漁師とアートが異色のコラボ!琵琶湖の魅力を伝える『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』
【滋賀をみんなの美術館に】
いつもぼんやり眺めていた琵琶湖。
小さな漁船で沖に出たら、そこは別世界でした。
しぶきをあげる波、刻々と表情を変える湖面。
伝統漁業が息づき、人と生き物がともに生きる、
多様で豊かな、琵琶湖特有の姿がそこにはありました。
その琵琶湖の奥深い魅力をアートで表現し、
発信するプロジェクトがいま、進行中です!
滋賀県外のアーティスト4名がいま、
琵琶湖に最大3ヶ月間の滞在して、
新たな作品づくりに挑んでいます。
漁師とアーティストの異色のコラボ。
さあ、どんな作品が生まれるでしょう!
9月22日に開始し、滋賀県大津市の和邇や瀬田、野洲市など、
県内各地で行われた『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』の
様子をご紹介します!
琵琶湖で初めての漁体験!
今年の『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』には、
刺繍アーティストのPom Zyquitaさん、
画家の植田陽貴さん、
油画、立体作家の犬人のにさん、
劇作家・N₂さん、
とジャンルも作家歴もさまざまな4名が参加。
レジデンスの最初のプログラムとして
琵琶湖の漁体験に出かけました。
もちろん全員が初めて体験です。
和邇漁港(大津市)から出航!
この日は波風が強く、大きく揺れる船。
予想以上に激しい琵琶湖に驚きの声があがりました。
少し沖に行くと見えてきた、
琵琶湖の中にいくつも立ち並ぶ、無数の柱。
こちら、じつは漁業の仕掛けなんです。
矢印型に並べられた柱に漁網が取り付けられており、
魚の習性を利用して自然と、
矢印の「端」部分の網の中に魚が集まるという仕組み。
琵琶湖で1000年以上前から続いてきた伝統漁法で、
「エリ漁」と呼ばれています。
ただ、この日は「エリ漁」の禁漁期間。
この時期、漁師は「エリ」の修繕に追われます。
漁師の駒井健也さんの指導の下、
レジデンス参加者も挑戦します!
波や風を受けて倒れてしまった柱を、
ロープでしばってまっすぐに。
ボーイスカウトなどの経験から、
初挑戦でもすんなりできたという参加者も。
漁師顔負けの腕前に船内が沸き立ちました。
「エリ」の修繕に続いては、竹筒漁です。
比較的浅い湖底に竹筒を沈めて、
入ってきたウナギなどを狙う漁法。
1本ずつ引き上げて中を確認いますが、
この日は悪天候で、残念ながら
ウナギは上がらず。
魚を獲ることの大変さを、
身をもって知った瞬間でした。
「芸術準備室ハイセン」が制作拠点
3ヶ月の製作期間中、参加者は、
和邇漁港からほど近い場所にある、
「芸術準備室ハイセン」という場所を制作拠点に。
かつて保養所だった施設を改装し、
誰でも気軽に使える創作施設として運営されていて、
県内外のさまざまな創作活動を支えています。
「芸術準備室ハイセン」が制作拠点となるのは今年が初めて。
作業に没頭できる理想的な環境が整っています!
初日の最後は、県内各地から集まった
琵琶湖の漁師や、農家を交えて交流会。
同じ琵琶湖でも、地域によって獲れるものが異なり、
琵琶湖の有人島・沖島には独特なスタイルがあったりと、
漁師の姿は実に多種多様。
この日、琵琶湖の東、西、南、北、沖島の漁師が揃い、
琵琶湖漁業の奥深さを知る、またとない機会となりました。
琵琶湖の南部で漁体験
レジデンス2日目は場所を変えて、
琵琶湖の南部、大津市瀬田で漁体験です。
船上で日の出を迎え、
漁体験スタートです。
瀬田ではセタシジミという、
もともと琵琶湖にしかない貝の固有種が名産。
しぐれ煮やしじみ飯などに使われ、
滋賀の食文化になくてはならない存在です。
しじみ漁も地域や漁師によってさまざまですが、
この日体験したのは、伝統漁法のしじみ掻き。
小さな網がついた長い竹竿で湖底を掻いて、
セタシジミを狙う漁法です。
この日、漁船は琵琶湖の南部を広く移動して、
最南端の瀬田川洗堰まで船を近づけました。
瀬田川洗堰は、琵琶湖の水のただ一つの出口。
琵琶湖とつながる川のうち、
瀬田川以外の川はすべて、琵琶湖に注いでいます。
そんな独特な水の流れも、目の前で体感。
近づきすぎは厳禁ですが、
琵琶湖の水が京都や大阪、神戸の水道水になる
現場を確かめました。
この日、昼食は『ビワコドーターズ』で。
滋賀県野洲市で3代にわたって続く佃煮屋で、
琵琶湖で獲れた湖魚の美味しさを伝える、
さまざまな新しい商品づくりに取り組んでいます。
参加者は、湖魚をふんだんに使った、
「びわ湖の弁当」を味わいました。
琵琶湖を魅力を伝えたい
『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』を企画しているのは、
