「子どものやる気が感じられなくてイライラする」という保護者に知ってほしい、子どもが自らの能力を高める「成長思考」を育てる大人の声かけ
「子どものやる気が見えなくてイライラ」「やる気ないなら辞めさせたい」など、最近、子どものやる気が見えないという不満がよく聞かれますが、子どもは本当にやる気がないのでしょうか?
前編では、子どものやる気を育てるためには子どもの好奇心を育てることが大切であり、子どもを主役「センター」に捉えることの重要性についてお伝えしました。
後編では、失敗を怖がらずにチャレンジするような子どもになってもらうためには、どんな声かけをしてあげれば良いのか、スポーツメンタルトレーナーの筒井香さんにうかがいました。
(取材・文 木村芽久美)
(写真は少年サッカーのイメージです)
前編記事:「やる気が見えなくてイライラ」「やる気が見えるなら応援できるのに」という保護者に知ってほしい、子どものやる気を育てるのに大事なこと
■失敗を怖がらず、チャレンジするためには? 心理的安全性がある声かけが子どものチャレンジを促す
サッカーを始めたばかりの子どもは、いわば真っ新な状態です。そこに周りの大人が意味付けていくことで良い・悪いなども理解していくので、子どもにどのような声かけをするか、実はとても重要なことだと言えます。
子どもが楽しんで成長できるような、ポジティブな声かけによって家庭内に心理的安全性が生まれ、子どもがチャレンジしやすくなると筒井さんは言います。
「枠狙わないと(ダメだよ)」「それは決めないと!」など、よくコーチや保護者が叫んでいますが、このような声かけの場合、失敗したくないという意識が先にきてしまうので、最悪シュートを打たないという選択肢を取るようになったり、バックパスばかりで消極的なプレーになってしまいがちです。
そうするとまた怒られて、さらに消極的になるという悪循環が起こり、成長思考が育たなくなると筒井さんは懸念を示します。
■子どもが自らの能力を高める「成長思考」を育てる大人の声かけとは?
(写真は少年サッカーのイメージです)
自分の才能や能力は、経験や努力によって向上できる、つまり「やればできる!」というポジティブな考え方は、「成長思考(グロースマインドセット)」と呼ばれています。
成長思考では、難しい問題にチャレンジしたい、そちらの方が楽しいと感じると言います。
成長思考に関しては保護者や周囲の大人の声かけで変わるということが研究で明らかにされていて、能力を褒めるよりも成長について褒めた方が、難しい課題に取り組もうとする意欲が育つと言われています。
能力ばかりを褒めた場合、次に難しい課題に取り組んだ時に評価が下がることを恐れてしまい、取り組まなくなってしまうと言います。こちらは「固定思考(フィックスマインドセット)」と呼ばれ、守りに入ってしまう考え方なのだそうです。
サッカーで言うと、例えばテクニックについて褒めるのだとしても、「前よりも○○が良くなってるね」など、前回と比較して成長ポイントを伝えるといいのだそうです。
「ただし、誰かとの比較は良くないです」と筒井さんは言います。
また、うまくいかなかった時でも頑張っているところに目を向けられると良いのだそうです。勝った試合の時に褒めるのはわかりやすいですが、負けた試合の時でも「積極的にゴールを狙いにいったよね」など、良かったところを伝えてあげると、チャレンジすることを怖がらなくなり、好循環が生まれやすくなるとと筒井さんは言います。
「子どもが成長思考になるためには、保護者やコーチは子どもの成長を促すような声かけをすることが大事です」
■褒めて育てるのは大事、そのうえで何が良かったのか理由まで考えよう
(写真は少年サッカーのイメージです)
一般的に褒めて育てるのが良いと言われていますが、「自分がなぜ褒められたのか、何が良かったのかを一緒に考えるというところまでできた方が良い」と筒井さんは言います。
例えば「今日こうやってコーチに褒められたよ」と言う子どもに対して、親は「すごいね」「良かったね」と言うだけじゃなくて、「なんでコーチに褒められたと思う?」など、理由についても一緒に考えてみると良いのだそうです。
「この1週間頑張って練習してきたことを試そうとしたから、褒めてもらえたんだ」など、本人が理由を自分の言葉で語るところまでできれば、褒めて育てることはより一層効果的になるのだと言います。
また指導者側からするとジレンマもあるそうで、せっかく褒めたのに、サッカーの帰りの車や自宅で、子どもが保護者に怒られ、成長を促すためのコーチングが台無しになってしまうことがあるのだと言います。
