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「算数」「国語」がない時間割! 教科横断型の「プロジェクト」で小学生が学ぶ意味を実感する理由

コクリコ

教科の枠にとらわれない「プロジェクト」型授業を実践する、茅ヶ崎市立香川小学校山田剛輔先生の連載第1回。生活に直結したテーマで教科の内容を学ぶプロジェクトの意義、子どもたちが意欲的に取り組む様子、授業の全体像などについてうかがいます。

「遊ぶように学ぶ」を実践したら1年生の学ぶ意欲が爆増! 公立小学校・山田先生の取り組み

1時間目は算数、2時間目は国語。子どもたちは黙って先生の話を聞く。

こうした授業に疑問を持ち、教科にとらわれず、子どもたちと一緒に授業や時間割りをつくる公立小学校の先生がいます。神奈川県茅ヶ崎市立香川小学校の山田剛輔先生です。

山田先生の授業の中心は、教科横断型の「プロジェクト」と呼ばれる活動。子どもの生活に直結するテーマで、行動しながら学びます。

子どもとともにリアルな学びをデザインする、山田先生の実践を取材しました。

「国語」「算数」がない時間割り

山田先生が担任している4年3組の、とある週の時間割り。

時間割りにあるはずの教科名がありません。  写真提供:山田剛輔氏

一体どんな授業が行われている?

リアルな生活にひもづく「プロジェクト」

時間割りには登場しなかった国語や算数ですが、当然これらの内容を学習しないわけではありません。

山田先生の授業は、「プロジェクト」と呼ばれる活動に教科を組み込み、その中で学びが展開されていくのが大きな特徴です。

時間割りに書かれていた「先生紹介」も、春に行ったプロジェクトの一つ。4年生の国語の単元、「聞き取りメモのくふう」がベースになっています。プロジェクトは、こんなやりとりからスタートしました。

山田先生:今日は、みんなに話したいことがある人がいるんだ、教室に呼ぶね。
(ここで校長先生が教室に入る。子どもたちからは驚きの声)

校長先生:今年度も香川小学校には、たくさん新しい先生たちが来たよね。でも、まだどんな先生か知らない子が多いから、4年3組のみんなが学校のみんなに紹介してくれないかな?

校長先生から直々に依頼された子どもたち。山田先生が「どうする? やってみる?」と尋ねると、子どもたちは「やる~!」と興奮気味に答えました。異動してきた先生は何人いるのか、どんな名前だったのかなど、すでに知っている情報を言い合い、早速、準備に取りかかりました。

その後、子どもたちはグループに分かれて紹介する先生を決め、質問項目を考えることに。ここで初めて、国語の教科書が登場します。山田先生が声をかけ、話を聞き取る際に気をつけること、メモのポイントなどをみんなで学びます。そして、新任の先生にアポイントを取り、休み時間などに話を聞きに行きました。

新任の先生にインタビューする子どもたち。  写真提供:山田剛輔氏

山田先生は、「プロジェクト」を行う理由を次のように話します。

授業を『勉強のための勉強』にしたくないんです。

『1時間目は国語です。今日はメモの取り方を学習します。教科書を開いて』という進め方では、子どもたちが真剣になるのは難しいと思います。学ぶ理由や必然性がありませんし、学んだことが何かに影響した、誰かの役に立ったと感じられる機会もありません。

でも、『先生紹介』のように具体的な状況の中であれば、何のために学ぶかが明確です。子どもたちは自然と主体的になり、自分たちでどんどん学習を進めていきます。実際にインタビューしているときは、すごく楽しそうでした」(山田先生)

プロジェクトはその後も続きます。子どもたちのアイデアでインタビューした内容をポスターにまとめ、さらには校内放送を使って紹介することに。

放送室にて「先生紹介」をお届け中。  写真提供:山田剛輔氏

実施したあとは取り上げた先生からお礼を言われたり、ポスター見たよ、放送聞いたよと声をかけてもらったりしました。こうした周囲の反応も、子どもにとってプラスになると山田先生は語ります。

「リアルな生活と結びついているからこそ、自分たちが取り組んだ活動で喜んでくれた人がいる、と実感できます。活動を終えた子どもたちは、とても充実した表情を浮かべていました。

こうした経験が『学んでよかった』という気持ちを生み、子どもたちの学習意欲につながっていきます」(山田先生)

先生紹介のポスターは、職員室の前に掲示されました。  写真:川崎ちづる

学習内容を網羅できる?

