ストレイテナー・ホリエ × wacci・橋口 × BLUE ENCOUNT田邊 それぞれの“音楽”と“人間”が交わる弾き語りライブ『go-show‐歌楽反応‐』開催記念スペシャル鼎談
ストレイテナー・ホリエアツシとwacci・橋口洋平という、音楽シーンの中ではそこまで近いフィールドにいるわけではない、でも醸し出す空気にはどこか通ずるものがありそうなふたりが、たまたま住まいが近かったことから出会い、2015年にスタートさせた弾き語りライブが『go-show』だ。
以降も小規模な会場で行われる知る人ぞ知るイベントとして回を重ねていたのだが、互いのバンドのスケジュール面やコロナ禍の影響もありしばらくご無沙汰に。そんな『go-show』がついに数年のインターバルを経て来たる2025年5月、舞台を東阪のCLUB QUATTROに移して帰ってくる。『go-show‐歌楽反応‐』と題し、すでに公演に紐づいたポッドキャスト番組もスタートするなど、これまで以上に多くの目と耳に触れる機会となりそうな要注目イベント本番へ向け、本稿では既にゲスト出演がアナウンスされているBLUE ENCONTの田邊駿一も交え、独特の「ゆるさ」を持ち味とするイベントの歴史と見どころを語り合ってもらおう。
──番組では既に話題にも出てましたが、以前の『go-show』から振り返りたく。前段階でホリエさんと橋口さんの出会いがあるわけですよね。
ホリエ:ミュージシャン同士として現場で出会ったんじゃなくたまたま近くに住んでて、共通の友人から「wacciっていうバンドのボーカルが知り合いなんですけど」って教えてもらって。僕はそのちょっと前にFm yokohamaのお昼の番組にwacciが出てたのを聴いてて、そのトークがすんごい面白かったの。なんか良いなと思って覚えてて、紹介してもらうときに「そういえばこの間ラジオで聴いたわ!」って。そこからの初対面で。
田邊:へえー!
ホリエ:すごかったよ、ラジオもめっちゃ回してた。もうドッカンドッカン。
田邊:いつだってディレクター目線ですからね。
橋口:(笑)。いやあ、でも家が近かったことでホリエさんとこうして仲良くさせてもらえるのは、僕にとってはすごくありがたかったし、幸せなことだったんで。ましてやそこからこうやってイベントもさせてもらえて。ホリエさんの弾き語りが本当に素晴らしいから、毎回楽しみなんです。
ホリエ:遡ると8年前とかなのかな。
橋口:最初に始まったのはそのくらいですね。
ホリエ:その頃はバンド同士の交わりはほぼなくて、でも近くに住んでるっていうので知り合ったから、違うフィールドから出てきた者同士で一緒に弾き語りをやったら、ファン層も全然違うからこその面白さがあるんじゃないかって。でも大々的にプロモーションもせず、イベンターも通さず、個人企画の友情出演みたいなノリで阿佐ヶ谷LOFTっていう、芸人さんがトークライブとかやるような会場で弾き語りとトークのイベントをやろうっていうことになって。
田邊:その時も回されたんですか?
橋口:回して……ないよ。回すとかじゃないですもんね、あれは。
ホリエ:うん。桟敷席みたいなのがあってね。
橋口:ステージ脇の座敷みたいな。
ホリエ:そこから歌っている人をお客さんと一緒に観ながら、たまにMCにも入っていったりするっていう。
田邊:ああ、その時からトークも一緒にざっくばらんにやろう、みたいな感じだったんですね。
ホリエ:そう。で、当時近場にいた宇宙まおちゃんも誘って、フィールドが違うシンガー同士が集まってその違いを楽しむみたいな感じで。
橋口:その後は蒼山幸子さん(元ねごと)とか関取花ちゃんとか、majikoちゃんとか、あとは紺野ぶるまさんも出てもらいましたよね。
田邊:え、お笑いの人ですよね?
