Yahoo! JAPAN

【塚原あゆ子監督「ファーストキス 1ST KISS」】 45歳を巧みに演じる松村北斗さん

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は2月7日にシネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)、シネシティザート(静岡市葵区)などで上映が始まった塚原あゆ子監督「ファーストキス 1ST KISS」を題材に。松村北斗さん(島田市出身)、松たか子さんが主演。脚本は坂元裕二さん。

「ラストマイル」「グランメゾン・パリ」などの塚原監督が、「花束みたいな恋をした」「怪物」などの坂元さん脚本で映画を作る。ハズレであるはずがない。期待通りの佳作だった。

亡くなった夫と出会った時間、場所にタイムスリップする妻。妻は結婚する前の夫への愛情を再確認し、夫の事故死を回避しようとさまざま手を尽くす。果たして夫の運命を変えることができるのか。

物語は極めてシンプルだ。大切な人を亡くした喪失感と回復。どこかで聞いたことがある話のような気もする。だが、着地点は予測できない。塚原さん、坂元さんのコンビは、「足かせ」にもなり得るオーソドックスな設定をあえて持ち込んでいる。面白いものを作れる、という自負があるからこそだろう。

悲劇が出発点ではあるが、「お涙頂戴」の気配は一切ない。誰も大仰に泣いたり叫んだりしない。でも悲しみや寂しさ、悔しさはいやというほど伝わる。見ているうちに何気ない日常の幸せとは何か、について思いを巡らせてしまう。目の前のスクリーンで繰り広げられる夫婦のドラマとは別に、自分の中に別の物語が芽生えていく。

松村さん、松さんは、夫婦2人の29歳から45歳までを演じている。29歳同士の会話、29歳と45歳の会話、45歳同士の会話が、全て異なるニュアンスで表現されている。45歳の松さんがタイムスリップして29歳の松村さんと話をするが、ある時から敬語をやめて「ため口」になる。ここで世界の見え方がガラッと変わる。アクセルが踏まれ、物語のテンポが上がる。まさに坂元脚本の妙味と言えよう。

現在29歳の松村さんが45歳を演じる場面も非常に興味深い。声のトーンが少し下がり、相手を糾弾するような口調が強まる。姿勢も少し前かがみになっているだろうか。「中年くささ」を見事に演じていて驚いた。

優河さんのエンディングテーマが秀逸。空中にふわりと浮かぶような歌声は、「幸せ」のはかなさや尊さを実感させる。

(は)

<DATA>※県内の上映館。2月8日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
MOVIX清水(静岡市清水区)
シネシティザート(静岡市葵区)
藤枝シネプレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)
TOHOシネマズサンストリート浜北(浜松市浜名区)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【2025年最新】鎌倉観光で必ず食べたい!小町通り人気スポット10選

    湘南人
  2. 旧江戸川のテナガエビ釣りで11尾を手中【千葉・浦安】良型も交じりシーズン本格化

    TSURINEWS
  3. 国内で36年ぶり世界ウェルター級王座挑戦の佐々木尽に重圧?真っ暗な部屋で「寝れない」

    SPAIA
  4. 【熊本市西区】前日に予約必須!こだわりのさば寿司専門店「鯖信」

    肥後ジャーナル
  5. 42.3万回も表示されちゃったカワセミさんの〝排便シーン〟 ハンパない飛距離に「美しい」「凄いとしかw」

    Jタウンネット
  6. 猫が『しかめっ面』しているときの3つのキモチ 怖い顔だけど、必ずしも怒っているわけじゃない?

    ねこちゃんホンポ
  7. ノベザオ一本で挑む本流の遡上トラウト【長野・天竜川】

    つり人オンライン
  8. 冷えやむくみの要因に。ふくらはぎのかたさを取るための1日1分ケア【理学療法士が教える】

    毎日が発見ネット
  9. アンパンマン役・戸田恵子 やなせたかしの名言を語る  映画『それいけ!アンパンマン チャポンのヒーロー!』完成披露上映会

    動画ニュース「フィールドキャスター」
  10. メンタルが限界で号泣していたら、隣にいた猫が…『驚きの行動』に思わず涙がでると3万9000いいね「胸がギュッとした」「イケメンすぎる」

    ねこちゃんホンポ