山田先生のクラスは、常に複数のプロジェクトが動いています。「地球温暖化」「ルワンダ」「香川商店街」など学校外で活動するものも多く、それぞれに国語や算数、総合的な学習の時間(以下、総合学習)、道徳といった教科学習が含まれています。

具体的なテーマを設定し、子どもたちが自ら考え行動する「プロジェクト」。まるで、体験学習を重視するオルタナティブスクールや私立小学校のようです。

「地球温暖化プロジェクト」では、校内に新しい畑をつくりました。算数や社会、総合学習の内容が含まれています。  写真提供:山田剛輔氏

しかし、プロジェクトは通常の教科学習よりも時間がかかるように見えます。各学年の学習指導要領の教科内容を、子どもたちはすべて学べるのでしょうか。

「『先生紹介』では、国語に加えて総合学習も組み込んで、ポスターづくりや校内放送の準備の時間を確保しました。また、質問項目に先生の出身地を入れ、社会の都道府県の学習の導入にもあてています。一つのプロジェクトにさまざまな教科の要素が含まれるよう、工夫していますね。

もちろん、学習指導要領上で扱うべき内容は、すべて扱っています。

あとは、僕が説明する部分は要点を絞ることで、子どもたちが自ら活動する時間を多くしています。意外かもしれませんが、教科独立型の授業よりもスリムになることで、効率化することができます」(山田先生)

プロジェクトとそれ以外の授業を効果的に実施するため、山田先生は時間割りを毎週子どもたちと一緒につくっています。プロジェクトの進み具合、必要な時間などを月曜日の朝に話し合い、その週の時間割りを決めています。

先生が主導しない「プロジェクト」

多いときは、8個以上のプロジェクトが動いているという山田先生のクラス。どのように計画・進行しているのかを尋ねると、「実は、あまりきっちりした計画は立てていなくて。そもそも、プロジェクト型の授業は計画どおりに進めることが難しいんです」と話します。

「プロジェクトを始めるときは、これまでの経験を踏まえて、大きな見通しは持っておきます。

でも実践段階になると、子どもたちから想像もしていないアイデアや提案がされることも多いんです。人との出会いで学びが広がっていくことも、たくさん経験しました。それらを大切にしながら、その時々で学習の詳細を考えています」(山田先生)

教師主導で計画しすぎてしまうことのデメリットも、山田先生は感じています。

「少しでも『先生が考えたことをやらされている』という考えが頭をよぎると、子どもたちのモチベーションは一気に低下します。

だからできるだけ、僕が前もって準備や連絡をしないようにしています。最初の入り口も、『こんなプロジェクトやってみない?』という提案であって、勝手に決めることはありません」(山田先生)

学校外の方にアポイントを取るときも、子どもたち自身が電話で依頼します。  写真:川崎ちづる

山田先生がプロジェクトに取り組もうと思った理由の一つに、「教師が与えたことに子どもが黙って従う」という授業への疑問があります。その一方で、子どもがやりたいことを扱うだけでは、その範囲は狭く限定的になってしまいます。

子どもの意見に耳を傾けながら、教師からも学習内容を提案し、一緒に学びをつくっていく。山田先生が実践するプロジェクトの核となる考え方です。

教科学習も「一方的に教えない」

「プロジェクト」を中心に据える山田先生の授業ですが、すべての内容を教科横断型で行っているわけではありません。国語の読み物や算数の計算など、プロジェクトに組み込むことが難しいものは、単独で授業をしています。

そこで登場するのが、時間割り写真にも登場した「?」の時間です。

「時間割りを『?』にしておくことで、子どもたちは『この時間は何をするんだろう』と興味を持ちます。単純なことですが、『算数』や『国語』としておくよりも、ワクワクした気持ちで学習に入ることができるんです」(山田先生)

工夫しているのは授業の導入だけではありません。先生が一方的に「教える」のではなく、子ども同士が対話をしながら学び合えるようにしています。

取材に訪れた日、算数の計算方法をおさらいしたあと、各自がプリントに取り組んでいました。少しして、できた子が「わからない人いますか」といって教室をまわり始めると、「は~い」「こっちに来て」と次々に手が上がりました。

あっという間に小さなグループがいくつもでき、「えっ、なんでそうなるの? まだ理解できない」など、子ども同士の真剣なやり取りが聞こえてきます。

教え合って問題を解く子どもたち。  写真:川崎ちづる

「早く解けた子も自分ができたら終わりではなく、友だちに教えることでより理解が深まります。教えてもらう子も、友だちだと気軽に質問できる部分もありますよね。

教室は多少ザワザワすることもありますが、みんなが協力しながら互いの学びを支えている、充実した時間だと思っています」(山田先生)

プロジェクト、教科学習、どちらであっても「やってみたい」「おもしろそう」を大切にしながら、ともに学びをつくる。それが、子どもたちが前のめりになる授業の「キモ」といえます。

第2回は、山田先生が「プロジェクト」を始めたきっかけ、開始当初の様子などをうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。

山田先生の共著『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版)には、プロジェクトの実践内容(2022年度1年生クラス)が詳しく紹介されています。

取材・文 川崎ちづる

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