと叫ぶカハラー
華原朋美のお手本はマライア・キャリー。当時彼女のプロデューサーで恋人だった小室哲哉が “シンデレラストーリーを作ってあげよう” と、トータルでセレブ感を意識したのは有名な話だ。
シンプルな、プラダやグッチなどのワンピースやパンツスーツの着こなしはマニッシュでかわいくて、そのスタイリングを真似する “カハラー” が続出。ファッションだけではなく、キティちゃんから吉野家牛丼のつゆだくまで、多方面に渡り、朋ちゃんの “好き” が時代の “好き" になった。彼女がCMで “ヒューヒュー!” と叫んでいた『桃の天然水』はとてもおいしかったので、私も当時本当にお世話になったものだ。深田恭子が彼女の大ファンで、音楽を目指したきっかけになったというエピソードも熱い。ちなみに深キョンのデビュー曲「最後の果実」(1999年)は若さと世紀末感両方があって素晴らしい!
話を華原朋美に戻そう。彼女は誰から見てもキラキラしていたけれど、あまりにもあけすけに “天才に愛され、才能を見出され、時代に愛される” さまをそのまま電波に乗せてしまっていた。その姿は誰から見ても危なっかしく、生まれたばかりの好奇心いっぱいな小鳥がいきなり大空に出たみたいだった。
でも、彼女の歌う “LOVE” が当時の女の子たちの共感を得たのは、そんな危なっかしさも含めてだろう。「LOVE BRACE」「LOVE IS ALL MUSIC」など、与えられた倍の愛を返すように歌う朋ちゃんの楽曲は、安室奈美恵に感じる革命感や躍動感はなかったけれど、自分だけの “何か” を探している必死さは似ていた気がするのだ。
「I’m Proud」の前半は “Lonely” で始まる通り、寂しくて寂しくてたまらない。そして、最後のほうに訪れるサビ、
自分を誇れる様になってきたのはきっと
あなたに会えた夜から
ーー は最高に幸せな歌詞にも思えるけれど、こんなに自分に自信がない切ない言葉はない。そして最後は、
かならずあなたに知ってもらうの
ーー で終わる。
6枚目のシングル「Hate tell a lie」でも、
何から何まであなたがすべて
私をどうにか輝かせるため
苦しんだり悩んだりしてがんばってる
小室哲哉が描く切迫感と一途さを華原朋美が悲壮なくらいに全力かつ圧倒的な美しさで歌う。愛される白と、不安のグレー。朋ちゃんのこの雪のような儚いモノトーンは、2000年に登場する白ギャルのカリスマ、浜崎あゆみに受け継がれていく。
時代を蹴り前進していくようなアムラーと、ヒリヒリするほど純粋に好きだと叫ぶカハラーは、どちらも世紀末の “ギリギリ” そのものだった。
自分の誇りを誰もが自分を探している時代
華原朋美は、2013年のBillboard JAPANのインタビューで、当時の自分を “どんな女の子だったなと感じますか?” と聞かれ、こう答えている。
「うーん……汚れてない(笑)。何にも知らない人だったと思います。だからいろんなことを教えてもらいましたよね、きっと」
ーー 何も知らない人だった
90年代半ばの喧騒は、誰もが何もわからない時代だったのではないかな、と思うのである。1996年のオリコン第1位はMr.Childrenの「名もなき詩」で、自分探しという言葉がパワーワードだった頃でもある。
女の子たちも時代の先端を走りながら、刺激的で楽しいけれど、何が正解なのか、どこに向かっているのかもわからないまま、自分の誇りを必死で探していたのかもしれない。