「1年分の生活費が入学で消える」こどもの貧困の実情をふまえた、国や自治体の教育支援の必要性
こどもの貧困を解消するための対策が盛り込まれた、「こどもの貧困解消法」が2024年6月19日に可決・成立。より具体的な対策や目的が示され、多くの人がイメージしやすい法案へとブラッシュアップされた一方、多くのこどもが直面する教育に関する支援策には課題も。当事者たちの実情をふまえた教育支援のあり方とは。
2024年6月19日、参議院本会議にて「子どもの貧困対策法」の改正案「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」(こどもの貧困解消法)が可決・成立しました。
法案に盛り込まれているのは、民間で活動する団体への財政支援の充実や当事者の意見を踏まえての対策の実施など、こどもの貧困を解消するための対策です。妊娠・出産時から、こどもが大人になるまでの段階に応じ、切れ目なく支援が行われるよう対策の強化が掲げられています。
対策から解消へ
こどもの支援活動をおこなう国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」は、今回の法改正にむけ、他団体と連携した共同提言を超党派「子どもの貧困対策推進議員連盟」に提出するなど、国会議員や省庁関係者に対しての働きかけを続けてきました。
同団体の「子どもの貧困問題解決事業」の担当スタッフで、国内事業部のプログラムマネージャーを務める田代光恵さんは、今回の改正により法律名が改称されたことも大きな変化だったと話します。
「こどもたちが貧困による困難を強いられることがない社会をつくることが法案のなかでも明記され、こどもの貧困の『対策』ではなく『解消』が目的であることが題名でも示されています。 対策を進めるだけではなく、その先にある解消を目指すことが法的な根拠として示されたことで、自治体職員からも『施策を進めるなかで解消を意識していきたい』といった声を聞いています」
「こどもの貧困」という概念についても、法案では解消すべき状態について簡潔に明記。具体的には「貧困により、こどもが適切な養育・教育・医療を受けられないこと、多様な体験の機会を得られないこと」と課題を提示したうえで、「こどもがその権利利益を害され、社会から孤立することのないようにするため」とその目的が示されているなど、多くの人が共通認識としてイメージできるような内容へと変更されています。
貧困率は改善傾向も、実際は…
一方で、厚生労働省が発表した調査によると、最新のこどもの貧困率は14%から11.5%に、ひとり親世帯に限ると48.3%から44.5%に減少しているなど、前回調査から数値上は改善傾向にあることもわかっています。
その要因として、共働きなどの増加で大人2人以上世帯の貧困率が低下しているなどの研究・分析はあるものの、田代さんは現場の実感として、より一層の厳しさを感じているといいます。
「見た目の数字では改善されていますが、こどもたちや保護者を取り巻く生活環境はより一層厳しさを増しているように思います。その事実は、当事者のみなさんを対象としたアンケートからも浮き彫りになっています」
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、経済的に困難な状況にある子育て世帯を対象に、中学・高校の入学に関わる費用の一部を支給する「子ども給付金~新入学サポート2024~」を行っています。その申請時のアンケートによると、こどもの卒業・新入学準備にかかる費用の捻出について、6割以上の保護者が「他の生活費を削る」と回答。
また、約3割は「借入(家族や知人からの借金、キャッシングやカードローンも含む)」と回答するなど、貧困によって教育の機会を得ることがギリギリの状態となってしまっていることがわかります。
こどもたちに学ぶ権利を
こうした保護者の状況を目の当たりにしているこども自身からは、「入学するのに1年分の生活費がなくなる」「勉強がしたいだけなのに、親にどんどんお金を出させなければならないことが辛い」といった切実な声が寄せられていました。
こうした実情をふまえ、「こどもの貧困解消法」にはまだまだ課題もあると田代さんは指摘します。
「衣食住や緊急時の対応もそうですが、提出した共同提言から改正法に盛り込まれなかったことのひとつに教育の無償化と教育費の負担軽減があります。現在の日本の教育システムには経済的負担が大きく、低所得世帯においてはこどもたちが学ぶことに深刻な影響も出ています。今回の改正法では、貧困状態にあるこどもに対する学校教育の充実や、そうした状況にある家庭の生活実態を踏まえたうえでの支援も教育支援として盛り込まれていたので、こどもたちが学ぶ権利を守るため、各所への働きかけを続けていきたいと考えています」