Yahoo! JAPAN

地域密着型金融のバージョンアップ

Frontier

地域金融機関が求められるサービスは多岐に亘るが、日々現場で顧客と向き合うからこそ実態も把握でき、より具体化した課題解決に繋がると言える。本稿では、地域に密着した金融機関ならではの進化について、変遷を踏まえ解説する。

金融の枠を超えたビジネスの多様化

2005年の金融庁による「地域密着型金融の機能強化に関するアクションプログラム」が実施されてから今年でちょうど20年となる。この間、事業性評価に基づく融資の推進における知見の蓄積などをベースとして、2021年の銀行法改正による業務範囲規制の緩和により、多様な非金融ビジネスの展開が行われるようになった。これらの動きは、地域密着型金融から発展し、広く地域の課題の解決を支援することで収益化を図るというビジネスモデルへと進化したものと捉えている。

以下、これまでの地域金融機関の取り組みを振り返りながら、地域の課題の解決による収益化を図っていく上でのポイントを解説する。

地域密着型金融の進化

地域密着型金融とは、「金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデル」(金融審議会金融分科会第二部会報告「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」)とされた。当時は不良債権処理という課題に対応する中で、中小企業など地域の事業者に対する円滑な資金供給を行うことを重要な施策として推進され、2011年の金融庁の監督指針改正により地域密着型金融をビジネスモデルとして確立するに至った。

その後、2014年に金融庁より「事業性評価に基づく融資等」が示される。「事業性評価に基づく融資等」とは「銀行等が財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、事業の内容、成長可能性を適切に評価し、融資や助言を行うこと」(金融庁)と定義されているが、その目的は、融資による事業者の理解を出発点とし、本業支援などを通じて顧客の課題解決を図っていくことにあり、地域金融機関の現場における事業者を見る目の向上に重点が置かれていた。

こうした中、2016年に導入された日銀のマイナス金利政策や金融機関同士の競争激化などにより貸出業務での収益確保が難しくなっていることを背景に、地域金融機関では「役務取引等収益」への期待が高まった。事業者関連ではシンジケートローンやコベナンツローンなどのファイナンス業務、M&Aなどのアドバイザリー業務、外部専門業者の紹介を行うビジネスマッチング業務などが注目された。地域金融機関において、役務取引等収益の増強は中期経営計画での主要施策の一つとして重要な位置を占めることになったが、こうした動きの出発点として事業性評価が欠かせない。地域金融機関は事業性評価の取り組みを起点として、事業者に対する課題解決をビジネスレベルまで引き上げ、各種手数料などの獲得まで視野に入れた業務の高度化(事業性評価のマネタイズ化)を図ろうとする動きに向かった。

一方、人口や事業者の減少、その影響を受けての地域経済の縮小が止まらず、地域の社会経済の課題解決への貢献が求められており、地域金融機関は重要な役割を果たしていくことが一層期待されるようになった。地域金融機関においても「地域の課題は地域で解決する」という思いがある中、2021年の銀行法改正による業務範囲規制の緩和により、こうした事業性評価のマネタイズ化の動きを土台として、多様な非金融ビジネスの展開が行われるようになった。

地域の課題の実態把握

地域の課題の実態把握では、本部の専門部署(以下、地域金融機関のソリューション提供を行う子会社を含む)と営業店で役割が変わる。営業店は顧客である事業者との緊密な関係が強みであり、事業性評価をベースに事業者の課題の実態把握を行い、本部の専門部署にトスアップをする。ミクロでのアプローチである。一方、本部の専門部署はテーマでの切り口で課題の実態把握を行う。経営コンサルティング、DX・IT、SDGs、事業承継・M&A、人材紹介、海外取引など非金融のソリューションを軸に潜在的な顧客ニーズを探る。マクロでのアプローチである。

地域の課題の実態把握を進めていくには、営業店と本部専門部署のそれぞれの特徴を意識しながら役割分担を明確にして両輪で動くことが望ましい。営業店はオーナー経営者など顧客の特徴を踏まえた対話は得意であるが、課題のキーワードは聞けたとしても真のニーズに迫る深い対話は概して難しい。

出所:筆者作成

図表は営業店でよくみられる課題の例である。①時間的制約や情報が集積されていないことなどが要因で思考の深度が浅く、顧客理解の不足により顧客ニーズとギャップが発生していること、②金融機関保有の情報の加工力や提案資料の作成ノウハウに欠け、刺さるトークや提案ができないこと、③複雑なソリューションの提案を避け、より簡単で楽なソリューションの提案に偏る傾向にあること、④収益目標にコミットするため、短期収益獲得を優先する中、長期リレーションの構築や種まきに対する評価がなく、営業インセンティブが働かないこと、の4つの課題が見られ、トスアップの質の向上が必要となっている。

このような営業店の課題を解消していくために、本部専門部署は営業店と緊密にコミュニケーションを図りながら現場に下りて一緒に顧客課題の的確な把握に努めるべきである。また、業績考課等において短期的な視点に陥りがちな営業店に対して、顧客のニーズを起点に中長期の視点で対応することで顧客に安心感や信頼感を与えることも有効である。こうした動きを継続することにより、営業エリアにおいて地域の潜在的な顧客ニーズの理解を深めることで、多様な非金融ビジネスの案件材料の厚みが増してきて、潜在的な案件材料の時間的分散による収益化のポートフォリオが構築される。

本部専門部署の競争力強化の必要性

地域金融機関において、事業性評価のマネタイズ化の動きを背景として、これまで地域の抱える課題の多様化に合わせて支援メニューを拡充してきたが、本部専門部署では、例えば、次の課題が聞かれる。

