山田栄子(アン・シャーリー役)に聞く、アニメのオーディション秘話や公演の見どころとは 『赤毛のアン アニメコンサート』が開催
「世界名作劇場」シリーズ『赤毛のアン』の世界を、オーケストラ生演奏と共に楽しめる『赤毛のアン アニメコンサート』が2025年4月29日(火・祝)に、東京オペラシティ コンサートホールで全2公演が開催される。1979年に放送されたアニメシリーズで主人公のアン・シャーリーの声優を担当し、本公演に出演する山田栄子に全50話を放送したテレビアニメの思い出と、コンサートの見どころを聞いた。
■アンのセリフを読めることが楽しくてうれしかった
ーー2023年11月に世界初演された『赤毛のアン アニメコンサート』が、4月に再び開かれます。2年前の初開催から振り返っていただけますか。
2014年に『赤毛のアン -みどりやねの朝-』という舞台に出演していたのですが、その時はマリラ(孤児院からアンを引き取るカスバート兄妹の妹)をやっていたんです。だから前回、アンをやると聞いたときは、「久しぶりだな。アンの声が出るかしら」って思って、ボイストレーニングに通いました。
ーー原作は1908年に発表されて以降、36カ国で翻訳され累計5000万部以上出版された、ルーシー・モード・モンゴメリのベストセラーです。日本では1979年にテレビアニメとして放送がスタートしました。今回の公演に合わせて2月から、TOKYO MXで再放送されています。長く愛される秘けつはどんなところにあると感じていますか。
世界で愛されているモンゴメリさんの作品。それだけでも素晴らしいのに、そこに高畑(勲)さん(監督・脚本)が入られて、音楽は三善晃さんと、映像も音楽も素晴らしい芸術になっているところです。初めてテレビのオンエアで観たときは、「小さい子が見ているのかしら?」「分かるかな。大丈夫かな??」って思いましたが、高畑さんが作り上げた世界観が素晴らしいので、見てくれる人が増えていったのかなと思います。
ーー山田さんにとって、『赤毛のアン』のアン・シャーリーは、初めての主演作でもありました。
右も左も分からなかったわたしを、一生懸命育てて下さったのが、録音監督の浦上靖夫さんでした。当時はまだスタジオがなくて、浦上さんの事務所に毎週のように練習に行っていました。絵コンテを見ながら「このときのアンの気持ちは、こういう感じ」と説明をしていただいて、それをやっていただいたからできたと感謝しています。
ーー浦上さんはどんな存在でしたか。
いつも優しいけれど、時々わたしがアンのオーディションを受けたときのテープを聞かされて、「君のこの声を聴いて、制作陣が作画をしたんだ」と言われて、それがプレッシャーでした。
ーー制作チームは、山田さんの声からインスピレーションを膨らませていったんですね。オーディションはどんな雰囲気だったのでしょうか。
最初にオーディションを受けたときは、原作を知っていましたがまだ読んだことはなかったんです。部屋に入ったら単行本を渡されて「こことここを読んで」と言われ、原作を読んだんです。1時間くらいでしょうか。当時は劇団に所属していて、子供のミュージカルでは主役を任されたこともありましたが、本公演では端役でしたから、アンのセリフを読めることがうれしくて、緊張で真っ白になることもなく、「楽しい!!!」って夢中で読んでいました。
ーーそして最終オーディションに進まれた。
はい。2回目のオーディションに呼ばれて、正直「受かるかもしれない!」っていう嫌らしい根性がありました(笑)。ちゃんと準備をしなきゃって単行本を買って読み込んで。物語の一文に『鈴が鳴るような声でマシュウに言った』っていう一文があって、鈴が鳴るような声ってどんな声なんだろう? って考えました。わたしは声が低かったので、中学、高校生のときから、来る役はほとんど男役。だから“鈴が鳴るような声”を家でしっかり練習したんです。
ーーしっかり準備をされて臨まれたと。
