“森保ジャパン”最終予選突破に大きく前進。サッカー日本代表、今後の選手起用を読む
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
森保ジャパンはアウエー2連戦となった11月シリーズで、インドネシアと中国を相手に連勝を飾り、これでアジア最終予選は5勝1分け、勝ち点を16に伸ばした。現在2位のオーストラリアが勝ち点7、残る4チームが勝ち点6で並んでおり、日本は来年3月に行われるホームのバーレーン戦に勝利すれば、他会場の結果に関係なく、26年夏に行われる北中米W杯の本大会出場が確定する。まさしくアジアでは強すぎる日本だが、世界の戦いに向けていかに進化していくのか。
最終予選では6試合で勝利はもちろん、22得点2失点と圧倒的な数字を残している。2次予選だった6月のシリーズから本格導入された3−4−2−1をベースに、攻撃のタレントを2シャドーと左右ウイングバックに起用。試合の状況に応じた可変性の高いシステムが試合を重ねるごとに完成度を高めている。
今年初めのアジアカップでイラクとイランに敗れた反省も、最終予選の戦いに生かされている。中国戦の2ゴールなど、前田遼一コーチがデザインを担当するセットプレーからの得点力も強みだ。
守備面で見ると、オーストラリア戦で谷口彰悟(シント=トロイデン)のオウンゴールに繋がったシーンや中国戦で最終予選の2失点目を喫した連続的な守備のエラーなど、全ての局面でパーフェクトに試合を運べているわけではない。
しかしながら攻守の切り替わりで、前からはめる時は相手のシステムに応じて4−4−2と3−4−3を使い分けながら、ロングボールに同数で対応したり、構えて守る時は5−4−1で相手の出しどころに蓋をするなど、安定した対応ができている。
攻撃面ではボランチをキャプテンの遠藤航(リバプール)と守田英正(スポルティング)でほぼ固定しながら、ウイングバックとシャドーで豊富なタレントを使い分けている。
ここまで6試合で、3バックとボランチに選手交代があったのは最初の2試合だけ。その後はコンディション不良で遠藤の代わりに、田中碧(リーズ)が起用されたホームのオーストラリア戦、守田を温存して遠藤と田中が組んだアウェーの中国戦を含めて、2枚のボランチに交代カードは使われなかった。
その一方でウイングバックと2シャドーは目まぐるしく選手が入れ替わり、三笘薫(ブライトン)や堂安律(フライブルク)、伊東純也(スタッド・ランス)など、二つのポジションで起用されるケースも多く見られる。
上田綺世(フェイエノールト)が4試合、磐田に所属経験のある小川航基(NECナイメヘン)が2試合スタメンで出場している1トップを合わせて、ほぼ5つのポジションで交代カードが使われているのは、ボランチを軸にウイングバックと2シャドーのタレント力で勝負する森保監督の意向の表れだろう。
静岡県勢では旗手怜央(セルティック)がインドネシア戦の後半34分から伊東と2シャドーを組んだ。1トップで途中投入されていたFW大橋祐紀(ブラックバーン)がGKと1対1になるシーンを演出するなど、短い時間の中で輝きを放った。
2シャドーは6試合全てスタメンの南野拓実(モナコ)を軸に鎌田大地(クリスタル・パレス)、久保建英(レアル・ソシエダ)とスペシャルな武器を持つタレントが揃っている。さらにウイングバックがメインの三笘や伊東、さらに旗手の同僚である前田大然(セルティック)なども選択肢になる、最も競争が熾烈なポジションだ。
旗手の良さは流れや状況に応じて、パスの出し手にも受け手にもなれる万能性、そして周りの選手とコンビネーションを駆使して得点に絡めることであり、現在のスタイルとはマッチしている。おそらく森保一監督もその能力を見込んで招集しているはずだが、3−4−2−1だと2シャドーがメインになる中で、前目のところでフィニッシュに関わる役割が求められるだけに、鎌田や久保にも負けない決定的なものを見せていかないと、主力に食い込むことは難しい。
旗手と同じ静岡学園の出身である関根大輝(柏レイソル)は初招集だった10月シリーズに続く選出だったが、2試合とも23人のベンチメンバーに入ることができなかった。所属クラブでは右サイドバックで定着しているが、今回は怪我で離脱した谷口に代わる追加招集ということもあり、攻撃的なタレントが揃うウイングバックだけでなく、右センターバックでのアピールを本人も公言していた。
しかし、インドネシア戦では橋岡大樹(ルートン・タウン)、中国戦は瀬古歩夢(グラスホッパー)が中央の板倉滉(ボルシア・メンヒェングラートバッハ)、左の町田浩樹(サンジロワーズ)と3バックを形成した。
その一方で、右ウイングバックでは主力の堂安や伊東に加えて、インドネシア戦では菅原由勢(サウサンプトン)が途中出場。サイド突破から4点目のゴールを決めて、MOMに選ばれる活躍を見せた。
そして中国戦では橋岡が3−1とリードして迎えた終盤に右ウイングバックで起用されて、試合をクローズする役割を果たしており、大学4年生の関根が“森保ジャパン”でチャンスを獲得するには攻守両面で、さらなる成長をアピールしていく必要がありそうだ。
スペシャリティととポリバレントの両立
「1つのポジションだけだとやっぱり、どうしてもトップレベルの選手がいっぱいいるので、使いづらい部分もあるのかなって思う。サイドバックにしても、センターバックのどちらもトップレベル。伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)選手だったら町田選手のようにプレーできたら、おのずとチャンスをもらえると思うので。まずはそのレベルまで自分を持っていかないといけない」
そう関根が認めるように、現在の3−4−2−1で起用される可能性を高めていくには個人で決定的な何かができるスペシャリティと複数のポジションをこなせるポリバレントの両面で、成長をアピールしていく必要がありそうだ。
関根も名前を出した伊藤に関しては同じく長期離脱中の冨安健洋(アーセナル)とともに、来年の3月シリーズには完全復活を期待したいところだ。所属クラブの活動中にアキレス腱を負傷した谷口はその時点で復帰が難しいと見られるだけに、これまで最終予選の戦いを支えてきた板倉や町田、従来の主力候補である冨安と伊藤、そこに瀬古や橋岡、今回は2試合ベンチ外だった高井幸大(川崎フロンターレ)、A代表の初招集が期待されるチェイス・アンリ(シュトゥットガルト)も絡む、激しいサバイバルが予想される。そこに関根も食い込んでいけるか。
そのほか、FWでは町野修斗(ホルシュタイン・キール)をはじめ2シャドーの候補になりそうな元清水の鈴木唯人(ブレンビー)、パリ五輪組の平河悠(ブリストル・シティ)、ドイツのブンデスリーガで輝きを増す三好康児(ボーフム)など、クラブレベルでの活躍が目立つ選手たちが競争に加わってこられるかどうか。最終予選を確実に突破するために、多少メンバーを固定的に選び、使ってきたと見られる森保監督のダイナミックな決断が問われる来年になりそうだ。