ホリエ:そうそう、地元が近所だったみたいな。
田邊:その近かったら出れる方程式すごいっすね(笑)。
ホリエ:MCしてくれた芸人の石井ちゃん(元「パンダユナイテッド」の石井勇気)の紹介だったよね。そうやっていろんな人たちが出てくれて。阿佐ヶ谷LOFTってライブやってる途中でもお酒を注文できるし、歌ってる最中に最前列のお客さんが頼んだ美味しそうなものが歌ってる最中に出てきたりとか。そういうゆるさが元としてあるんで、今回のイベントもそのノリは大事にしたいなって。
田邊:いいなぁ。
橋口:今回はスタンディングですけど、これまでやってきた会場のお酒とか食べ物のシステム、ステージの上に座敷があったり、出てない人がガヤ飛ばしながら観てるのもそうだし、全体的な雰囲気がすごく良かったイベントなので。今回はQUATTROだからちょっと規模は大きくなって、お客さんもより多岐にわたると思うんですけど、あの空気感を踏襲できるところはしてけたらいいですよね。
田邊:テーマは「ゆるく」ですよね?
ホリエ:そうだね。だから、普段のそれぞれだけを知ってるお客さんがガッカリしないように、一生懸命ポッドキャストやってハードルを下げてる(笑)。
橋口:そのためだったんだ(笑)。
ホリエ:とはいえちゃんと歌いますから。
──じゃあ、当時やっていた頃は田邊さんが絡んだり観に行ったりはなかったんですね。
田邊:なかったです。ホリエさんとは(付き合いが)長いですけど、橋口さんとは本当にこの3〜4年くらい、ラジオに出させてもらっての関係で、去年になってやっとプライベートでお酒を飲ませてもらって。それで急激に距離も縮まりまして、今回のお話も来て。出会ってすぐだったら、緊張してたかもなって思うんですけど。
橋口:うん、俺もですね。
田邊:本当、物腰の柔らかさもありますし……なんて言うんでしょう、傍にいたくなる感じの人なんですよね。
橋口:その飲み会で僕が空気になってからすごく寄り添ってくれて、仲良くなって(笑)。そこからですね。
田邊:集合時間の一番最初にいらっしゃってましたもんね。で、僕が2番目。
橋口:それも恥ずいよね。
田邊:恥ずかしかったですね。本当に久々にお会いするのが──
橋口:1対1だったもんね。
田邊:橋口さんとの出会いからの系譜で、あれが一番気まずかった日ですね(笑)。橋口さんのオフってどんな感じなんやろ?って……もちろん、ラジオの時とかはスイッチ入ってらっしゃるわけで。でもやっぱり裏表がなかったから、ずっとこの自然体のままでいらっしゃるのが橋口さんの魅力やと思う。だからもう安心して喋れますよね、この2人の前では。
──弾き語りについてのそれぞれのスタイルや考え方も気になります。
ホリエ:始まりやスタンスは全然違ってて、橋口くんはもともとソロからで──
橋口:しかも路上。
ホリエ:それが今バンドでやってる。僕はバンドから入って、弾き語りを始めたのは東日本大震災後なので。
橋口:あ、そうなんですか?
ホリエ:そうなんです。最初は全然下手くそで、やり方がわかんないっていうか、バンドでのステージ上での佇まいみたいなのってあるじゃないですか。それも別に作ってるというわけじゃないんだけど、弾き語りになるとそのままじゃ伝わらないというか、和ませようとして喋りすぎてドツボにはまっていったり、結果暗くなっちゃったり、緊張をほぐそうとしてお酒飲んで酔っ払いすぎて混乱しちゃって、弾き語りできる曲…何があったっけって分からなくなったり(笑)。
田邊:基本的にやる曲を決めずにやるんですか?
ホリエ:それ以降は曲順とかもちゃんと決めるようになったけど、それを全然考えずにやってた頃もあって、歌える曲がどれだか忘れちゃった、みたいな。「シーグラス」の存在すら忘れちゃって、一回。
橋口:ええええ?
ホリエ:終わってから「あ!『シーグラス』歌ってなかった!」って(笑)。今はだいぶ自分の中で弾き語りに対する敷居は低くなって、弾き語り用の自分を作らなきゃみたいなことは考えなくなったんだけど。
田邊:ああ、最初はやっぱり弾き語り用のホリエさん、みたいな?
ホリエ:そう。それが難しかった。
橋口:今は同じなんですか? ストレイテナーと。
ホリエ:あ、ストレイテナーの時とは違うけど、普段の状態からステージに上がるまでがだいぶ自然体でいられるようになった。
田邊:僕はそこがまだできてないんですよね。
ホリエ:まだあんまりやってないもんね?