そうなんです。受かる気まんまんだったんですけど、浦上さんに「君、この間来た人? え、全然違うんだけど」と言われて……。
ーーショックですね。
忘れられないひと言です。「アンは、この世界だ!!」と思って練習したのに、浦上さんたちが思うような声ではなかった。もう浦上さんたちが望むような声を出すことができなくなっていたんです。
ーー何が違ったのだと思いますか。
1回目は好き勝手に読んでいたんですよね。「楽しいな!!」っていう気持ちのまま読んでいた。でも2度目は違っていて……。「今日はもういいよ」と途中で言われて、「あぁ、ダメだったんだ」って思ったら、涙がブワーッと出てきて、追い返されたんだっておいおい泣きながら帰ったんです。
ーー最初のオーディションが1時間以上をかけて、2度目は10分ほどで切り上げられたらダメだったって思いますよね。
そうなんです。大分経ってから、受かったと知らせが来たときはうれしかったですね。実はこれは裏話ですが、合格後に収録が始まって浦上さんとか、スタッフの方と飲みに行くようになってから、浦上さんに「泣かれたときは、この子は泣いてアピールするんだ。実は嫌な気持ちがしたんだよね」って言われたことがありました。
ーー選ばれた経緯などは浦上さんに聞いたのでしょうか?
島本須美ちゃんと、わたしの二人が最後に残ったと聞きました。須美ちゃんの声は、聞き惚れちゃうほど、わたしも好きなんですけど、マリラの耳に引っ掛かりのあるような、わたしの変な声の方が良いって。追い返されたのにって思ったけど、うれしかったですね。
ーー高畑さんとは、オーディションで初対面だったのですか。
いいえ。高畑さんと最初に会ったのは、第1話を録るときでした。目をやるといつも頭をかいている、ずっとそういうイメージでした。
ーー作品について、またアンの役作りについて高畑さんから指導やリクエストはありましたか?
アンについては、浦上さんと作っていきました。1回だけ高畑さんが録音室に入ってきたことがありました。(レイチェル)リンド夫人に怒るところで、何度やってもできなくて、イライラされたのか「オーディションのときの感じでよろしく」と言われました。先ほどもお話しした通り、浦上さんからも何度も「君の声に合わせて作った」と言われていたので、自分のテープが一番のプレッシャーでした。
■アニメが最終話を迎えたときは「人生が終わった」と思った
ーーテレビアニメは全50話が放送されました。思い出に残っている収録を教えてください。
第3話の終わりで、マリラがスペンサー夫人のところにアンを追い返そうと、馬車に乗せる場面があって、アンが遠くに見えるマシュウに向かって「おじさーん!」って叫ぶシーンがあるんですけど、その収録のときにわたしが風邪気味で、何度やってもみんなが思う「おじさーん!」っていう声が出せなくて、「来週までの宿題ね」と言われたことがあったんです。宿題になったのはそれが初めてで、それが一番苦しかった収録の思い出です。
ーー収録時の現場の様子はどんな感じでしたか。
そうですね。ナレーションは羽佐間(道夫)さん、マリラは北原(文枝)さんと大先輩に囲まれていたので、現場では誰とも口をきけずに、縮み上がっていました。それを見た浦上さんが「北原さんのところに、一緒に台本を届けに行こう」と誘ってくださって、毎週1回、ご自宅にうかがう日々が始まりました。いつもケーキを用意して待っていてくれたのがうれしくて。時々、(夫の)安部徹さんもいて、怖そうだなぁって思っていたのですが、本当はとっても優しい方で。北原さんのところにお邪魔するようになってからは、現場でも少しずつ話ができるようになって、そういう空気作りも浦上さんが気を配ってくださっていました。
ーー高畑さんとのエピソードで印象的だったことを教えてください。