・支援メニューを揃えたが、本部人材の不足により支援メニューを複数掛け持ちして担当しており、また定期的な担当者の異動もあり、ノウハウが溜まらない。
・地場中核企業に対してソリューションの提供を行いたいが、顧客の期待値が高く、メガバンクとの競争もあり、内製化での対応では手数料を払ってもらえない。(外部の専門業者と比べて明らかに品質に差がある。)
・支援メニュー毎に取り扱いの開始時期が違うこともあり、提供価値にばらつきがある。例えば、M&Aは外部専門業者と変わらない提供価値を行えるが、DXは業務の見える化を行うレベルでシステムを活用した戦略的な業務改革のレベルにまで至っていない。

将来的な収益化を意識した場合、地域金融機関として地理的優位性はあるものの、中途半端な経営資源の投下、競合対比で提供サービスの優位性が乏しい、などの状況では収益化は難しい。戦略とは目的を達成するために「やること」と「やらないこと」を決断することである。究極には「捨てる」ことが戦略と言える。金融機関の行動様式は基本的に「足し算思考」であり、現状に対して、何かを加える、追加しようとする傾向が強いが、地域金融機関の経営資源の質と量に応じて、地域にとって優先順位が高く、かつ収益化できる課題に対して、本部専門部署も質の高い人材の工数を投入していくことが必要となる。

なお、地域金融機関は、大手金融機関、コンサルティング会社、事業会社などに外部出向を行い、質の高い人材を育成している。これらの出向経験のある人材に現場での経験を一層積ませることで顧客への提供価値を高めている動きは見逃せないが、年次を踏まえた継続的な育成が出来るかが今後の鍵となる。

地域金融機関にも勝機あり

地域金融機関の支援が必要な顧客は「何らかのゴールを目指している事業者や個人」である。例えば、事業者であれば、規模拡大を目指して成長を志向するのか、業歴の長いファミリービジネスのように長期的に持続可能な経営を目指すのか、ゴールによって支援メニューも変わってくる。特に、規模拡大を目指して成長を志向する事業者のほうが、増加運転資金や設備資金、エクイティ投資など資金面の支援に加えて、販路拡大支援、海外取引支援、M&A、人材紹介、経営管理体制構築支援など、多くの非金融の支援メニューが必要となり、収益機会も多い。一方、こうした事業者には、成長に伴って、M&A仲介会社やREファンドなど異業種を含む様々な競合企業が自社の優位性を活かしてアプローチを行い、地域金融機関の顧客を奪っていく。

地域金融機関の強みは、釈迦に説法であるが、これまで築いた地域でのブランド(信用力)、地元から逃げないという地域密着の安心感、地元に貢献したいという熱い思いを持った役職員の存在、地域の事業者や個人との繋がり(情報のハブ機能)、などである。様々な競争相手に対して、これらの強みは規模拡大を目指して成長を志向する事業者には必ずしも優位性があるものとは言えないが、長期的に持続可能な経営を目指す事業者に対しては優位性があるのは明らかである。まずは長期的に持続可能な経営を目指す事業者の最大のニーズが何かを考え、それに対する支援を効率的に行うことが競争優位を築くことになり、収益化への対応として優先されるものと考える。

また、規模拡大を目指して成長を志向する事業者に対しては、様々な外部専門家とのエコシステムを構築し、地域の事業者や個人との繋がり(情報のハブ機能)を活かして、様々な競争相手と対峙していくことが求められる。前述において営業店のトスアップの質の向上に触れたが、地域金融機関の付加価値の源泉は営業店の現場力にある。本部専門部署との十分な連携を図りながら、真のニーズに迫る深い対話を行い、その課題を解決することを繰り返すことにより信頼を得て、事業者の真のパートナーとして課題解決を託されるようになる。この動きは戦略上も差別化の要素の一つとなる。

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 後藤 尊志

おすすめの記事

新着記事

  1. あのビッチ天使たちが帰って来る! 小笠原亜里沙さん、伊瀬茉莉也さん、吉野裕行さん、新キャストの榎木淳弥さん、上村祐翔さんらが登壇し、新情報を続々解禁!『New PANTY & STOCKING with GARTERBELT』ステージレポート【AJ2025】

    アニメイトタイムズ
  2. ハッカ油スプレーだけじゃない!五感で楽しむ「北見ハッカ通商」のお土産5選(北見市)

    北海道Likers
  3. その名は「犬吠崖っぷちライン」 銚電が路線愛称名(千葉県銚子市)

    鉄道チャンネル
  4. 新感覚の限定スイーツも!一度は行っておきたい「ハッカの聖地」(北見市)

    北海道Likers
  5. 【大阪/京阪シティモール】春のリニューアルで新店&移転・改装9店舗が順次オープン!

    anna(アンナ)
  6. お皿も自分で選べる!? トキメキたっぷりの「季節のタルト」【京都市上京区】

    きょうとくらす
  7. 『運動神経が悪い猫』によく見られる行動3選 気をつけてあげるべき注意点も

    ねこちゃんホンポ
  8. <Popteen&Cuugal×ONE AND ONLY ポップキューフェス 2025>第2弾に、つばきファクトリー​、いぎなり東北産​、fav me​​

    Pop’n’Roll
  9. 女王蜂、新曲「強火」のアーティストビジュアル・期間生産限定盤ジャケット・CD特典情報が解禁

    SPICE
  10. 2025年春のおすすめアイテム!体型拾わない「優秀トップス」5選

    4yuuu