『千と千尋の神隠し』のモデルになったともいわれる、長野県遠山郷の霜月祭のごちそうは「サンマ飯」
長野県南部、南アルプスの麓にある地域・遠山郷。その文字どおり、遠い遠い山の中にあります。公共交通機関を使うと、東京・新宿からバスを乗り継いで最短でも片道5時間半ほどかかる。そんな山里では、毎年12月前半に8カ所の神社で霜月祭(しもつきまつり)が順次行われます。地元の人たちは1年をこの霜月祭に全精力を注いでいると言っても過言ではない! その霜月祭の際、行事食として食べられるのが「サンマ飯」なのです。イラストを拡大して見てね~。
なぜ、塩サンマ?
交通と冷凍技術が発達する前の時代、遠山郷へ海の幸を運ぶのは至難の業。魚は腐敗を防ぐため塩漬けにして運ばれました。
特にサンマは、霜月祭の時期である秋から冬に遠州灘沖で獲れたちょうどよく脂が抜けたものを、遠州(今の浜松)から秋葉街道を使って運ばれたのです。
11月くらいからサンマは南下していきます。霜月祭はもともとは旧暦の霜月に行われていたんです。
どんな味わい?
味つけは酒と醤油のみ! シンプル イズ ベスト。
ショウガは入っていないのに、臭みがなくてほくほく♡
サンマの不漁
サンマの不漁が続く近年。霜月祭用の塩サンマを準備するのも大変!
2023年の木沢・正八幡(しょうはちまん)神社の霜月祭では、祭り前日になり、お願いしていたスーパーに塩サンマが入荷しないことが発覚!! みんなで手分けして、近隣の町のスーパーを夜中まで探し回ったそう。近隣といっても、70kmほど離れている伊那市まで行ったというからビックリ!!
それでもやっぱり、霜月祭にとってサンマ飯は大切な存在なのだなぁ~と。2025年は豊漁だったから大丈夫……かな?
「霜月祭りに関わる人たちの中には、約1カ月前から4本脚の肉を食べない人もいます。なので、すべて終わった日にみんなで焼肉などを食べに行くこともあります」(地元民)
霜月祭って!?
本来は冬至がめぐってくる旧暦の霜月に行われていました。
冬至を越すと日中の日照時間が増えることを太陽の復活として、全国の神様と地元の神様と地元の人たちが夜どおしたわむれ、祝う祭りなのです。
ちなみに『千と千尋の神隠し』で、神様たちが温泉に入るシーンはこの霜月祭がモデルになっているともいわれています。
個人的に木沢・正八幡神社の超アクロバティックな四面(よおもて)が大好き。面をつけている人(神)がボールのように飛び跳ねまくります。
取材・文・イラスト・写真=松鳥むう
松鳥むう
イラストエッセイスト
離島・ゲストハウス・民俗行事・郷土ごはんを巡るコトがライフワーク。著書に『トカラ列島秘境さんぽ』『粕汁の本 はじめました』(ともに西日本出版社)、『むう風土記』(A&F)などがある。