最初の回はちゃんと絵がある状態で収録をしていたのですが、2話目から絵が間に合わなくなるということがありました。それで浦上さんと「もっと絵が入るようにしてもらおう」って、日本アニメーションまでお願いに行ったことがありました。制作現場に行ったら、何日も寝ていない様子の、頭が鳥の巣みたいにボサボサの高畑さんが、先ほどお話ししたように、頭をかきながら「あのシーンを、どうしたら良いか分かんなくて」と言いながら出てきたんです。「何を言っているのか、全然分からないんだけど……」って心の中で思っていたら、浦上さんが「栄子ちゃんから、もっと絵を入れてほしいってお願いしたら」って言われたけど、「そんなの言えない」と思って……。あとからよく考えたら、その寝ていない姿そのものを見せるために、連れて行ったのかなって思います。
ーー寝ていない高畑さんの壮絶な姿も印象的ですが、浦上さんがその姿を見せて山田さんに“気づき”を与えるというか、良いお話ですね。
そうですね浦上さんには、声優としての心構えなど、本当に色んなことを教わりました。それ以降、そんなことは一度もなくて、本当に恩師と思っています。
ーー少し話が戻りますが、絵がない状態での収録はどのようにしていたのでしょうか。
1話目はキレイな絵があったんですけど、2話目から絵が少しになって、3話目は絵コンテに合わせて声を収録していました。そのうち、線だけになったんです。アンは赤、マシュウは青、マリラは緑って。初めてだから、それが普通だと思って、線が消えるところが息継ぎをする場所なので、線に合わせて声を入れたのですが、その後の現場では線だけのことはなかったので、特殊だったんだって気づきました。
ーー線に合わせて声を収録するってすごいです。
それが、アン以降はきちんと絵がある状態で収録するようになったために、息継ぎをする場所が分からなくて、戸惑ってしまいました。他の現場で「1年も主演していたのに、なんでできないの?」ってあきれられてしまうこともありました。
ーーたくさんの思い出が詰まった作品の最終話を迎えたときはどんな気持ちでしたか。
人生が終わったと思いました。大げさと思うんですけど、全てが終わったと思いました。浦上さんのお宅にお邪魔して、奥さまに手料理をごちそうになったりもして、もうそういう時間もなくなるんだ。もう二度と会えなくなるんだって、そんなことないんですけど。感謝を伝えなくてはと、お家に挨拶に行って、おいおい泣いてしまったことがありました。
ーー放送の反響はどのように受け止めていましたか。
「あれは、アンじゃない」っていう言葉をたくさんいただきました。”鈴が鳴るような声“じゃないですから、でも”変な声“だったことが選ばれた理由だったので。わたしが決めたんじゃないもんと思いながら続けていました。ショックというよりも、「あぁ。そうだよね。分かるよ」っていう気持ちでした。
ーーアンは、山田さんにとってどんな存在ですか。
アンはわたしの分身です。わたしはあそこまでがむしゃらじゃなくて、躊躇してしまうこともあるから、憧れる部分もあるけれど。想像力でプラスに考えて生きることができる素晴らしい女性。『赤毛のアン』がなかったら、いまのわたしはいません。神様がもしいるとしたら、「たまには、ちょっといたずらしちゃおう」って、わたしを選んだのだと思います。そのラッキーに感謝しています。
■再演は「どうして涙が出るんでしょう」っていう気持ち
ーーその『赤毛のアン』をテーマにしたコンサートが4月に開催されます。会場では、現代音楽界の巨匠・三善晃さんが作曲した主題歌「きこえるかしら」「さめない夢」などの名曲をオーケストラが生演奏。アンがグリーン・ゲイブルズにやってきた日から、最愛の養父・マシュウとの別れまでを描いた全50話を特別編集した映像をスクリーンで上映します。2023年の公演は満席になる盛況ぶりでしたが、2度目の開催となる今回の見どころを教えてください。
主題歌、挿入歌を担当された大和田さんは前回に引き続き、歌唱してくださいます。わたしは大田和さんが歌う「あしたはどんな日」が大好きなので、とっても楽しみです。今回はナレーションの羽佐間さんも出演されるので、豪華ですよね。あとオーケストラの編成が変わって、40人体制になると聞いたので、素晴らしいコンサートになると思います。会場の東京オペラシティは、小さいホールで以前三島由紀夫の舞台をやったことがあって、「向こうには大きい会場があるな」と思っていた憬れの舞台。いまからとても楽しみです。