琵琶湖の漁師・駒井健也さん(中央)と、
アーテイストの松元悠さん(左から2人目)、武雄文子さん(右から2人目)。
過去にアーティストとして参加した
下村栞由さん(左端)、仲西えりさん(右端)、吉田透子さんも、
スタッフとして企画を支えています。
多様で豊かな琵琶湖の姿を知ってほしいと、
漁体験や出前授業などの活動を続ける駒井さんと、
琵琶湖の漁をテーマに作品を作りたいと、
考えていたアーテイスト・松元悠さんとの出会いが、
レジデンスが始まったきっかけです。
アーテイストの武雄さんは、
初めて琵琶湖の漁を体験し、
湖魚を食べた時の感動を、
今も鮮明に覚えていると言います。
「湖岸からは美しく見えていたエリ漁の仕掛けが、
実際に船で近くに寄ってみると、
波風にさらされて網などはボロボロで。
琵琶湖の自然の脅威を感じる生々しさがありました。
それまでは美味しくないと思っていた湖魚が
意外にもすごく美味しいのも発見でした」。
滋賀の生活や文化につながっている漁業に触れながら、
湖岸からとは違う世界を見ることができるのが、
レジデンスの魅力だと、武雄さんは強調します。
「私が発見した滋賀や琵琶湖の面白さを他の人にも伝えたい。
それがアートならできるんじゃないかと思ってます」。
駒井さんは言います。
「漁業者以外で、これだけ琵琶湖や魚のことを、
熱く語って、魅力を伝えていこうという人が
増えていることがうれしいですね。
芸術に限らず、それぞれの得意分野で、
『琵琶湖ってこんなに多様で豊かなんだよ』って
伝えていきたいという人が、さらに増えたらいいな、
と思っています」。
『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』の発表を地域で
(写真は昨年)
今回のレジデンスで生まれた作品は、
来年1月21日(火)~2月2日(日)に滋賀県立美術館(大津市)
のラボ、ポップアップギャラリー展示されます。
展示期間中にはワークショップや、
漁師と作家によるトークセッションも予定されています。
県立美術館での展示は昨年度も行われていて、
6日間で約150人が来場。
今年も大注目です!
また来たる11月3日には、
大津市北部の蓬莱(ほうらい)駅近くで開かれる
「HOURAIマルシェ」に、
今年参加のアーティストの作品(中間発表)と、
昨年の完成作品が展示されます!
(荒天時は中止、内容の変更があります。
詳細は公式Instagramで)
作家も参加して、作品解説や意見交換を行う、
ギャラリーツアーのような取り組みも予定。
湖魚をモチーフにした陶器の絵付け
ワークショップなども企画されています。
(監修art fun lab Apollon)
駒井さんは漁師として「HOURAIマルシェ」に出店も重ねてきました。
「地元の漁業や、そこで感じたことから生まれた作品だからこそ、
地元の人にも知ってもらいたいと思ったんです。
マルシェに来る人たちにもアート作品を通じて
『琵琶湖にこんな風景あったんや』
とか気付いてもらえたらいいな、と思っています」。
地域密着のマルシェならではの交流が生まれるのではと、
準備を進める駒井さんの声が弾みます。
回を重ねるごとに幅も、勢いも増す、
『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』。
その中心を担う、実行委員の原動力はいたってシンプルです。
「琵琶湖の魅力を伝える仲間を増やしたい」。
情熱は人から人へ伝わって、
どんどん広がっています。
琵琶湖で生まれた作品に会いに来てくださいね。
(写真提供:BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス 取材・文:川島圭)
『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』の展示
HOURAIマルシェ 2024年11月3日(日)9:00~13:00 ※荒天時は中止 公式Instagram:https://www.instagram.com/hourai.marche/ 滋賀県立美術館 2025年1月21日(火)~2月2日(日) ワークショップ:1月26日(日)、トークセッション:2月2日(日) BIWAKOアーティスト・イン・レジデンスInstagram https://www.instagram.com/biwako.artist_in_residence/profilecard/?igsh=bnc3dGI4ZHRoZThs
『滋賀をみんなの美術館に』プロジェクトは「しがトコ」が企画・取材を担当し制作しています。この記事は、滋賀県公式のポータルサイト『滋賀をみんなの美術館に』でも公開されています。
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