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【静岡産のユニークなウイスキー】南アルプスの蒸留所と大学の研究機関がタッグ!野生酵母を使ったプロジェクトが進行中。うんちくを知れば酒は楽しい⁉

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡産のユニークなウイスキー」。先生役は静岡新聞論説委員の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年7月31日放送)

(山田)今日は静岡のウイスキーのお話ですね。

(橋爪)静岡産のユニークなウイスキーのプロジェクトが進んでいるという話です。最初にこのプロジェクトのキープレーヤーとなる2つの機関がありますので、まずはそのご紹介をしようと思います。

その1。南アルプスの山中にある「井川蒸溜所」。山田さんはご存知ですか?

(山田)ニュースで聞いたことはありますし、ラジオでも取り上げていましたよね。

(橋爪)南アルプス登山のベースキャンプとも言える椹島ロッジのさらに奥にある、2020年秋から稼働するウイスキー工場です。南アルプス一帯の山林を所有する特種東海製紙(本社・東京)の子会社「十山」(じゅうざん)が運営しています。

(山田)十山という会社が運営してると。

(橋爪)実は私は6月に取材でこの蒸留所に行ってきたんですが、結構遠かったです。

(山田)でも、一応静岡市の葵区でしょ。

(橋爪)はい。葵区田代というエリアです。JR静岡駅から一般車両通行禁止区間を経て、車で約4時間20分。

(山田)えっ?4時間20分もかかるんですか!

(橋爪)途中で車を乗り継いだりしなければならないんですよ。工事区間があるので、そこは歩いて、先で待っている車に乗せていただいてようやくだどりつきました。

標高1200メートルにある井川蒸留所が舞台

(橋爪)こちらは標高1200メートルで、日本で一番標高が高いウイスキー蒸留所になります。大井川の源流に位置する名水源地「木賊(とくさ)」の湧き水を仕込み水に使っています。

日本洋酒酒造組合は「ジャパニーズウイスキー」の定義を、「国内で原酒を詰めてから3年以上熟成」と定めているんですが、今年の秋、いよいよこの基準をクリアした井川蒸溜所のウイスキーが世の中に出回ります。

(山田)3年の熟成を経て、今年の秋にようやく飲めるんですね。

(橋爪)そのように予定しているようです。続いて、キープレーヤーその2。静岡大の学部横断、産官学連携、文理融合の研究組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」。

(山田)以前、ビールの話のときに出てきましたよね。

(橋爪)通称「発酵研」です。2022年静岡大の学内で発足。人文社会科学部の先生もいれば、理学部、農学部、教育学部の先生もいるという学部横断的に横串を刺した研究組織で、中世の欧州で飲まれていたビールを再現するという研究が出発点でした。

それが最終的に、昨年の「家康公クラフト」というビールの発売に至りました。この話、覚えていますか?

(山田)覚えてます。静岡市の青葉通りでもイベントが行われたりしてましたよね。浅間神社などでもすぐに売り切れてしまってなかなか飲めなかったという話でしたよね。

(橋爪)静岡浅間神社や久能山東照宮など徳川家康ゆかりの場所から花酵母を採取し、それを使ってオリジナルのビールにしようというプロジェクトでした。

ホースヘッドラブズ(静岡市清水区)の「ペールエール」、アオイブリューイング(静岡市葵区)の「ゴールデンエール」、静岡醸造(静岡市駿河区)の「ゆずラガー」と3種類作り、結構すぐ売り切れてしまいました。このプロジェクトの中心になったのが「発酵研」でした。

今回はこのキープレヤー2者がコラボレーションします。つまり、発酵研が採取した植物由来の酵母でウイスキーを作ろう、ということなんです。ウイスキーの造り方はわかりますか?

(山田)う〜ん。トウモロコシ?

(橋爪)そういうウイスキーもあります。それはグレンウイスキーといいます。今回造るのはモルトウイスキーです。麦芽を糖化して発酵させるところまではビールと工程がほぼ同じなんです。

(山田)それを何回か聞いたんですけど、実際にどうなっているのかまではわからないんだよなぁ。

南アルプスの植物由来酵母は有望!

(橋爪)今回はその過程で、南アルプスで採取した植物由来の酵母を使おうということなんです。ウイスキーとビールの違う点は、その後に蒸留することですね。だからアルコール度数が高くなります。

現在、このプロジェクトが進んでいて、7月20日に静岡市葵区の市産学交流センターで途中経過を報告するイベントが開かれました。私も取材を兼ねて参加しました。やはりお酒の話ですし、蒸留所の話ですから行かざるを得ないなと(笑)。

(山田)橋爪さんはお酒好きですからね。

(橋爪)そうですね。蒸溜所や発酵研のメンバーの話もあったんですが、もう1人、静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターバイオ科の鈴木雅博主任研究員の報告がとても興味深かったので、紹介しますね。