田邊:そうなんですよ。ワンマンで弾き語りはやったことあるんですけど、まさにスイッチなんですよね。「弾き語りやります……!」みたいな変な緊張感があったりしたので。だから今回は初めてこういう……逆に何をしても良いと思うんですよ、先輩方が優しく受け止めてくれるので。一番の自然体をおふたりに受け止めていただけたらと思います。
ホリエ:我々がステージ上に一緒にいるからね。それがなかったら……めちゃくちゃアウェーの弾き語り経験とかないってことでしょ?
田邊:そうですそうです。
ホリエ:アウェーの弾き語りはマジできついよ? 以前J-WAVEの『トーキョーギタージャンボリー』に出たんだけど、森山直太朗さんやハナレグミさん、竹原ピストルさんとか毎回のように出てる方々がいらっしゃる中で、全然誰も待ってないでしょ俺なんて、みたいな。でも司会のグローバーくんが「同じ世代でめちゃめちゃモテる奴です」みたいな変なフリをして、僕はスタンバイしてて遠くにいるから突っ込めないし、ステージに上がって「あ…どうも」ていう。あれは痺れたねえ。
橋口:何も知らないことはないでしょうけど(笑)。アウェーの弾き語りだと、僕は「恋だろ」っていう曲で、年齢も性別も関係ないのが恋だろ、みたいなことを偉そうに歌ってるんですけど。
ホリエ:うん。
橋口:こないだ女子高生向けのイベントに出演した時に、俺は41になるんだけど、女子高生の前で「年齢も性別も関係ないのが恋だろ」って歌うのがマジでキツかった。死ぬかと思いました。
ホリエ:(爆笑) 我に返っちゃった?
橋口:返りました。おじさん側がそれ言っちゃダメだろ!みたいな。
田邊:それはちょっとすごいっすね。いろんな重みがこう(笑)。
ホリエ:そういう時は一回、サンボマスターの山口(隆)くんを自分に降ろしてからいけば良いと思う。「関係ないのが恋だろ!!!!」って。
橋口:(笑)ギターも上げめにして。
田邊:いやあ、でもそのアウェーはちょっとすごいなぁ。ただ、確実にそうじゃないわけですからね、QUATTROは。
ホリエ:そうそう。甘やかしてもらえる。
橋口:たしかにそういうホームな雰囲気が最初からあるイベントでしたよね。
ホリエ:そうね。みんな飲んでたりもするから。
橋口:今回もそういう空気を、みんなが壇上にずっといることで作っていけたらいいですよね。
田邊:この3人だったらめっちゃ楽しいと思いますよ。
ホリエ:田邊はいつもの弾き語りって厳かになりがちなの?
田邊:僕は厳かになるのが嫌なので、途中でラジオコーナーみたいなのを作るんですよ。お客さんの席にアンケートの紙が置いてあって、お悩みと聴きたいブルエンの曲を書いてもらって。そのあとボックスから選んで「こちらの方のメッセージをお読みしましょう」みたいにやって、お悩みへの一言と一緒に曲をやるっていう。
ホリエ:あ、それもいいね。
橋口:いい!
ホリエ:ゲストからパクろうとしてる(笑)。
田邊:でも面白いと思いますよ。
──すごいレア曲とか来たら「なんだっけ?」とかなりません?
田邊:おっしゃる通りで。だから、曲名を見て「ハッ」となる曲もあったりするので。「これは……やめておきましょう」みたいなことはあります(笑)。
橋口:それぞれ1曲とか2曲とかそれでやるのはいいかもしれないね。
ホリエ:それを歌ってる人じゃない側が読んでくれるとかも。
田邊:あ、いいですね!
ホリエ:そういう、他のイベントにはない感じを盛ってくのはいいよね。お客さん満足度は大事なので。
田邊:毎回、読んだアンケートの裏にサインと一言を書いたりもするので。そういう特別感は大事にしてます。
──橋口さんは、バンドの時と弾き語りの時ってスタンスややり方にどんな違いがあります?