一番影響力があるのは親であることを保護者は自覚し、基本的にコーチングは指導者に任せ、子どもが主役だと意識した声かけを心がけるようにしましょう。
■必ずしもポジティブな声かけじゃなくていい。感情に寄り添った声かけを
試合前、緊張している子どもが前向きになるように、親心で「緊張しなくていいよ」と励ますつもりでの声かけ......。実はこれでは緊張している子どもを否定してしまう声かけになってしまう可能性があるのだと筒井さんは指摘します。
子どもにとって緊張している理由があるので、その気持ちにまずは寄り添うことが大事なのだそうです。
ネガティブをポジティブに変えるというよりも、ネガティブなこともポジティブに受け入れるマインドになると良いのだと言います。
例えば「イライラ」という感情についても、イライラしてしまうのがダメなのではなく、そうなる自分というのも自分らしさだし、そこには思いもあるので、イライラの感情をなくしてポジティブになろうとするのではなく、イライラしている自分を認めて、受け入れて前に進むことが大切なのです。
■子どもがサッカーを楽しんでいるかが重要。子どものサッカーが受験化している背景
子どもがサッカーで伸び伸びとプレーできない背景に、サッカーが受験化されていて、子どもを受験のブランド校に入れるような感覚で有名クラブや有名校に入れることがステータスになっている保護者がいることもあるようです。
その場合、親の承認欲求を満たすため、いわば子どもを道具化してしまっていて、健全にスポーツ活動をする環境とはいえません。
また親が、マルチアイデンティティであることがとても大切なのだと言います。
お母さんが『母親』であるというアイデンティティのみに偏ってしまうと、例えば、子どもがチームでトップのカテゴリーに行ったら成功で、それを支えた自分は成功者である、というような「母親としての成功が、全て自分の価値」とする捉え方をしてしまう危険性があるのだそうです。
受験のように意識してしまうと、プレーでの失敗への親の捉え方も変わってきてしまうかもしれません。
「スポーツを通じた心身の成長というところを最上位の目標・目的に置いてもらえたら、失敗の捉え方も変わってくると思います」と筒井さんは言います。
■家庭は安全地帯であって欲しい
筒井さんが今まで、トップアスリートに親がどんな関わり方をしていたか聞いたところ「あまり勝敗に関心がない感じでいてくれたのが良かった」という声が多かったのだそうです。
親が自分事のように子どものスポーツに入り込みすぎ、勝負を気にしすぎてしまうのは、子どもにとっては辛いのです。
「家庭は試合に勝っても負けても子どもにとって、心が休まる、心理的に安全な場所であって欲しい」と筒井さんは言います。
競技者は外では評価にさらされている環境にあるので、家ではもちろん評価されたくないですし、外で頑張るためにも、無条件に家庭が安全地帯であるということが大切なのです。
また筒井さんは「自分が関わっている選手の中でも、伸びる選手は共通して好奇心が強いです」と言います。
目標達成に向けてやり抜いていくには、やはりどれだけ好奇心を持てるかが重要です。
子どものやる気を引き出すために、親も指導者も子どもの好奇心を育てることを大切に考えて、子どもの興味をよく観察し、興味を深掘りしていけるような環境づくりに取り組みましょう。
筒井香(つつい・かおり)
株式会社BorderLeSS代表取締役 博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士
大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はジュニア選手からプロ選手、オリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、指導者やスポーツを頑張る保護者の学び舎「大人のメントレコミュニティ」を運営し、子どもの主体性を育む大人の在り方や、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。2023年12月書籍「シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-」を刊行。
株式会社BorderLeSS
https://www.borderless-japan2020.com/
著書:シン・ポジティブ思考-しなやかなメンタルのトリセツづくり-