鈴木さんは、発酵研のメンバーが静岡市葵区の井川地区で採取してきた山桜、木蓮、シャクナゲなどさまざまな植物や花などから分離した酵母から、糖を分解してアルコールを作り出す力が強い、ビール酵母に似た「サッカロミセス・セレビシエ」と属や種が同定された46種を分析しました。その中でも特に有望な4種類の酵母と、市販のエール酵母、市販のウイスキー酵母がどの程度発酵する能力、香りを出す能力に差があるのかを調べたんですね。

(山田)正直、僕はもうわからなくなっています(笑)。でも続けてください。

(橋爪)要するに4種類の野生の酵母が、普通にビールやウイスキーを造るための酵母とどれだけ力に差があるのかということを分析したということです。そうしたら、発酵開始から41時間後の数値を見てみると、野生の酵母4種類中3種類は市販の酵母2つより高いアルコール生産能力、発酵能力を示したんです。目を疑うぐらいの高い数値で、この酵母は有望だという話なんです。

鈴木主任研究員は「いろいろなバリエーションのウイスキーを製造できるポテンシャルがある」と結論付けていて、「これは南アルプスの豊かな自然のおかげだろう」と感想を述べていました。そしてです!

(山田)そして!

(橋爪)この日は6月上旬にこの酵母で仕込んだウイスキーの原酒を飲ませていただく機会がありました。大変貴重な時間でした。

(山田)最後はお酒好きの感想になってますけど(笑)。それはまだ熟成してない?

(橋爪)全然熟成してないです。

(山田)どうだったんですか。

(橋爪)若いお酒なので荒々しい感じというのは当然します。口に含むと野の草木の香りが口の中にぱっと広がります。舌先がじわりと溶けていくような心地よさもありましたね。すごく個性のある印象でした。試しに、ちょっと水を加えて飲んでみたら、急に甘みが開き出しました。これが不思議。でも芯の部分は崩れていない印象で、骨格の強さを感じさせるお酒だなと思いました。

(山田)じゃあ、これはいいお酒ができそう?

飲めるのは熟成期間を経た3年後?

(橋爪)ウイスキーとして売り出すためには3年間という熟成期間が必要なんです。なので、世に出るのは2027年ということになりますね。

その前に「ニューボーン」という言い方で売り出すケースもあるかもしれませんが、とにかく、南アルプスで取れた酵母を使ったウイスキーが南アルプスの工場の倉庫で眠っているというのは夢というか、ロマンがある話ですね。

(山田)今番組の公式X(旧Twitter)にリスナーさんから「静岡が酒王国になっているということですか」というメッセージが寄せられました。

(橋爪)本当にその通りですよ。何度もここでお話してるように、私は「静岡はクラフトビール王国」だと言い切ってますし、日本酒の世界では「吟醸王国」ですよね。古くから静岡酵母の醸し出す吟醸香というのは日本中で認められていますしね。そこへ持ってきて今度はウイスキー。これは面白い展開になると思います。

最後に告知をさせてください。今回ご紹介した発酵研の次回のイベントが10月13日午後2時から、静岡市葵区御幸町のレイアップ御幸町ビルで「南アルプスの水と酒造り」と題して開催されます。今回は日本酒のお話が中心になるようです。島田市の大村屋酒造場…

(山田)「おんな泣かせ」で有名な酒蔵ですね!

(橋爪)そうです。そこで杜氏を務める日比野哲さんが「大井川の水と酒造り」と題してお話くださいます。もともとこの方、静岡大大学院農学研究科を出ている異色の経歴の持ち主なんです。今日の話にでてきた沼津工業技術支援センターの鈴木雅博主任研究員も「清酒造りにおける麹菌の働きと静岡県オリジナル種麹について」と題して話します。

それから、静岡大文社会科学部の貴田潔准教授が「室町時代における酒造業と社会」をテーマに講演するなど、理系的な話と文系的な話が混在するイベントになります。ぜひ、インターネットで調べて参加してみてください。

(山田)橋爪さんはお酒が大好きじゃないですか。静岡も大好き。なぜこのお酒が造られたのか、どこで造られたのかということや、酵母のことまで知識を得た上で飲むというのは何か違いがあるんですか。

(橋爪)ありますね。こういううんちくがあればあるほど、それぞれのお酒に対しての愛着が湧くし、お酒の造り手に対する尊敬の念も湧きます。あとは、やはり静岡県外の人に薦めたくなるじゃないですか。

(山田)なるほど。

(橋爪)静岡県内で行われる音楽フェスに県外から来た友達などに、「このお酒はね」と歴史や造られている場所の環境といったストーリーを紹介しながら薦めると、「おお、そうか」と言って飲んでくれるわけですよ。

つまり、お酒も文化遺産なんですよね。特に日本酒は江戸時代から造っているところが相当数ありますから。

(山田)そんなお酒が静岡にはたくさんあるよということですね。次はウイスキーにも注目していきましょう。今日の勉強はこれでおしまい!

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