PTA改革、荏田小の場合 原点回帰で「継続」選択
荏田小学校PTA主催の「荏田小学校夏まつり」が8月24日(土)、同校校庭で開催される。夏まつりは、かつて会長不在で「解散」の危機にあった同校PTAが昨年、役員を中心にわずか9人で運営し、成功させたイベント。成功の裏にあったのは、原点に立ち返り、PTA活動を持続可能なものへと見直した「改革マインド」だった。
持続可能な活動
共働き世帯の増加や家族構成の変化などによる成り手不足で、全国的にもPTA活動のあり方が問われる中、同校も会長不在で解散の危機に直面していた。2023年度は同校が山内小学校荏田分校を経て独立開校してから50周年の記念の年だったこともあり、現PTA会長の中川貴雄さんは、「名前だけでも貸してほしい」と請われ、「節目の年にPTAが解散になっては」と会長を引き受けた。
PTA会長になり、改めてPTAの仕組みを学び、他の役員らと話す中で、中川さんは「校外委員」の負担の重さが、保護者のPTA役員を引き受けたくない大きな理由の一つと考え、すぐに改革の検討に入った。
校外委員の主な役割は、小学校を中心としたスクールゾーン(以下、SZ)内で、児童らが安全に登下校するための環境づくり。登下校の見守りの旗当番を保護者に依頼したり当番表の作成などを担う。また同校では各学校に組織されるSZ対策協議会に、全保護者を代表し出席することも役割になっていた。
SZ対策協議会は、学校が主体となり保護者や自治会その他の団体で構成され、SZ内での課題について、警察や行政などと連携し、通学路の交通安全対策などについて話し合う場。同校ではこれまでSZ内での課題の聞き取りや資料の作成、配布などの運営をPTAが担っていた。
中川さんは、任意加入のPTA組織でこれらの活動は「持続可能ではない」と判断。学校や自治会にも相談し、PTAとしてSZ対策協議会への不参加を明言した。
SZ対策協議会不参加の代わりに、学校外の責任は学校ではなく全保護者にあり、「気がついた人」「必要と思った人」がその都度声をあげるべきとの原則に立ち返り、それまで同校にはなかった「学援隊」を発足する考えを他の役員に伝えた。
「学援隊」は、横浜市教育委員会が安全見守り活動を推進するために行っている事業。同校にはそれまで作られていなかったため、昨年度市教委に申請を提出、今年4月に承認を得て正式に発足した。中川さんは自らが代表に就き、PTAのOB会長に隊長に就いてもらった。
学援隊では全保護者に活動案内を配布。「できる範囲」での見守り活動として、通勤や買い物など外出時に、SZ内の変化に意識をむける「見守り活動」の協力を要請。参加は任意で、活動はスマートフォンで2次元コードを読み込むだけの簡単なものに。集まったデータは毎月の活動報告にまとめ、地域にも配布した。
また保護者に限らず、学区内を中心に企業や商店にも見守りの協力を依頼。「配達・送迎などの移動時や開店・閉店作業時などの際に気にかけて欲しい旨伝えると、企業の中にはCSR活動の一環として協力してくれるところもあった」という。協力企業は1年で約20社まで増加。市内でも企業が協力している学援隊は珍しいという。
改革の副産物
一方で、「一番重たい」校外委員の活動について、年度当初に方向性が示せたことで、「PTA活動が『楽しい』と思えるようなことをやろう」と、考えたのが夏まつりだった。6月に話をし始め、わずか9人での運営にも関わらず、8月にはキッチンカーの招致や打ち上げ花火の実施など大掛かりなまつりを成功させた。参加した保護者からは「来年もやるならPTAに入りたい」という声まで上がったという。
また夏まつりを経て、PTAという組織や運営について興味を持った児童に、授業の場で話す機会も得た。児童らからは「自分たちもボランティアに参加したい」との声が上がり、10月のハロウィーンイベントや1月のどんど焼きでは実際に児童からボランティアを募り、6年生の有志がPTAと一緒にボランティアや運営に携わった。
「PTAは大変さばかりクローズアップされがちだが、楽しいことが伝われば、持続可能な組織になる」と中川さんは語る。今年度の役員は中川さん以外全員女性。PTA改革は「『子どもたちにとって必要』と思った時の『ママたち』のバイタリティのおかげ」と感謝した。
今年の夏まつりは午後5時から。多くの模擬店やキッチンカーが出るほか、パトカーや消防車の乗車体験、打ち上げ花火も行われる。雨天決行。