橋口:弾き語りは本当に自由に喋りながらやってますね。曲中にも喋ったりするし。
ホリエ:心臓は違うだろうね。路上からやってるわけだから。
橋口:バンドの方が緊張しますね。
ホリエ:だって最初から構ってもらわなくていいところから始まってるもんね。
橋口:バンドの方がよく悪くも「しっかりやらなきゃ」っていう思いで。弾き語りは自分でテンポも変えれるし、いつ止めてもいいっていう自由度があるから、違う自分を見せれるところはあるのかなと思います。
ホリエ:リズム感とかも自由だったりするから、日によって「いまはこの歌詞、このフレーズに力を込めようかな」とかできてしまうというか。自分のメンタルに寄り添えた歌を歌えるし、説得力も増す。お客さんの顔とか対バンの人たちとの相互関係も歌に乗ってくるところは醍醐味ですね。
橋口:あの、僕のジャンルからの質問なんですけど、ブルエンもストレイテナーも盛り上がるのが上手なお客さんじゃないですか。うちは広がっていってくれた曲にバラードが多いから、どうしてもバラードを歌わなきゃいけない。おふたりは歌いながら「この人たちは絶対にもっと盛り上がりたいんだろうな」っていう空気を察することってないんですか?
ホリエ:あるある。
橋口:弾き語りだとよりそうなると思うんですけど、ああいう時ってどうするんですか?
ホリエ:やっぱりバラード一辺倒にはしないようにしてるかも。最初の頃は照れがあって全然無理だったけど、リズミカルな曲だったら「クラップ!」って言って手拍子を求めたりとか。
橋口:ああ、やっぱりそういう曲があるといいんだなぁ。
田邊:それは僕もしますね。ファンキーなカッティングとか空ピックの音をチャカチャカ鳴らすくらいのアレンジは結構するようにしてますし、ブルエンはガッと持ち上げたいっていうライブのやり方なので、逆に弾き語りの時は「お客さんももうわかってるよね? 今日はそういう日じゃないから」っていうふうになりやすいのかも。
橋口:なるほど、そうかそうか。
田邊:だから真っ向からバラードやれます。
ホリエ:逆を楽しんでもらおうっていうね。
田邊:そういうことですよね。だから、おふたりのファンの方にとってのBLUE ENCOUNTって多分フェスのイケイケのセットリストのイメージだと思いますけど、「こういうバラードあったんだ」とか、そういう初めての部分とかもちゃんと伝えなければなって。ちゃんとお客さんに知ってもらう歌を歌わなきゃいけないですよね。
ホリエ:好きになってもらいたいもんね。
──では最後にあらためておひとりずつ、本番で楽しみにしてることや楽しみにしてほしいことをいただければ。
橋口:僕は本当、バンド単位ではあまり対バンができなかったりする中で、ひとりの弾き語りっていう形でこんなに素晴らしいふたりと一緒にやれるっていう、それは前の『go-show』からそうだったんですけど、そこが楽しみであり刺激的でもあり、自分の音楽人生にとってすごく良いものを得られる時間になってるので。今回はQUATTROっていう規模でそれをまたできることがすごく嬉しいですし、何より、ゆるさで包まれてるからこそ見える、その人たちの音楽の芯の部分だったりセンスが素の状態でみんなに広がっていく感じが良いなと思っているので、そこを楽しんでほしいですし、僕も楽しみたいなと思います。
田邊:この日はもう、大好きなおふたりの威を借りて歌わせていただくということで、とにかく僕は手放しで楽しみたいですし──
ホリエ:威って(笑)。威ある?俺たちに。
田邊:いやいや、威を借りるしかないじゃないですか(笑)。だし、ポッドキャストもそうですけど、この3人の喋り口を読んでもらえたら「あ、ちゃんと仲良いんだな」って分かってもらえると思いますし。
ホリエ:想像はできるだろうね。
田邊:だからお客さんは初めてブルエンを聴くかもしれないけど、そこで得るものがあったなと思ってもらうには良い歌を歌えるかにかかってるので、酒のせいにしないように……いつもホリエさんに言われるんですよ。「酒のせいじゃない、お前のせいだからな」って。
ホリエ:(笑) 酒を悪く言うな!って。
田邊:この日もちゃんと自分の責任を果たした上で、諸先輩方が歌ってる時は良い酒を飲みたいなと。で、回しのナイスMCをできたら良いなと思います。
ホリエ:ファン層もフィールドも違うバンド同士だけど、そのボーカリストが一緒に弾き語りすることで、人間同士の関係性を知ってもらって、さらに音楽の親和性を知ってもらう場にしたいと思ってこのイベントをやっていたので。それをまたできるのは本当に嬉しいし、他にはないライブの空気感を楽しみに来てほしい。そこに田邊くんという強力な助っ人が来てくれて、さらに盛り上がると思うし、『go-show』というイベントの砕けた感じが咀嚼されて、みんなにその良さが伝わればいいなと思います。
取材・文=風間大洋