ーー映像もアンとマリラとマシュウが家族になっていく過程にフィーチャーした内容になると聞きました。最終話の手紙を読むシーンも再現されますね。
はい。音楽を聞いたり、セリフを口にすると当時のことを思い出します。再現のほかに、前回好評だったトークコーナーもあります。「感動した」「良かった」という声をSNSやファンレターでいただいて、とてもうれしかったです。あと大阪や北海道などから「地方にも来て」と言っていただいたこともありがたかったです。いつか全国でも展開できれば良いなって思います。
ーー年齢層も広かったと聞きました。
そうなんです。わたしも息子のお嫁さんが見に来てくれました。感動して、DVDも全巻買って、「全部見ました。すっかりファンになった!」と言われて、「千葉にある、カフェにも行きました!」って報告されました。何回も再放送されていますし、再放送で新しくファンになる方も多いと聞いたので、うれしいですね。
ーー楽しみにしているファンへメッセージをお願いします。
まさか再演されるなんて! という思いでいます。アンじゃないけど、「どうして涙が出るんでしょう」っていう気持ち。感謝しかありません。大和田さんの素晴らしい歌、オーケストラの演奏も楽しみです。またあの感動を味わえるなんて、いまからドキドキワクワクしています。ぜひ会場に足を運んでいただいて、一緒にその瞬間を楽しむことができればと思っています。
赤毛のアン・コンサート 開催告知CM 2025年4月29日(火・祝) 東京オペラシティ コンサートホールにて♪
『赤毛のアン アニメコンサート』とは
“高畑勲・普及の名作『赤毛のアン』が音楽と映像によって甦る”
1979年に放送された『世界名作劇場』シリーズ『赤毛のアン』。モンゴメリの名著を高畑勲監督の手で映像化したアニメは、いまも世代を問わず多くの人々の胸をふるわせている。
その『赤毛のアン』の世界を、アニメ映像×オーケストラ生演奏でコンサートホールに再現するのが『赤毛のアン アニメコンサート』。2023年に開催された前回公演は即完売の大盛況。2025年4月29日(火・祝)の今回は、前回よりもグレードアップ。大迫力のオーケストラ、さらに充実の内容で開催される。
昼公演は完売間近、夜の部チケットもお早めに。
■おすすめポイント!
・アニメ本編全50話をストーリー仕立てに再編集した特別映像!
・アン=シャーリー役・山田栄子による最終話ラストシーン完全再現!
・大和田りつこによる主題歌歌唱&名曲の数々を生演奏でお届け!
・ナレーション担当・羽佐間道夫がトークショーにも出演決定!
・オーケストラ編成も前回公演からさらにスケールアップ!
【前回コンサートのお客様の感想】
「今まで見たフィルムコンサートで最高の出来でした。アンの成長、プリンスエドワード島の四季、人々の暮らしなど映像と音楽が放送当時に見ていた気持ちを思い出させてくれました。進行、制作等の隅々まで愛情を感じるコンサートでした。最初から涙腺が緩みっぱなしでした。ダイアナとの出会いのシーンは印象深く残りました」
(50代男性)
「こんなに泣いてこんなに感動したコンサートは初めてでした!すごくよかったです! アニメと合わせての演出、本当に素晴らしかったです。更に「赤毛のアン」が好きになりました。また大阪などでもやって欲しいと思いました。他の世界名作劇場の作品もこんな風にコンサート等 して頂けたらすごく楽しいなと思います。いくつかまとめてでも……。大変感動的で幸せでした! ありがとうございました」
(50代女性)
「大和田りつこさんの歌声が今も昔も全く変わらないことに大感動しました。山田栄子さんも可愛らしく素敵でした。オーケストラに心が震えまくりました。素敵な歌声ありがとうございました!」
(60代女性)
取材・文=翡翠