夫の暴力に耐えかねた妻は、幼い息子たちを連れ川の中へ... 3人の命を救ったのは「牛が鳴くような声」
青森県在住の50代男性・Iさんは幼いころ、見知らぬおばあさんに命を救われた。
その日、Iさんは母に誘われ、散歩に出かけた。
しかし、母が目指していた場所は......。
<Iさんからのおたより>
私が4歳の頃の、ある晴れた日。母から「今日は天気がいいからお散歩しようか」と言われました。
母は家業の手伝い、家事と子育てで忙しかったのでそれは珍しいことでした。
ふたつ年下の弟を背負った母と手を繋ぎ、幼稚園で習った歌を歌いながら「ねえねえお母さんどこまで行くの?」と聞くと、「いいところだよ、帰りにお菓子買ってあげるね」と言われさわぐ私。弟は母の背中ですやすや眠っていました。
茶色くうねる川のほうへ...
田起こし間近の田んぼのあぜ道をしばらく行くと、前日までの雨と雪解けで増水した大きな川に辿り着きました。水は土手まで迫り、茶色くうねっています。
それでも母は歩みを緩めようとせず、私の手を握る力もだんだん強くなっていきます。そして、涙を流しながら怖い顔で私を見ていました。
「お母さん死んじゃう!」
母の行動の意味が分かった私は、必死に手を振りほどこうとしましたが敵う筈もなくずるずると引きずり込まれていきます。咄嗟に「いやだー!!」と全力で叫びました。
するとどこからか「おーい、どーしたーのー?」という牛が鳴くようなのんびりした、それでいて良く通る声が聞こえてきました。
見ると少し離れた畑で農作業をしていたらしい野良着姿のおばあさんが鍬を手にこちらの様子をじっと窺っています。
声をかけられた母は...
おばあさんと私たち三人の他には周囲に誰もいません。子供の叫び声とそれを引きずる母を見て「ただごとではない」と声を掛けて下さったのでしょう。しかも、母を刺激しないように、のんびりと。
「いいえ、なんでもありませーん」
母は涙を拭いて取り繕うと、元来た道を何事もなかったように歩き出しました。
振り返り振り返り見ると、おばあさんはこちらが見えなくなるまで私たちを見送ってくれているようでした。
母は父の暴力から逃れたくて、あの行動に出たのだと思います。それをたった一言で、私たち三人の命を救って下さったおばあさん。あの時のことを忘れた日はありません。
今生きているのはあなた様のおかげです。本当に有難うございました。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
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