渓流釣りの定番エサ「川虫」は人間が食べても美味しかった 昔から食用にしてきた地域も
川の中に棲息する昆虫「川虫」。釣りの餌として有名ですが、人が食べるのにも向いています。
長野の裏名物「ざざむし」
険しい山に囲まれ、狭い平地と過酷な環境の中で開拓された歴史がある長野県。ここでは他の地域であまり食べられていないものが食材として利用されてきましたが、昆虫類もそのひとつでしょう。
農業と養蚕業が盛んであった長野では、水田に産するイナゴ、あるいはまゆから糸を取った後に残る蚕のサナギは貴重な食材として用いられました。虫を食べると聞くとギョッとなる人も多いでしょうが、しっかりと調理された虫はまるでエビや小魚、あるいは魚の白子のような味がしてとても美味です。
そして、そんな昆虫食材のなかでも最もマイナーなものが「ざざむし」ではないでしょうか。
釣り人にはお馴染みのアイツ
ざざむしはカワゲラ、トビケラ、カゲロウなどいくつかの昆虫類の幼虫の総称となっています。これらはいずれも幼虫のあいだ「淡水中」に棲息するという変わった生態を持ち、一般的には「川虫」と呼ばれます。
川虫と聞いて反応するのはおそらく、釣り人のみなさんではないかと思います。というのも川虫は淡水魚にとって最も大事な餌であり、それゆえに淡水釣りの万能餌として珍重されるからです。
食材としてはざざむしという名前が一般的で、長野県の中央にある諏訪湖、ならびにそこから流出する天竜川で漁獲されます。そのため昆虫にもかかわらず「漁業権」が存在する、とても変わった存在です。
なぜ、食用に?
ざざむしは1匹1匹のサイズがとても小さく、また川の中の石の下にいるという特徴もあって捕獲するのはなかなか骨の折れる作業です。それなのになぜ、食用にされるのでしょうか。
ハッキリしたことは分かりませんが「大量に獲ることができる」というのはひとつの理由かと思われます。というのも当地では、ざざむしが棲息する礫を足で踏み、川の流れに浮き上がった虫たちをザルのような道具で一網打尽にするという伝統漁法が行われており、この方法を用いることで効率よく大量に捕獲することができるからです。
また、そもそも「美味であるから」というのも無視してはいけないでしょう。天竜川の冷たい水の中で育まれたざざむしはたっぷりと脂が乗り、コッテリとした味わいです。佃煮にするとご飯とよく合い、唯一無二の珍味となります。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>